『ラッキーアイテム』 第13話
和:「えっ...?私と○○の記事ってなに...?」
桜の言っていることがよく分からなかった。
桜:「これ...だよ。別に変な記事じゃないけど...。」
桜はスマホの画面を私に見せた。
【冨里○○ 完全復活なるか。】
和:「これ?」
見出しを見る限り、私が載る要素はどこにもないのに...。
桜:「内容のほとんどは○○の復帰に関すること。
病院の敷地で走っていることとか
現実的にメダルを獲れるのか?とか...」
見せてもらったが、普通の内容だった。
復帰すると本人が明言したのなら
こんな記事が出されるのは当然だろう。
和:「私はどこに載っているの?」
桜:「これ...」
記事の一番下を見ると...
和:「えっ...⁈」
冨里○○は練習後に彼女とデートをしていた。
スケートも恋愛も順調に過ごしているのだろう。
という文章とともに
先日、○○とスケートリンクで
手を繋いでいた時の写真が添えられていた。
和:「これ...私じゃん...」
モザイクはかけられていたけど
この学校にいる人、私と○○が付き合っていることを
知っている人からすれば、私と推測できた。
桜:「うん...。」
和:「だから、ジロジロ見られていたのかな?」
桜:「多分...」
和:「なんだ。この程度なんだ。
じゃあ、気にしなくてもいいじゃん。」
私は自分の席に戻って、カバンを机に乗せる。
桜:「そうだけど...」
桜の表情が冴えない様子...
和:「どうしたの?」
桜:「実はこの記事で...」
桜:「○○の過激なファンが和を叩きまくっているの...」
和:「えっ?なんで?」
私が叩かれている...?
桜:「正確に言うと...○○も少しだけ...」
和:「どうして?この記事のどこが問題なの?」
悪いことは何もしていないし...
桜:「○○は文章に練習に集中したいから来ないでと書いた。
でも、こうやって、和とデートしているところが出た。
過激なファンがそれに怒っているの。
嘘書いているって...。」
和:「なんで...練習後だよ?別に何したっていいじゃん!!」
彼は恋愛禁止のアイドルでもないのに...
桜:「和の言う通りだよ。
でも、変なプロ意識を持った人たちが...」
和:「...」
世の中、上手くできていないと感じさせられた...。
桜:「スルーしたほうがいいから...
こういうのはなるべくね...」
うん...無視したほうがいい...
私はその日の授業を普段通りに受けた。
そして、普段通り、彼の練習場に向かった。
和:「(今日は寒い...)」
外が寒かったため、急いで
練習場の中に入ろうとした。
その時だった...
ファンA:「○○君の彼女だよね?」
和:「えっ...?」
見知らぬ人たちに声をかけられた。
ファンB:「練習場に来ないでと
○○君は文章で言っていたけど?」
明らかに私を敵対していた。
和:「...」
ファンA:「○○君の邪魔をしないでくれるかな?」
ファンB:「あなたの恋愛感情に
○○君は付き合っている暇はないの。」
怖かった...
いきなり、こんなことを言われるなんて思わなかった...
和:「...」
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私は練習場に入らずに帰宅した。
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和:「はぁ...はぁ...」
寒かったため、帰宅後、私は湯船に浸かっていた。
体を温めているはずなのに震えが止まらなかった。
寒さから来ているのか。
それとも、先ほどの恐怖から来ているのか。
和:「怖い...」
私は2時間近く、湯船に浸かっていた...
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翌日
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和:「...」
私は学校を休んだ。行きたくなかったから...。
周りにどんな風に言われるのか怖かったから。
遠:「ご飯持ってきたよ〜。」
たまたま、オフだった姉が今日は家にいた。
和:「要らない...」
遠:「朝も食べてないでしょ。食べないと栄養が...」
姉は気を遣ってくれるが
和:「いらない...」
私は拒否した。
遠:「何か悩みでもあるの?
あんなにクリスマスを楽しみにしてたのに。」
和:「...」
遠:「私でよければ、話を聞くよ?」
和:「お姉ちゃん...。私って...
○○と別れたほうがいいのかな...。」
遠:「...」
私はお姉ちゃんに昨日の出来事を話した。
遠:「そんな事があったんだ...」
和:「うん...だから、行っちゃいけないって...
私は○○と別れるほうがいいのかなって...」
遠:「そんな必要はない。
和は何も悪くない。その人たちが悪いよ。」
和:「でも...私が行くと...○○に迷惑かけちゃう...」
今後もあの人たちは待ち構えていそうだから...
遠:「○○君には、この事を話したの?」
和:「ううん...昨日からメールも送ってない...」
彼から連絡が来ているのは知っているけど
返せるような状態じゃなかった。
遠:「電話くらいしてみたら?
○○君なら何とかしてくれるよ?」
和:「○○に迷惑かけたくないもん...」
練習で忙しいのに余分なことに神経を割いてほしくない...
遠:「和と話せないほうが彼にとっては辛いと思うけど...」
和:「無理だよ...この事を話すのは...」
私は布団に包まり、姉を避けた。
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・あやめサイド
○:「はぁ...」
筒:「一日会えなかったくらいで凹みすぎじゃない?」
検査のために○○君の病室に入ったが
彼はベッドに包まり、落ち込んでいた。
○:「だって、メールも返してくれないから...
何かあったのかな...?」
筒:「風邪とか?」
体調崩しているパターンも考えられる。
○:「はぁ...心配だ...。」
筒:「本当に好きなんだね。」
○:「うん...和が居るから、僕は頑張れていますから...。」
プルルルル(着信音)
筒:「あれ?さくから電話だ...。」
○:「さくって...和のお姉ちゃんの?」
筒:「うん。何だろう。こんな時間に...。」
さくから電話がかかってくる時は基本夜だった。
筒:「もしもし?」
私は電話に出た。
筒:「えっ?○○君?○○君なら私の目の前に...」
○:「?」
筒:「うん。分かった。」
一旦、電話を耳元から離す。
筒:「さくが○○君と話したいって...。」
○:「えっ?」
筒:「和ちゃんのことみたいだよ。」
私は彼にスマホを渡した。
○:「...」
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・さくらサイド
○:「もしもし...」
彼の声が聞こえてきた。
遠:「久しぶりだね。」
○:「お久しぶりです...。」
遠:「和のことで相談というか
頼みたいことがあるんだけど...いいかな?」
○:「何なりと...」
私は昨日、和の身に起きた出来事を話した。
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○:「何ですか...それ...
和に対して、そんな事を...」
遠:「うん...私もびっくりした。
私にはそこまで過激なファンは居なかったから...」
私は芸能活動をしていて
そこそこ有名だけど、そんな事は何もなかった。
遠:「それとさっき、調べたんだけど
過激なファンの人がネットで
和の情報を特定しているっぽいの。」
○:「和の情報?」
遠:「うん。学校とか部活とか...名前とか...」
○:「名前って...!!個人情報じゃないですか!」
遠:「そう...幸いなことに和の実の父親が
犯罪者ということは知られていないけど...」
それでも、和に関する情報が特定されまくっていた。
毎日のように病院に行っていたことも
和が転校生として、この学校に来たこと。
和が学校でモテる存在ということも...
○:「僕のファンのせいで和は苦しんでいるんですか...」
遠:「んー。その人たちが
本当にファンなのか分からないけど...
その人たちは○○君が言わないと、止まらないと思う...」
○○君を応援しているが故に行動している部分もあるから。
和と○○君が距離を縮めた経緯も
和のおかげで○○君が治療しようと決めたのも
ファンの人たちは何も知らない。
○:「ですよね...うん。分かりました。
今日中にメッセージを出します。」
遠:「ありがとう。」
ツーツー...
彼との電話を切って、私は自室のベッドに寝転がる。
遠:「やっぱり、○○君は優しいなぁ...」
和があんなに好きになる理由が分かる。
遠:「ずっと...一緒にいるんだろうな...」
2人が別れる未来は想像できない。
将来は結婚するのかな?
2人が結婚したら、○○君が義理の弟になるのかな?
と容易に想像が出来た。
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・和サイド
桜:「大丈夫...?」
放課後、桜が私の家に来た。
桜:「熱とかはない?」
和:「精神的に辛くなっただけだから...」
風邪の症状は特になかった。
ただ、メンタルがやられていただけ。
和:「桜は強いよね...」
桜:「えっ?」
和:「昨日ね...」
私は桜に話した。
昨日、○○のファンの人から言われたことを...
桜:「そうなんだ...」
和:「だからさ...○○と
別れるほうがいいのかなと思っちゃって...
でも、別れたくなくて...昨日から精神的に辛くて...」
会いたいけど、またファンの人に言われるのが辛いし
○○に迷惑をかけちゃうかもしれないから...
桜:「なるほどね...」
桜:「だから、○○が怒っていたんだ...」
和:「えっ?○○が怒っていた?」
どういうこと?○○には何も話していないのに...
桜:「協会のホームページに
○○が音声メッセージを残したの。」
和:「えっ?」
桜はそのメッセージを流した...
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数時間前
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僕は和のために音声を残すことにした。
このほうが感情が伝わると思ったから。
○:「ふぅ...」
僕は書いた原稿を読み始めた。
僕は現在の彼女と出会うまで、死ぬつもりでいました。
そんな時、彼女が僕を救ってくれました。
彼女は僕のそばにずっと居てくれました。
毎日のように病室に来てくれて、
リハビリにも付き合ってくれて、
他愛もない雑談をして、彼女のおかげで
毎日が少しずつ楽しくなってきました。
彼女のおかげで僕は頑張ることができています。
だから、彼女を傷つけるような発言は許しません。
僕のファンであるのなら、誰も傷つけないでください。
勝手なプライドを持たないでください。
僕は復帰するために全力を尽くしています。
皆さまにパフォーマンスを見せられるように
1月頃には4回転のチャレンジをしようと思っています。
時期が来ましたら、またお知らせしますので
それまでは待っていただきたいです。
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和:「○○...」
でも、なんで...○○が昨日のことを...
あっ...お姉ちゃんが話したのかな...
桜:「○○がこう言ってくれたんだから
和が気にする必要はないよ。
○○は和のために動いてくれるから。
次に同じような事があったら、さらに怒ると思うよ。」
和:「うんっ...」
有難いなぁ...
私、全部○○に頼りっきりじゃん...
桜:「だからさ...今から練習場へ行こっ?
○○も和のことを心配していると思うから。」
和:「うん!」
彼にお礼を言わなきゃ...
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桜の母親の車で私は練習場に来た。
桜母:「じゃあ、18時くらいに迎えに来るから。」
桜:「うん!」
和:「ありがとうございます...」
私と桜は車を降りて、駐車場から練習場へ向かう。
和:「...」
少し怖かった。
昨日のように何か言われるのかと思って...
桜:「大丈夫。」
和:「桜...」
でも、桜が私の手を握ってくれて
少しだけ落ち着くことができた。
昨日と違って、誰もいなかった。
何事もなく、私たちは練習場に入った。
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○:「和...!」
私たちがリンクの側に行くと、
○○が練習を中断して、駆け寄ってきた。
和:「○○...」
彼に会えた安心感から涙腺が緩む。
○:「さくらさんから聞いたよ...
僕のファンが和に迷惑をかけたって...
ごめんね...怖がらせちゃって...」
○○は私を抱きしめながら、謝ってきた。
和:「怖かった...ありがとう...○○...」
私は彼の胸に顔を埋める。
○:「これからはちゃんと話してよ?
迷惑をかけていると思わないで。
和と会えなくなるほうが悲しいから...。」
彼は私の頭を撫でて、笑顔を見せた。
和:「うんっ...!」
彼に隠しごとはしない。
全てを曝け出してもいい。
彼の前では抱え込まなくてもいい。
桜:「一件落着っ!」
和:「ありがとう。桜。」
彼から離れ、桜にお礼を言った。
桜が今日の放課後に来てくれなかったら
私は前と同じように塞ぎ込んでいた。
クリスマスイブもどうなっていたか分からなかった。
桜:「桜は何もしてないよ(笑)
あっ、○○に頼みたいんだけど...」
○:「なに?」
桜:「ここのリンクで滑ってもいいかな?
久しぶりに滑ってみたいと思って。」
○:「構わないけど、靴とか持ってきてるの?」
桜:「持ってきてるよ!」
桜は袋から、スケート靴を取り出す。
桜:「じゃあ、今から着替えてくるね〜」
そう言うと、桜は更衣室に向かった。
○:「着替えなくてもよかったのに...
まあ、体を動かしたいのかな...」
私たちは二人きりになった。
和:「いいなぁ...」
私もスケート靴を持っていたら、氷の上を歩けるのに...
和:「スケート靴欲しいなぁ...」
○:「ちょっと待ってて?」
彼はそう言うと、ダッシュで鞄を持ってきた。
○:「はいっ。」
彼は鞄の中から一つの箱を取り出し、私に渡した。
和:「開けてもいい?」
○:「どうぞ。」
私は箱を丁寧に開けて、包装紙を解いた。
和:「えっ?これって...」
中にはスケート靴が入っていた。
○:「和のためにスケート靴を買ったの。
ほら、せっかくこの前滑れるようになったから。
僕の姿を近くで見てほしいと思って...」
和:「嬉しい...///」
特等席じゃん...あれ?でも...
和:「買ったって...クリスマスプレゼントは他にあるの?」
そこそこ値段もすると思うけど...
○:「あるよ。まだ届いていないけど...」
和:「何から何まで貰いっぱなしじゃん...」
マフラーもそうだし...スケート靴も...
それに幸せな時間も...
彼から何もかも貰っている。
○:「和からは元気を貰っているから気にしないで。
じゃあ、それを履いて、一緒にリンクに入ろう。」
___________________________________
彼と一緒にリンクに足を踏み入れた。
○:「うん。バランスは大丈夫そうだね。」
和:「○○が教えてくれたからだよ!」
上手く滑れるようにはなった。
和:「でも...○○とくっつけないのが辛いかも...」
彼に支えて貰っているほうが
彼と手を繋いでいるほうが幸せだった。
○:「じゃあ、手を繋ぎながら滑ろっか。」
和:「うんっ...///」
私たちはお互いの指と指を絡めながら、手を繋いだ。
○:「クリスマスは楽しみたいね。」
和:「うん...///」
彼と喋りながら、ただ氷の上を滑る。
○:「和はサンタのコスプレとかやらないの?」
和:「こ、コスプレ⁈」
○:「うん。別にトナカイでもいいんだけど...」
トナカイでもいいって...
そもそも、コスプレをした事がないんだけど...///
和:「やる予定はないかな...///」
恥ずかしいし...
○:「そっか...」
彼は分かりやすく落ち込んでいた。
和:「やってほしいの?///」
落ち込むってことはやってほしいって事だよね?
○:「うん...だって、和は何を着ても可愛いから。
見てみたいなぁと思って...」
和:「じゃあ、考えておくね...///」
帰ったら、通販で探そっと...///
○:「ありがとっ。和。」
彼は嬉しそうに私の名前を呼んだ。
和:「ふふっ...///」
先ほどまで、ネガティブになっていたからなのか
彼の一言一言が嬉しくて、幸せな気持ちになった。
桜:「あー!!手繋いでる!!!!
イチャイチャを見せつけないで!!!」
着替えを終えた桜がリンクに入ってきた。
桜:「ここはイチャイチャする場所じゃないからね!!」
○:「怒られちゃったね(笑)」
和:「うん.../// じゃあ、また後で!練習頑張って!」
私は彼から少し離れて
リンク内で彼の練習を見守った。
時々、彼と目が合い、彼が手を振ってくれた。
その度に私も手を振り返すがその度に桜が怒ってきた。
でも、それも含めて、幸せな時間だった。
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そして、数日後...クリスマスイブ前日
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和:「えっと...こうやって...」
私は自分の部屋にある鏡を見ながら
数分前に届いたばかりのサンタコスプレを着た。
和:「恥ずかしい...///」
着慣れないし、こんなに足を見せるのは初めて。
和:「でも...喜んでもらえるかな...」
不安だった。
鏡の前で佇んでいると...
ガチャ.......(扉の開閉音)
遠:「和、明日の昼...」
和:「えっ...⁈ ///」
遠:「⁈」
姉がノックをせずに部屋のドアを開けた。
もちろん、私はサンタコスプレのまま...
和:「ちょっと...!!!ノックしてよ...!!」
このコスプレは○○だけに見せようと思っていたのに...
超恥ずかしいんだけど...!!!
遠:「ごめん...明日の昼は差し入れで貰った
お弁当が余っているから、それを食べてね。」
和:「うん...///」
明日の朝に言ってよ...何で今言うの...
遠:「それより、そのコスプレって...明日のために買ったの?」
和:「そうだよ...○○が見てみたいって言ったから...///」
あ、でも...似合っているのか聞くチャンスかな...
和:「ねぇ...似合っているかな?」
遠:「うん。似合ってるよ。
○○君をメロメロにさせられるよ。」
和:「そっか...///」
良かった...///
遠:「明日と明後日は楽しみなよ?」
和:「うん!!」
来年は受験が待っているから、
明日は全力で楽しまないと...
そして、クリスマス・イブを迎えた。
【第14話に続く】
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