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祖母と見た月を今でも覚えている

祖母と見た月を今でも覚えている。

祖母は行事を大切にする人だった。
毎日仏さまを掃除してお花を生けていたし、神棚の榊もかえていた。
お盆になれば潜りに行ってサザエやアワビを採ってお供えしていたし、仏さまと無縁さまに供えられる御膳は手作りのお供物がきれいに並べられ、それは小さくて可愛いおままごとセットのようだった。
お正月、節分、雛祭り、端午の節句、夏越しの大祓、七夕、お彼岸、大晦日。

我が家のまつりごとは祖母とともにあった。

『あきこ、こっちへこーよ』

そう呼ばれて行った縁側は夜なのになんだか明るかった。

『こっちきてお月さんみらっせ』

そうか今日はお月見の日か。

空にはまんまるのお月さま。
お星さまもたくさん光っている。
街灯もない田舎にある我が家の庭は月明かりであかるかった。

縁側にはどこからとってきたのか背の高いススキと、隙なく三角に積み上げられたお団子。おばあちゃんが作ったのかな?どうだったっけ。

『耳たぶくれぇの硬さにするんだよ』

微かによみがえるおばあちゃんの声。
やっぱり一緒に作ったのかな?あれ?でもこれは夏に白玉を作ったときのことだったかしら。どんな風に食べたっけ?記憶の糸を辿っても、どうもにも思い出せそうにない。


ーーー自分で作ってみようか。


料理が苦手で普段だったら自分で作ろうなんて思いもしないけど、なぜだか作ってみたくなった。娘と一緒に。
おばあちゃんが私と一緒に作ってくれたように、私も、娘と一緒に作ってみようか。

googleで調べてみたら案外かんたんにできそうだ。
水と粉を混ぜて、こねて、茹でて。
あんこにきなこ、どれも保育園の給食で出ているから娘も食べられそう。
娘の大好きなチョコレートをかけて食べるのもいいかもしれない。

今日はさっそく材料を買ってきた。
今年のお月見の前に一回は練習しておこう。
当日失敗しないように。
まもなく3歳、お手伝いしたがりの娘は喜んでくれるだろうか。


『お月さんきれいだね』
『団子も食べろよ』

ススキと団子とお月さまとおばあちゃん。
あれから何回お月見したかは覚えていない。もしかしたらこの一回だけだったかもしれない。
これからは娘とのお月見の新しい記憶が増えてゆくけれど、それでも私は覚えている。おばあちゃんと見た月がまんまるで明るかったことを。

たぶん、ずっと忘れない。



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