これくらいで歌う第三十三章〜電話〜

「大丈夫ちゃんと食べてるから、うん。曲たくさんかいてるよ。
そうだね、正月には帰ろうかなあ。そっちも元気で、健康第一に。」

一ヶ月に一度程母と電話する。
毎回ほぼ同じ内容で、食事と健康と仕事はどうかと聞かれる。僕に限らず親元を離れて仕事をしている人ほとんどにいえると思う。僕は電話を切った後いつも思う。一日三食食べることなんて滅多にないし喘息の疑いがあったし
曲はかいてるけども、なぜこんなにも親に見栄をはってしまうのだろうかと。もちろん心配させたくないという気持ちもある。しかしうちの母親に限っては翌日になにも連絡なしに部屋の前まで来てしまうということもあり得なくもないからだ。それはそれで非常に愛を感じるのだが困るといえば困る。

「彼氏は?あそう。大学院まだ卒業してないんだっけ?結婚は?へぇ、あんまりあったことないけどいい人そうだもんね、仕事は順調?まぁ正月に、では。」

半年に一度程姉と電話する。話題のほとんどが姉の彼氏の話で、結婚することへの悩みを聞く。そのほかには最近読んだ本を薦めてくれるので電話越しにメモはとるがそれを読んだことはない。姉と僕の趣味は正反対とまではいかないがあまり交わることがない。勉強一筋の学生生活を送った姉に対し勉強机と体の間に常にギターが挟まっていたのが僕である。趣味は勉強といってもいいだろう。社会人となった今でも学びの姿勢は変わっていない。

ちなみに父親とは電話で話したことはほとんどない。大抵母親との電話で最後に数秒だけ体は健康かと聞かれて終わるくらいだ。僕も仕事は順調?と聞くくらいだ。お互いが「うん」という返答をすでに受けたかのようにすぐ話が終わる。逆に僕が体の不調を訴えたり父親が急に会社での悩みを打ち明けてきたらお互いが面倒くさいと思ってしまうのかもしれない。

「うん、うん、はいはい、うん。はい。じゃ。」

二日に一度程ポテトと電話する。内容は半分が仕事に関するもので半分が飯か風呂だ。特に記述することもないです。

「はい、25日には振り込まれるので大丈夫です。」

一ヶ月に一度ガス会社と連絡を取り合う、担当の鈴木さん(仮名)は既に
知り合って長い関係のような人のようで思わず「元気?」と聞いてしまいそうでいつも焦る。

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