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『桜は散り、歯車が止まる』第16話

第16話 『この時間がずっと続きますように』






姫:「ここは......」


冨:「どこ......」


桜:「惑星だよ。乃木坂46を見守ってきた時計がある。」


僕たち全員はテレポーテーションをし、惑星へとワープした。


神:「大人数でここに来るとはね。」


僕たちが時計に近づくと、神様が目の前に現れた。


五:「どちら様ですか?」


桜:「神様だよ。」


彩:「神様?」


彩は首を傾げる。


桜:「桜は、神様と出会ったから
この状況を作り出すことができた。」


菅:「この状況......」


和:「桜、少し聞かせてくれるかな。
どういう経緯でこの世界を作り出したのか。
まだ、あなたから直接聞いていないから。」


桜:「うん......話すよ......
あの日、私はこの時計の歯車を外した。」


彼女はKAWASAKI SAKURAと書かれた歯車をみんなに見せる。



○:「......」



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桜:「乃木坂46の川﨑桜を捨てたいって思ってたの...」


○:「捨てたい......?どうして⁈」


桜:「私はみんなよりも遅くお披露目された。
だから、必死に頑張って、追いつこうとした。
でも、追いつけなかった。」


○:「追いつけなかった?
いや、桜はみんなと同じくらい!」


追いついていないわけがない。
僕はそう否定したかった。


桜:「私は歌もダンスも上手じゃない!
喋りも何もかもみんなに劣っている。」


彼女は悲しそうに言葉を発する。


桜:「それに加えて、私は......
SNSに悪口を書き込まれていた......」


○:「悪口......」


僕も彼女の悪口を書かれているのを見たことがある。
やっぱり、本人も気にしていたのか。


桜:「もう限界だった......!!
みんなよりも才能や魅力もなくて、悪口は言われる!
それに人を信用できなくなっていた!
そんな私には何の価値もないと思った!!!」


○:「......」


彼女の目には大粒の涙がたまっており、
彼女が深く悩んでいたんだと伝わってきた。



桜:「そんな中、私は神様と出会ったの......
神様は私の悩みを理解していた。そして、私の願望はこの歯車を外すことで叶えられると言った。」


○:「桜の願望?」


桜:「乃木坂46から存在を消して
みんなに気づかれないように私は一般人に戻る。
そして、幸せな日々を過ごす。これが私の願望。」


○:「......」


桜:「でも、○○には忘れられたくなかった。」


○:「えっ?」


桜:「あなたは私のことを純粋に見てくれた。
いつも感謝を伝えてくれて、他のファンの人とは違った。
私はあなたに恋をしていた。」


○:「恋......?」


桜:「優しいあなたと過ごせたら
どんなに毎日が幸せなのか。
私はずっとあなたのことを想っていた。」


○:「だから、私の想いが叶いそうって言ったんだね。
僕が桜のことを覚えていて、乃木坂46から消えたから。」


桜:「そうだよ。あなたと一緒に居たかった。
これが私の全て。」


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和:「そんな風に思っていたんだ。」


桜は僕に話してくれた事をそのまま和ちゃんたちに話した。


桜:「うん。でも、そんな風に思っていたのはついさっきまで。」


菅:「えっ?」


桜:「思い出したの。
みんなとの日々が充実していて
かけがいのないものだって。」


5期生が川﨑桜の記憶を思い出したように
桜もまた5期生との日々を思い出した。

本当に記憶喪失だったの桜のほうかもしれない。


桜:「辛いこともあるけど、助けてくれる仲間がいる。
和たちが私のことを何とかしようと動いてくれた。
私はもっとみんなのことを信頼してもいいのかなって思えた。」


冨:「さくたん......」


桜:「最初から、私はこうなることを望んでいたのかも。
和がこうして、みんなの記憶を戻して、
私の悩みに気づいてくれることを。
無意識のうちに和のことを...みんなのことを想っていた。」


彼女はゆっくりと今の気持ちを吐いた。



遠:「桜ちゃん。」


山:「乃木坂に戻るんだね。」


遠藤さんと山下さんも惑星へとワープしてきた。


桜:「遠藤さん、山下さん、北川さん......
ご迷惑をおかけして本当にすみません......」


桜は協力者の3人に頭を下げる。


山:「気にしないで。」


遠:「私たちのほうこそ力になれなくてごめんね。」


悠:「これからはちゃんと相談してよ?
一人で抱え込んでもいいことなんかないから。」


桜:「はいっ!」



彼女の表情は強かった。
ライブ前の彼女とは違い、明るかった。

悩みがあっても、仲間を頼ればいい
そんな安心感が彼女の表情から伝わってきた。



桜:「○○......」


彼女は僕に視線を向ける。


桜:「色々と巻き込んでごめん......
桜のわがままに付き合わせてごめん......」


○:「気にしないで。僕は川﨑桜のファンだから。
桜がやりたいことについて行くんだから。」


これが僕のポリシーだ。


桜:「やっぱり、○○が私のファンでよかった。
私は今後もアイドルを頑張れるよ!
桜のことをこれからも応援してね!」


○:「もちろん。これからも応援する。」


桜:「それと...恋人関係なんだけど......」


彼女の表情が少しだけ暗くなった。

僕も分かっていた。

彼女が乃木坂に戻るということは
僕たちの恋人関係も終わるということ。


桜:「私が卒業するまでは休止にしよう?」


○:「休止?」


桜:「うん。卒業した後にまた付き合おう?
ほら、○○はペンダントを持ってるから
歯車を外していた期間の記憶はなくならない。
また、付き合えるから!」


○:「ああ......そうだね。」


和:「......」



瑛:「ペンダントを持ってるから、外していた期間の記憶はなくならないって、どういうこと?」


神:「私から説明しよう。」


歯車を元に戻すと歯車が外れた翌日まで自動的に巻き戻る。
つまり、僕たちはクリスマスの直前に戻る。

そして、ペンダントを持っていない人たちは
歯車が外れていた期間の記憶を失う。

神様はざっくりとこのような事を説明した。


菅:「でも、桜のことは忘れないんだよね?」


桜:「うん。忘れるのはこの期間の記憶だけだよ。」


一:「そっかぁ。
まあ、私たちは記憶を失うだろうけど
いつでも悩みを相談してね!」


桜:「ありがとう......それじゃあ......」


彼女はゆっくりと時計の前へ足を運び


桜:「歯車を戻すね。」


ポケットから歯車を取り出した。



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桜:「ふぅ......」


戻りたいと思ったけど、やっぱり不安だった。

その証拠に私の手はブルブルと震えていた。


菅:「桜!大丈夫!」


瑛:「私たちがついてるから!」


みんなが私の様子に気づき、駆け寄る。


桜:「うんっ......」


私はみんなの優しさに背中を押され
歯車を巨大な時計の空白に埋めた。


桜:「これでいい......」



私には仲間がついている。


ア:「あれ?いつ戻るの?」


歯車を埋めたが、特に何も起こらなかった。


桜:「ねぇ!神様!」


神:「あと1分だ。
1分後に全てが元通りになる。
世界の歪みが全て戻る。」


桜:「そう......1分後ね......」


1分も猶予があるのなら、何かまだ話せるのかな
○○ともう少し話したい......と辺りを見渡すが


桜:「あれ?○○は?」


○○がどこにもいなかった。


和:「桜......○○さんは......」


なぎが私に話しかけてくる。


桜:「えっ⁈ そのペンダント!!
なんで、なぎが持ってるの!」


なぎはペンダントを首からかけていた。
そのペンダントは私が○○にあげたものだった。


和:「○○さんが渡してくれたの。
僕には必要ないからって......」


桜:「必要ないって......」


そのペンダントがなかったら
私たちの日々は何もかも無くなるのに......


和:「○○さんなら、あっちに行ったよ。」


なぎが教えてくれた方向に私は急いで向かった。




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○:「......」


僕は少し離れたところで空を見上げていた。


桜:「○○!!!」


彼女が息をあげて、僕の名前を大声で叫んだ。


○:「桜、どうしてここに。」


桜には気づかれないように離れたのに......
桜には言うなって和ちゃんに伝えたのに。


桜:「なぎに教えてもらった!
ねぇ!どうして!ペンダントをなぎに渡したの!」


○:「......」


桜:「そのペンダントがなかったら......
私たちは離れ離れになっちゃうの!!!
思い出も全て消えちゃう!!」


○:「ならないよ。」


桜:「えっ......?」


○:「だから、安心して。桜。」


桜:「やだ...!安心できない!ペンダント......」


この時、彼女が歯車をはめてから、一分が経過し
この惑星が眩い光に包まれ、二人の会話がここで終わった。




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桜:「はっ......」



気がつくと、私はとある場所の廊下に立っていた。

見覚えのある廊下だった。



桜:「ここは......」


スター誕生の収録をするスタジオ......
スマホの日付は12月を指していた。



菅:「あっ!桜!ここにいた!
早く楽屋に戻るよ!収録始まるから!」


咲月が前から走ってきて、私の手を握る。


桜:「うん!」



私は戻ったんだ。乃木坂46に。



第16話 『この時間がずっと続きますように』Fin


【最終話へ続く】

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