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今更カープの2020年ドラフトの話をします

こんばんは。

過去記事も消してしまい、久しぶりにnoteを投稿しますが、明らかに今更感のある2020年の広島カープのドラフトについて書いていきます。(ちょうど入団会見の時期なんで許してください)

1.今年のドラフト戦略

いきなり指名選手の紹介と行きたいところですが、まずはカープが今年はどんなドラフトをしようとしていたのかから考えてみましょう。

まず今回カープがドラフトで補強ポイントとしていたのが、明言はしていませんでしたが恐らく

・即戦力投手

・右の大砲候補

でした。

前者は今年のチーム防御率が4.06と明確に弱点として見えていたことからも、投手の補強は急務だというのは誰もが知っていたことでした。

昨年森下暢仁の一本釣りに成功したこともあり、同じ東京六大学出身で世代ナンバーワン投手の早川隆久(早大)が1位指名有力なのではないかと報道されていました。

後者は鈴木誠也のMLB移籍あるいはFA権取得が近づいていることが理由に挙げられます。

1年からレギュラーを張り、高校通算50本塁打を誇る井上朋也(花咲徳栄)や、昨年の夏の甲子園でグランドスラムを放ち、投手としても輝きを放ったスター性と身体能力を兼ね備えた元謙太(中京)に熱心であることがずっと噂されていました。

さて、ここからは指名選手と経緯について紹介していきます。

2.一巡目指名・栗林良吏(トヨタ自動車)

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a.指名経緯

まず1位で指名したのは社会人ナンバーワン投手と評される栗林良吏(トヨタ自動車)でした。

週刊誌などの予想では、前述の通り早川指名の予想が大半を占めていましたが、いざ毎年恒例となっているドラフト当日の朝刊の予想では、前述の早川とこの栗林が半々といった感じでした。

なぜこの栗林が浮上したか、その理由は2つ考えられます。

まず栗林の地元球団でもある中日が、進学志望だった高校ナンバーワン投手・高橋宏斗(中京大中京)が急転直下でプロ入りを表明したことで、高橋の指名に切り替えたこと、そして彼が大卒の時のドラフト、すなわち2年前のドラフトでもカープは高評価をしており、島内颯太郎と迷っていたという事実があり、栗林への熱の入れ方は他球団と比べても群を抜いていたことが挙げられます。

栗林はこの時2位縛りをしており、しかもカープは2巡目では最後となる24番目の指名順でした。

これによって栗林は社会人野球に進み、自らを磨き上げて社会人ナンバーワン投手かつドラフト1位候補まで上り詰めました。この時の指名順はある意味カープにとっては運命と言ってもいいかもしれません。

結果的にカープは去年の森下に続き、栗林を一本釣りすることに成功しました。即戦力投手を欲していたカープにとって、競合のリスクを避けつつ確実に社会人ナンバーワン投手を確保できたことは、あまりに大きい指名だったと言えます。

b.選手の特徴

この栗林は上背は177cmと大きくありません。しかし、質が良い直球と、アマチュアレベルではまずバットが止まらない落差のあるフォークのコンビネーションで、社会人野球大会では通算の防御率1.14、奪三振率12.22と脅威の数字を誇る三振の取れる投手です。

更に大学時代はリーグ戦通算で430イニングを投げ32勝を挙げた勝利する力とタフさも魅力です。

このように良いところばかり書いてきましたが、課題点もあります。

今年の都市対抗野球では真ん中高めの直球をライトスタンドに運ばれているように、クイック時に甘いコースに入ってきてしまいます。

これは実は投球フォームに現れており、①のように脚を上げて投げている際は右脚のつま先がリリース時に地面に着き、際どいコースに投げ込めています。しかし、②のクイック時では投げ急ぎが原因なのかつま先が浮いており、真ん中に近いコースに入ってしまっています(結果は三振でしたが)

今のままでもある程度の結果は残ると思いますが、このポイントが修正出来ればプロでも奪三振の山を築けるのでは、と感じました。

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この栗林の起用法ですが、先発はもちろんのこと、高い奪三振能力とタフさを活かしてクローザーにするのも良いのではないかと感じています。

一球一球大きな声を上げながら投げ込む気迫溢れる姿は、社会人時代の背番号も相まって「炎のストッパー」を連想してしまいました。

どんな形であれ、チームに貢献してくれることを祈っています。

3.二巡目指名・森浦大輔(天理大学)

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a.指名経緯

カープが二巡目に指名したのは天理大の関西屈指の左腕と呼び声の高かった森浦大輔でした。

しかし森浦をこの順位で指名したのは間違いなくカープにとっては「誤算」でした。

もっとも、カープが二巡目の指名で想定していたのは1の章でも書いた右打ちの高校生でした。しかし、候補に上がっていた井上はホークスの1位で消え、元はオリックスの2位で消えてしまいました。

このため、本来は三巡目での指名を想定していたであろう森浦を“繰り上げ”指名したのではないかと考えられます。

実際、スカウト陣は元を指名出来なかった事を悔やんでいました。

b.選手の特徴

そんな指名経緯の森浦ですが、彼の実力を侮ってはいけません。

阪神大学野球リーグでは通算21勝を挙げ、防御率1.57と抜群の成績を残しています。

特に3年〜4年では105回2/3を投げて自責点が僅か9点しかありません。

また、1年生の時に出場した全国大会では16奪三振完投勝利を挙げ、地方リーグに留まらない器であることを証明しました。

コロナ禍もあって今年に入っての映像がほとんど無いためにあまりフォームについて多くは語れませんが、1年時から今に至るまで共通して言えることは、右腕の畳み方が上手く、身体の開きが抑えられていることでボールの出所が見にくくなり、最速148キロの球速以上のキレを生み出しているように感じました。

球種も一定の数があり、器用さを感じさせます。

懸念材料は大学生にしては華奢な身体をしていることです。

中継ぎでの起用が示唆されていますが、彼の将来を考えるとまずは先発として登板間隔を空けながら経験値を積むのが良いのでは、と考えています。

4.三巡目指名・大道温貴(八戸学院大学)

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a.指名経緯

三巡目で指名したのは八戸学院大学の大道温貴でした。

3人連続の即戦力投手の指名になりましたが、素材型として獲得した高卒3年目の遠藤が1年間ローテを守ったことからもわかる通り、投手の絶対的な頭数が不足していることや、前述の通り上位で候補の野手が既に市場から消えていたことが理由だと考えます。

b.選手の特徴

この大道は、糸を引くようなノビを見せる最速150キロの直球と、低めに決まる変化球を武器に北東北大学野球リーグで通算22勝防御率1.75と森浦と同様に素晴らしい成績を収めています。

また、コロナ中断明けの4年秋のリーグ戦では36回を投げて60奪三振自責点は僅か1と驚異的な数字が残っており、試合が無い期間を有効に過ごしていたことも伺えます。

ユニフォームがピチピチに見えるような強靭な下半身を主導とし、ワインドアップから一度グラブを胸の前に置き、左脚をタメながら上げ、右肘が遅れて出てくる投球フォームは、1年目の大瀬良大地を彷彿とさせます。

このレベルの投手がカープの三巡目の指名順まで残っていたのは奇跡に近く、森浦の2位指名が“悔しい誤算”ならば、この大道の3位指名は“嬉しい誤算”ではないでしょうか。

逆になぜ三巡目まで残っていたのか、その理由として考えられるのは、まずは体格です。

大道と同じ大学生右腕で1位指名をされたのは伊藤大海、入江大生、平内龍太、木澤尚文ですが、この内伊藤以外の3人は身長が180センチを超えており、尚且つ有名大学出身です。

対して大道は178センチと決して大柄ではなく、地方リーグ出身であることです。

今年明大出身の森下が大活躍をしたことにより、東京六大学リーグ出身者への信頼が高まっているように感じます。

また、右腕に限ると地方リーグ出身者で1年目から規定投球回数に達したのは2014年の大瀬良大地を最後に生まれていません。

この条件に当てはまっている伊藤は国際試合の経験が豊富であり、大道にはそれが無いというのも向かい風になったかもしれません。

更に、もともとこの大道は四球が少なくないタイプであり、突如として崩れるというパターンも見受けられていました。

同じような経歴とタイプで岡田明丈という存在があり、各球団はそれもチラついていたのかもしれません。

ですが私は、大道は前述したドラ1右腕達に匹敵する実力を持っていると思います。

先発か中継ぎか。どんな起用法になるのかが楽しみです。

5.四巡目指名・小林樹斗(智辨和歌山高校)

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a.指名経緯

四巡目は智弁和歌山高校の小林樹斗を指名しました。

カープは毎年のように高卒右腕を指名しており、小林もその慣習に倣った指名だと思われます。

しかし彼の場合は、4位という順位で指名できたことがあまりにも驚きでした。というのも、今年の高校生の中でも指折りの投手だと思っていたからです。

b.選手の特徴

智弁和歌山高校では2年生で既に主力投手として活躍していました。当時は岸孝之を彷彿とさせるしなやかなフォームで、本人が憧れる藤川球児氏のように人差し指と中指をくっつけて投じるストレートは本家さながらのノビがあり、昨年の春夏の甲子園でもエース池田陽佑(現・立教大)との二枚看板を形成して15回と1/3を投げて自責点は2と既に大器の片鱗を見せつけていました。

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それが今年に入ると、昨夏に投げ合った星稜・奥川を明らかに意識したセットポジションからのフォームに変貌し、最速148キロだった直球は151キロまで上昇するなど更なる進化を遂げました。

夏に行われた甲子園交流試合での投球は圧巻でした。

更に四球を出さないコントロールの良さも光ります。

ただ、彼の最大の懸念点は大会で長いイニングを投じた経験が少ないということです。

今年の夏の独自大会では専ら中継ぎを務めており、最長でも4イニングしか投げていません。

高校生レベルで短いイニングしか投げていないとなると、どうしてもプロで同じように抑えられるかは疑問符が付きます。

ポテンシャルは間違いありませんから、どのようなビジョンで育成していくのか、球団の腕が試されると思います。

6.五巡目指名・行木俊(徳島インディゴソックス)

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a.指名経緯

五巡目でカープは徳島ISの行木俊を指名しました。

個人的に一番衝撃を受けたのはこの指名です。

5人連続の投手指名に加えて、なんと言ってもカープが独立リーグから支配下指名をしたのは10年ぶりのことであったことが理由です。

5人連続投手という極端な指名、そしてこの行木の指名に至った理由としては、現在カープでは試合数が減っているにも関わらず二軍の投手がブルペンデーを設けなくてはならない程に不足している状況で、まずは2軍で投げられる投手を増やすことが優先された結果が彼の指名に繋がったと考えられます。

b.選手の特徴

最速153キロの直球とドロンと落ちるドロップカーブを武器にし、今季は42回2/3を投げて防御率1.28と抜群の安定感を誇りました。

まだ高卒2年目であり、最近の独立リーグ選手のトレンドとも言える、大学、社会人よりもNPBに早く入れることを活かした選手です。

特筆すべきは伸び代で、高3に投手に本格転向し、更には去年は故障でほとんど投げられていなかったにも関わらず、この1年だけで球速を20キロ近く伸ばしたというエピソードに代表されます。

ただ気になる点が2つあります。

一つは今季の奪三振率が4.68と低い点です。

快速球を持っていながらこの数字というのは、バットに当てられてしまうという証拠にもなります。

ポジティブに捉えれば投球術があるとも言えますが、やはり不安点であることには間違いありません。

もう一つは投げ終わりに一塁側に大きく身体が流れてしまうことです。

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①ではインステップ気味に左脚を踏み出し、大きく上体を反らして上から投げつけるような姿勢になっていますが、③の投げ終わりでは左脚が一塁側に逃げてしまっています。

これは②で上半身が一塁側に倒れすぎていることで、下半身が横振りになってしまうことが原因だと考えます。

彼に参考にしてほしいフォームとして、行木と同じくインステップ気味に左脚を踏み出す山﨑康晃を挙げます。

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①ではむしろ山﨑の方が左脚が一塁側に逃げているように見えるくらいですが、②を見れば一目瞭然です。上半身がバッターと正対しています。そしてこの上半身に引っ張られるように下半身も本塁側へと向き、③の安定した投げ終わりに繋がります。

行木は今のフォームで153キロを投げられるんですから、上記のポイントが修正されれば末恐ろしい投手になるのではないかという期待を持たせてくれます。

非常に将来が楽しみな投手です。

7.六巡目指名・矢野雅哉(亜細亜大学)

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a.指名経緯

支配下最後の指名は、六巡目にして初の野手の指名となったのは亜細亜大学の矢野雅哉でした。

結果残留しましたが、当時はFA権を保持していた田中広輔の去就が不透明だったことに加え、去年鳴り物入りで入団し、高卒ルーキーながら4本塁打を放った小園海斗が期待外れの成績に終わったことこともあり、レギュラー候補のショートを欲していたことが背景にありました。

b.選手の特徴

この矢野を語る際に欠かせないのは、遠投128mを誇る強肩を活かした守備です。

三遊間の深い位置からもノーバウンド送球は当たり前、併殺の際の塁間送球はもはや目で追えないレベルで恐怖すら感じます。

打撃面では大学通算のisoD0.14を誇る選球眼の良さで出塁する能力に長け、バントや盗塁の小技も上手く、50m5秒9で走る瞬足を活かすプレーが目立ちます。しかしこれをプロで同じようにやれるかどうかはかなり疑問です。

通算で長打がわずか3本しかないことからも、しっかりと振り切ることをしていないように感じます。

これは、今やNPBを代表するショートになった、トヨタ自動車では走り打ちと小技に徹する9番打者として地位を確立していた源田壮亮の姿と重なります。

源田はプロに入ってから打撃を猛練習し、当時レギュラー不在だった西武の正ショートの座を射止めました。矢野は今のスタイルのままでも、田中広輔の負担を減らすくらいの役割はできると思います。ですが、更に上のレベル、即ちレギュラーを獲るためには、バットを振り切る力を身につけること、そして良いコーチとの出会いが必須なのではと考えます。

8.育成一巡目指名・二俣翔一(磐田東高校)

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a.指名経緯

カープ最後の指名となったのは、磐田東高の二俣翔一でした。

この二俣は今年の早い段階で松本スカウトがコメントを出しており、熱心だったことが窺えます。

石原慶幸が引退し、捕手が1人減ってしまうことが彼に白羽の矢が立った最大の理由でしょうが、右打ちの高校生は上位で行くと決めていたが、この二俣が残っていた、尚且つ下位で支配下枠を消費したくなかったので育成で指名したのでは、と勘繰っています。

b.選手の特徴

強肩強打の捕手、という評価が先行する二俣ですが、彼の最大の魅力は野球センスではないかと考えています。

というのも彼は1年の頃はショートでレギュラーを掴んでおり、2年から捕手を務める傍ら、リリーフとしてマウンドに上がれば最速146キロを叩き出すなど、まさに“なんでもできる”選手です。

あまり話題にならない“脚”も武器であり、50m6秒2を誇ります。

しかしながら、育成まで残っていたことからもわかる通り課題は山積みです。

まずは打撃ですが、左脚を高く上げるフォーム故にタイミングの取り方に苦心していました。そのためボール球に手を出すケースが多く見られました。

捕手としての守備は、スローイングに課題が残ります。

確かに地肩は相当強さを感じるのですが、ボールの握り変えが遅く、更に上から叩きつけるような送球フォームなので安定感に欠けます。

幸い、チーム内にサイドスローから安定した送球をする石原貴規という心強いお手本がいますから、彼を手本にすれば自ずと改善していくのでは、と考えています。

本人曰く練習の虫ということで、猛練習で育成から這い上がる姿を楽しみにしています。

9.総括

長々とここまで書いてきましたが、簡単なまとめをしたいと思います。

私の所感は以下の通りです。

・「頭数」重視のドラフト

・独自性を捨て、実力主義に転換

・補強ポイントに対して即効性を求めた

編成が一気にチームが転落した原因がここ数年のドラフトにあったことにハッと気付いたのではないかと思うくらい、いい意味で“カープらしくない”ドラフトだったと思います。

しかしこのドラフトを活かすも殺すも首脳陣次第です。編成はしっかり仕事をしました。次はあなたたちの番です。

最後まで読んでくれた方、ありがとうございました。


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