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さあ、旅立とう

 私はいくつかのエッセイに書いたように元々今の土地に住んでいたわけではない。実家に住むのが難しくなり、今住んでいる横浜へと引っ越してきた。
 どこでもよかったのだ、行き先は。決め手は福祉関係が充実している、都心へのアクセスが良いなどがあるが、何よりも憧れの土地だったからかもしれない。

 横浜はご存知の通り横浜港が開港された土地であり、明治の時代に西洋文化が流れ込んできた場所。故に私の大変好むあの時代の西洋建設が沢山ある。中華街に氷川丸、港の見える丘公園、ホテルニューグランドには実際に泊まったこともある。…あとは中華街くらいしか行っていないが。だって訪れる人がみんな行きたがるんだもん。
 ニューグランドは素晴らしかった。ホスピタリティはもちろん、本館のあの大階段やそれに続くロビーの重厚さときたら、同じ趣味の友人と何時間もそこに居続けてその美しさを語り合って時の人になりきったような気分になる。それほど高くないプランもあるのでぜひお勧めしたい。連泊で部屋で朝食をいただくのがよい。夜はシーガーディアンでカクテルを。

 話が逸れた気がするが、とにかく私はこの土地を愛している。何もかもがほどほどでいいのだ。
 そして私を知っている人が誰もいない。これほどの開放感があろうか。

 私は元々人とはかなりタイプの違う服装やメイク、髪型を好むので地元ではかなり目立って家族からもあれこれ言われた。転職すればそれもあっという間に広がる。
 温かい人間関係といえばそう言えるかもしれないし、近隣には大好きなスポットもたくさんある。私の今の感性の原点になったものも。

 それでも私は苦しかった。離れてみて初めて実感した。苦しかったのだ。
 出る間際にはすでに苦しくなり始め、私はわざと遠い土地を選んだ。家族も長く付き合った友人も簡単には来れない。何かあれば1人で全てをやらなければいけない。
 それでも崖っぷちに立つことを覚悟して私は真の自由を得た。もちろん良いことだけではない。警察を呼ぶ羽目になったこともある。それでも言える。

 自由になった私は今までの人生で最良の選択をした。
 当然生まれた土地に生涯住むことも素晴らしいと思う。それはそれで美しく良いことなのだ。けれど私は生まれ落ちたあの時からあの土地に住んでいることに違和感を感じていたのだと思う。

 六畳の居室、小さなキッチンに線路と道路の機械が起こす大きな音、ああ、天国だ。

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