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赤ちゃんはわけみたま

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私は未婚のアラフォーで、妊娠6ヶ月。相手は16歳年下の男の子。態度をはっきりさせない彼氏に私がとった行動とは。※このマガジンはフィクションです。
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#はぴもよ

43 一人で産む

「ちょっと!どうして僕に相談しないで何でも決めちゃったの!」 引っ越し先でようやく段ボールが片付き、新しい家に慣れ始めた頃、16歳年下の彼氏が焦った様子で電話をかけてきました。 何通もメールを送っていたようですが、ゴミ箱に直行する設定にしていたので、全然気が付きませんでした。 「え?だってアナタが決断しないからじゃん。もういいよ。私一人でも産めるから。」 私はそう言って彼氏を突き放しました。 一人で産む。そう決めた以上、今や彼氏はジャマでしかありません。 むしろ、

42 手離す

私は都会に戻ると、早速出産にむけた準備を始めました。 今持っている現金。 手放したり節約することで減らせる出費。 出産にかかる費用。 産んだ後にかかるオムツやミルク。 働けない期間、収入がない期間。 公的な支援。 それらを全部計算しました。 それから住む場所を決めて、引っ越しの手配をしました。 アクセサリーや美容機器の類はヤフオク!やメルカリで売却しました。 車は楽天の買取に申し込んだところ、オークションで予想外に高く買い取ってもらえました。 アニメのD

41 1円たりとも

いとこのお兄ちゃんは、私が受け取る準備ができたのを見計らったかのように、再び話し始めました。 「可愛そうだけどな、犬とネコは誰か貰い手を探して引き取ってもらった方がいい。犬とネコの面倒を見ている余裕はないはずだよ。」 「クルマは手放して、税金だの駐車場だの余計な出費がないようにしよう。」 「多少不便でも、家賃の安い所に引っ越そう。近くにスーパーがあればいい。」 「赤ちゃんを産むにも、産んだ後もお金が必要だから、1円たりとも無駄にしないでな。」 「美容室だのネイルだの

40 両親の愛

「俺はな、普段は出張ばっかでな、事務所を不在にしていることが多いんだわ。でもなぜか今日はキャンセルが出てな、何をするわけでもなく、事務所にいたんだよ。」 「アナタが来るなんて全然予想していなかったし、来ると分かっていても何もしてやれん。できることと言えば、話しを聞くだけなんだな。」 「でもさ、来た時のどんよりした目が、今はキラキラ輝いているから不思議だよね。」 私は亡くなった両親が、いとこのお兄ちゃんの口を借りて、私にアドバイスをしてくれた。そんな気がしてきました。

39 見えない存在

本家の伯父さんの会社を継いだいとこのお兄ちゃん。お兄ちゃんのお話はまるで、袈裟を着たお坊さんの説法のようでした。 それは不思議と心に響くお話でした。 「神様仏様には、手足とか、口がないんだな。だから神様仏様がこの世で何かを実現したいと思ったら、生きている人間に頼むしかないんだな。」 「でも神様仏様とお話しできる人はいないから、言いたいことが書かれている本をさりげなく置いておいたり、テレビに出ている出演者にしゃべらせるようにするとか、色んな手を使って伝えてくるんだな。」

38 決断

いとこのお兄ちゃんのお話を聞いているうちに、だんだん自分が何をすべきかが分かってきました。 私がすべきことは「決断」です。 それはお腹の子のため、神様のわけみたまのためにも必要なことなのです。 腹をくくって決断し、実行する。 そうやって覚悟が決まると、重い扉が少しずつ、少しずつ開いていく。 そんなシーンが頭に浮かびました。 お兄ちゃんは私の目をジッと見つめると、ニヤッと笑って「そう、それでいい」と言いました。 お兄ちゃんはお兄ちゃんなりに、色々な経験を積んできて

37 人という字

いとこのお兄ちゃんは一旦話を止めると、何かを思い出したかのように「あぁ」と声を上げると、再びお話を始めました。 「金八先生ってあったよね。夕方の再放送、一緒に見てたよな。」 私はウンウンと頷きました。 お兄ちゃんの膝の上で、松浦という不良少年が放送室に立てこもっているシーンをドキドキしながら見ていたのを思い出しました。 「金八先生の授業でな、『人』という字の話があるな。あれは有名な話だけどな、実はあの話、間違ってるんだ。」 私はえっ?と思いました。あの国民的ドラマの

36 腹をくくる

2車線から1車線に車線が減るところで、道路に斜め右の矢印が描いてあるのに、そこまできてもなお、右車線に移れずに止まってしまった車。 運転席には彼氏。その彼氏を、助手席から私が責め立てている、そんなシーンが頭に浮かびました。 「そこでアナタは腹をくくらなきゃなんないのよ。『もういいから。アタシが運転するから』って運転を替わってもらうとか、『もういいから。病院まで歩いて行くから』ってクルマを降りて歩くとかね。」 「とにかく彼氏を頼らずに自分で何とかする。そんな感じで腹をくく

35 立ち往生

いとこのお兄ちゃんは「一旦休憩しよ」と言って、お茶を入れてくれました。 無骨なコーヒーカップに番茶という組み合わせでしたが、それは子供の頃、熱を出してうなされていた時に、お母さんが飲ませてくれた番茶と同じ味と香りでした。 ちょっと落ち着くと、お兄ちゃんは再び話し始めました。 「彼氏が態度をはっきりさせなくて困ってるんだね。今の状況は、彼氏の運転する車の助手席にアナタが乗っている状況なんだな。二人して病院に行く道を急いでいる、そんな状況だ。」 お兄ちゃんは車の運転が多い

34 必要な経験

いとこのお兄ちゃんは続けます。 「俺たちもな、神様のわけみたまなんだな。だからな、喜怒哀楽が多い、苦労の多い人生というものはな、それだけ学びも大きいんだな。」 「ワインで言えばな、それだけキレイな透明になってあの世に帰るということなんだな。」 「だからアナタはものすごく濃密で、いい人生を送っているんだよ。」 私はお兄ちゃんのその言葉を、じっと噛みしめていました。 確かに私は他の人と比べたら、苦労している方だと思います。 両親の不幸な死、本家で過ごした日々、施設、就

33 男の子の証

私は大きくなってきたお腹を撫でながら、いとこのお兄ちゃんの顔を見つめていました。 お兄ちゃんは若い頃、ちょっと乱暴な感じの男の子でしたが、今のお兄ちゃんを見ていると、作務衣姿のお坊さんが説法している、そんな感じです。 「今の時代、政情不安があるよね。伝染病だってあるし、地震や災害もある。事件や事故に巻き込まれることもある。」 「今生まれてきても、この先ちゃんと育ててもらえるかどうかも分からない。それでもこの子は産まれて来るんだから、勇気があるんだよ。」 「この子はきっ

32 ボランティア

いとこのお兄ちゃんから「赤ちゃんは神様のわけみたま」という言葉を聞いた私は、思わず自分のお腹を撫でていました。 私のお腹の中には神様が宿っている。これまでそんなこと考えたこともなかったからです。 いとこのお兄ちゃんはお話を続けます。 「世の中色んなボランティアがあるけどな、究極のボランティアは何だと思う?それはな、赤ちゃんを産んで育てることだ。これ以上のボランティアはないよ。」 私はお兄ちゃんの目をじっと見つめて頷きました。お兄ちゃんが次に何を言わんとしているのか、私

31 赤ちゃん

いとこのお兄ちゃんはお話を続けます。 「人はこの世に生まれてきて、様々な喜怒哀楽を経験する。そうするとどうなるのかというと、磨かれるんだな。磨かれるような経験というものは、肉体を持って生まれてこないとできないことなんだな。」 「そうやって色んな経験を積みながら大きくなって、年を取って、やがてあの世に帰って行く。そうなるとな、最初に神様がこぼしたワインがな、濁りや不純物が取れてな、すっかりキレイな透明になっているんだよ。」 「そうやってキレイな透明になってグラスに戻ってき

30 この世

私はいとこのお兄ちゃんのお話を、不思議な気持ちで聞いていました。 私の出産に関して、抱えている問題を解決する具体的な方法を教えてくれるのかと思いきや、急に神様のお話を始めるなんて、全く予想外の展開でした。 困惑する私をよそに、お兄ちゃんはお話を続けます。 「地上というのは不便な場所なのね。生きていくためには食べ物が必要だけど、食べ物を買うためにはお金がいるよね。お金を手に入れるには仕事が必要だけど、仕事ができるようになるには学校で勉強しなくちゃならん。」 「学校で同級