『桜は散り、歯車が止まる』第12話
第12話 『あなたは何も知らない』
悠:「じゃあ、○○くんがさくたんのことを
推し始めたきっかけとかを聞こうかな?」
○:「推し始めたきっかけですか。」
○○は指を顎に当てて考える。
悠:「そう。」
桜:「桜も聞いたことないかも!」
○:「推し始めたきっかけは...お披露目の時の写真。」
桜:「お披露目の時?」
○:「ほら、5期生の特設サイトにある
教室で撮った写真があるでしょ?
あれでかわいい子だなと思って...
そこから推していって...って感じです。」
ライブのパフォーマンスとか
ミーグリとか色々あるけれども原点はそこだった。
悠:「なるほどね〜。」
北川さんはうんうんと頷く。
悠:「さくたんとこうやって付き合ってて幸せ?」
○:「もちろんです。
彼女と過ごせるのは本当に楽しくて
かけがえのない幸せです。」
誇張なんかなかった。
本当に幸せだった。
桜:「○○...」
桜は僕の言葉に頬を赤くしながら照れていた。
悠:「じゃあさ...」
悠:「○○くんはさくたんが
この世界を戻したいと言ったらどうするの?」
○:「えっ...?」
桜:「北川さん、どういうことですか...」
予想外の質問に僕たちは動揺する。
悠:「そのままの意味だよ。」
桜:「私は絶対にそんな事言わないです!
戻したいなんて思わないです!」
桜は語気を強める。
悠:「仮定の話だよ?
○○くんは今の生活が幸せと言っている。
さくたんが戻したいと言った時に
その行動を止めるのかどうか気になったの。」
○:「そういうことですか...」
僕は数秒だけ考えて、こう言った。
○:「僕は桜の意志を尊重します。
僕が口出しすることは何もないです。
桜が決めたことなら、僕は従います。
それがファンの役目だと思っていますから。」
桜:「○○...」
悠:「そっか。本当にさくたんのことが一番なんだね。」
と彼女は優しく微笑んだ。
○:「ですね。」
悠:「それじゃあ、私はこの辺で。」
と言い、悠理さんは立ち上がる。
桜:「え?もう帰っちゃうんですか?」
悠:「聞きたいことは聞けたからね。
それにバスラで覚えなきゃいけないこともたくさんあるから。」
そう言い、北川さんは帰っていった。
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・桜サイド
桜:「(なんで、北川さんはあんな事を...)」
○:「桜、どうしたの?」
桜:「○○は...もしも、桜が
乃木坂に戻る決断をしたら
本当に止めようとしないの?」
○:「止めないよ。」
桜:「なんで⁈
この世界を元に戻したら
歯車が外れる前まで時間が戻るんだよ?
○○と過ごした日々もなくなるんだよ⁈」
私たちがカップルとして過ごした日常も消える。
記憶も何もかも消える可能性が高い。
彼は今の生活が幸せと言っていたのにどうして...
○:「だって...桜が決めたことでしょ。」
桜:「○○の意志を聞いてるの!」
○:「僕の意志は変わっていないよ。
桜が決めたことを僕は受け入れる。
だから、こうやって、桜に協力してる。」
彼の表情からこれが彼の意志ということが伝わったから
私は何も聞かなかった。
○:「別に僕のことは気にしなくていいよ。」
と私の肩をポンポンと軽く叩き、彼はお手洗いへ向かった。
桜:「○○...」
一人になった部屋で私は佇む。
桜:「なんで...こんなに複雑なんだろ...」
この状況は嬉しいはずなのに
彼と体を重ねて、幸せだと思っていたはずなのに
なんで、こんなにモヤモヤするんだろ...
彼との日々は本当に幸せだ。
この日々は失いたくない。
でも...
桜:「乃木坂...」
乃木坂のことを徐々に意識するようになっていた。
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・悠理サイド
悠:「...」
私はテレポーテーションで部屋に戻り、椅子に座っていた。
悠:「さくたん...」
私は彼女から相談された。
もう限界で乃木坂から離れたいと。
その当初はこんな世界になると思わなかった。
さくたんが最初から居なかったみたいに変わっていたから驚いた。
美月さんはさくたんが乃木坂から消えることに反対していた。
もっと、ちゃんと考えたほうがいいとずっと言っていた。
でも、さくたんの意志が固く、折れた...。
???から聞いたけど、
美月さんは和ちゃんに少し協力したらしい。
やっぱり、美月さんはさくたんを乃木坂に戻したいと考えている。
私は中立の立場をとっている。
???と違って、
和ちゃんたちがさくたんを探すことを止めないし
美月さんと違って、和ちゃんたちにあまり協力しない。
○○くんがどちらの立場なのか気になっていたけど
今日で分かった。
彼は美月さんと同じ立場だ。
でも、あからさまに協力するわけではなく
気づかれないように協力している。
美月さんが和ちゃんたちに
協力することを読んでいた可能性が高い。
悠:「彼と今度会おう...」
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・和サイド
和:「桜がいる17分間のMVだ!」
山下さんから貰った端末でMVを部屋で観ていた。
菅:「これが当たり前のはずなのになんか...感動する。」
一:「うん。桜のダンスは美しいよね。」
五:「やっぱり、桜はtheアイドルだよね。」
とみんなで感想を話していたが...
和:「ここから、桜が消えた理由を見つけろって...」
本来の目的は桜が消えた理由を見つけること。
山下さんは私たちを信じて、この端末をくれた。
菅:「分かんないよ...」
でも、何も分からなかった。
それにバスラの練習もあるから長時間探せない。
和:「今日、これ以上探すのは難しいかな...」
菅:「うん...。夜も遅いし...」
と今日はこの辺で切り上げることに...
咲月と美空は振りを覚えたいからとすぐに部屋を出ていった。
和:「茉央は帰らなくていいの?」
茉央は私の部屋に残っていた。
五:「あ、そうだった...」
和:「どうしたの?考えごと?」
茉央が何かに悩んでいるように見えた。
五:「いや...山下さんのつけていたペンダントを
どこかで見たような気がして...」
和:「え?誰なの?」
山下さんは他にもペンダントを
持っている人が居ると匂わせていた。
五:「たしか...あっ...!思い出した!」
茉央は目を見開く。
和:「え?誰⁈ どこで見たの⁈」
五:「遠藤さんだよ!」
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五:「遠藤さんのペンダントが可愛かった〜」
冨:「あれ、どこのブランドだろうね!」
隣の席に座る茉央と奈央が話している声が聞こえてきた。
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和:「さくらさん...⁈」
前に茉央と奈央が話していた会話を思い出した。
和:「そういえば、茉央ってさくらさんに
私が桜のことを話したことを伝えたの?」
以前、私はそんな事をさくらさんから聞いた。
五:「そう!あの時、和がおかしくなったと思って
遠藤さんに相談したの...そうしたら...
遠藤さんが目を見開いて...」
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遠:「そ、そうなんだ...大丈夫かな...
そんな変なことを言い出すなんて...」
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五:「って、動揺しながら言ってたの...」
和:「決まりじゃん...」
そんなに動揺するなんて、覚えていなきゃおかしい。
和:「明日のリハの時に
一緒にさくらさんのところに行って聞こう?」
桜について、何を知っているのかを聞かなきゃ。
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・咲月サイド
菅:「バスラまでに桜を探せるのかな?」
一:「うーん...」
私は美空と一緒に振りの確認をしていた。
でも、頭の片隅にあるのは桜のこと。
和と同じように私も桜がいる乃木坂を早く取り戻したかった。
菅:「北川さんたちに協力してもらおうかな...」
一:「え?なんで?北川さん?」
菅:「前に協力するよって言ってくれたの。
黒見さん、松尾さん、北川さんの3人ね。」
一:「3人は覚えているのかな?」
菅:「どうだろう?
ペンダントが目印だと思うけど...
持っていなかったし...」
会話だけじゃ判別できなかった。
一:「ペンダント...ペンダント...あっ⁈
北川さんは覚えてると思うよ!!!」
と美空が急に言い出した。
菅:「えっ?北川さんが?持ってなかったよ?」
一:「いや、紅白のリハの時にね...」
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悠:「美空ちゃん、大丈夫?表情が暗いけど。」
そんな中、ペンダントを
首から下げた北川さんが話しかけてきた。
一:「あ、はい...紅白だから、緊張しちゃって...」
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菅:「本当に山下さんと同じペンダントだった?」
一:「うん!間違いないよ!
見たことないペンダントだったし!」
菅:「じゃあ、明日のリハの時に聞きにいく?」
一:「うんっ!あっ、和たちには話す?」
菅:「いや、話さないでおこう?
和ばかりに任せるのは良くないから。」
和は桜のためにずっと頑張ってきた。
私たちだけで頑張ることも必要だ。
一:「そうだね。
じゃあ、明日のリハ後に
北川さんに話しかけに行こう?」
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・○○サイド
○:「(北川さんからメール...)」
「明日の夜に○○くんに聞きたいことがある。
さくたんに内緒で惑星まで来てほしい。」
○:「(何だろう...)」
今日も話したのに...と思ったが
気になったので分かりましたと返信した。
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・和サイド
翌日 リハ後
和:「さくらさん!」
五:「ちょっと良いですか!」
私たちはリハ後に廊下でさくらさんに話しかけた。
遠:「いいよ。どうしたの。二人揃って。」
和:「川﨑桜のことを覚えてますよね。」
遠:「...」
遠藤さんの表情が少し暗くなった。
五:「私が桜について話した時に驚いてましたよね。
それと山下さんが持っていたペンダントを
遠藤さんも持っている。」
和:「私たちに探すのをやめさせたのは
桜のことを守ろうとしたからですよね。
桜は自分の意志で乃木坂から消えた世界を創った。
その意志を守ろうとしてますよね?違いますか?」
冷たいと思っていた行動も
桜のためにしていたと思えば合点がいく。
遠:「はぁ...美月さんが余計なことをしたから...」
さくらさんはため息をつきながら
ペンダントをポケットから取り出した。
和:「やっぱり、覚えていたんですね...。」
遠:「そうだよ。全てあなたの言う通り。
でも、私が桜ちゃんのために動いていると
分かっているのに何で、私に話しかけるの?」
和:「桜について知っていることがあれば
教えてほしいんです!」
五:「お願いします!」
ダメ元で聞くしかないと思った。
必死に伝えれば、通じるかなって。
でも......
遠:「今のあなたたちに話すことなんか何もない。
あなたたちは桜ちゃんについて何も知らない。」
と言い...さくらさんは私たちの元を離れた。
和:「ダメだった...」
あっさりと断られてしまった和は落ち込む。
五:「今のあなたたちに話すことはないってことはさ...
桜について自分たちで何か知ることが出来れば
話してくれるってことじゃないかな...?」
和:「たしかに...」
茉央の言う通りだ。
今のあなたたちということは
いつかは話してくれると言ってくれたようなもの。
和:「うん。自分たちで見つけよう。」
桜がこの世界から消える事を選んだ理由を
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・咲月サイド
菅:「桜について協力してください!」
一:「お願いします!」
私たちは北川さんに話しかけた。
悠:「...」
一:「ペンダントを持っているのは知っているんです!」
菅:「協力するとあの時言ってくれましたよね!
私たちを助けてほしいです!お願いします!」
悠:「私は中立の立場をとっているの...
だから、協力できることはほとんどない...」
と北川さんは申し訳なさそうに話す。
菅:「そうですか...」
中立の立場なんだ...山下さんとはまた違うのかな...
と落ち込んでいたが
悠:「でも、必死に頼んでくれたのに
何もしないのは違うから...この後、一緒に来る?」
と提案してくれた。
一:「この後ですか?」
菅:「えっ、どこに?」
悠:「さくたんの彼氏の○○くんのところだよ。」
第12話 『あなたは何も知らない』Fin
【第13話へ続く】