見出し画像

なぜ、エリアに分けるか

しっかりと動け、関われ、実現できるように

中心市街地活性化の位置づけの変遷

現在、国の法律にも定められている中心市街地活性化ですが、その言葉がクローズアップされてきたのは、1990年代にさかのぼります。
TMOという名称でまちづくりの仕組みが取り入れられましたが、当時は「中心市街地活性化=主に商業(商店街)活性化」という位置づけで経済産業省が主導していました。
しかし、まちなかの商業の衰退は歯止めがきかず「商業だけではない様々な視点からの取組みが必要」ということから2006年に全省庁横断的な取り組みとして内閣府が音頭をとる現行の法律に変わった経緯があります。
そしてこの際、国が大胆に舵を切ったのは「どこにもかしこにもばらまくのではなく、やる気のある地域に集中的に支援していく」という方針でした。
なぜならば、右肩下がりの時代では活用できる資源はどんどん限られてくるためです。

中心市街地活性化施策について(経済産業省資料より)

中心市街地活性化はなぜうまく行かないのか

法律改正当初は多くの地域が中心市街地活性化の取組みを目指しました。活性化協議会を作り、基本計画を作成し、国の高い認定獲得のハードルに臨みました。
しかしながら、現状はすっかりと下火になっている、と言っても過言ではありません。政治、政策環境的な要因も多々ありますがここでは詳述しません。ただ、選択と集中の考え方は保守的な日本社会には受け入れられづらく、『護送船団総沈没型茹でガエル社会』を乗り越えられていない、という日本社会全体の課題をとらえておくことは重要かと思います。

ここでは、地域に焦点を合わせて私がこの20年近く相対してきた中心市街地活性化がなかなか進展しない問題・課題については、

  • 活性化を取組んでいくための実効的な仕組みができていない

  • 地権者や物件オーナーの協力、市民や事業者の理解が得られにくい

  • 情報発信・受信の不足

おおよそこの3点が大きいと思います。実際は、この3点も相関しているのですが。

推進していく関係機関

中心市街地活性化を推進していくにあたっては、通常は

  • 中心市街地活性化協議会(中活協) 

    • まちづくり会社等(まち会社)

    • 商工会、商工会議所等

    • 中活協に参加する組織や商店街、学校等

  • 行政(市町村)

が連携して進めていくことになります。

中活協は民間主体の組織で中心市街地全域を見据えた活性化に対しての協議をしたり、行政計画に意見・提案をしたり、あるいは活性化の動きを相互調整・連携をしていく組織。中活協は事業を行う主体ではありません。
 
まちづくり会社は、行政や民間企業が行えないけれども、地域の活性化にとっては必要な公益性の高いハード・ソフトの事業を自ら積極的に計画し、関係機関と必要な調整・連携をしながら地域を適切に保全・開発・環境づくりをして価値を高めていく事業の主体です。

商工会や商工会議所は特に中心市街地活性化の民間組織の中心として、主に経済面からの環境向上や事業者育成・支援の施策に取り組んでいきます。

中活協に参加する組織や商店街、学校等は、それぞれの事業を持続的に行うにあたって、中心市街地活性化の目標や将来像を共有・意識しながら取り組みを行うことで、それぞれが単体で取り組む以上の効果を期待していきます。

行政は中活協と連携しながら中心市街地活性化基本計画などを策定し、活性化に必要な環境づくりや連携策、規制緩和、公共事業など公益性100%の取組みを担当します。

問題1 中活協だけでの協議は具体的になりづらい

端的に言うと、中心市街地と言っても範囲は広く様々な利害関係者がいる、ということです。例えばあるエリアは都市化を進めたいという意識があり、あるエリアは文化的な環境を保全する、という地域がともにあれば、結果的に総論的な話になることで、具体的な活性化の協議ということが難しくなります。また、意見を述べられるのも、そこに参加している人だけになりがちなのも問題です。

それゆえ、

中活協
 = 中心市街地全体の活性化を見据えた方向性、コンセンサス、行政への提案、中心市街地内各エリアの調整、「聞いてないよ」をなくす場

の位置づけのもと、

エリアやプロジェクト単位での具体的な活性化の協議を行い、同時に「聞いてないよ」をなくす仕組み

があることが望ましくなります。

問題は「誰がそれをしっかりと運営するのか」ということです。基本的に中活協は事業者や活動を行っている人々の集まりであり、本業との労力や時間の兼ね合いは、特に余裕のない現在のような時代においては難しいものがあります。そこで、次に述べるまちづくり会社、のようなエンジン的な主体組織が重要になります。

問題2 公益性の高い事業を機動的に行う主体の存在は?

活性化にあたっては「事業主体がいない」ということが多くみられる問題です。既存商店街などは本業を持ちつつ商店街活動を展開する以上に、中心市街地全体のことを取組む、ということは労力的にも組織の趣旨からも現実的ではありません。
商工会議所や行政が主導で行うことは、民意を十分に反映できない恐れもありますし、何よりも予算編成や議会などのスケジュールにより、機動的な運営は難しいでしょう。

そこで、必要なのが「まちづくり会社」です。
地域の課題解決や将来像の実現への創造。より事業機会、居住機会、来訪機会が多い中心市街地にしていく取り組みを、営利を目指す民間企業よりは公益的で、公益100%を目指す行政機関よりは営利的な取り組みにより持続的経営と地域づくりを行う事業主体が必要不可欠です。

問題3 ひとつのまち会社で中活エリア全域は見られない

中心市街地活性化に取り組む地域もそうでない地域も、「まちづくり会社」を設立しているケースが多くなっています。しかしながら、効果が上がっている事例はそんなに多くないのでは、とも感じています。
・会社の持続的経営の視点 … 会社である以上、収益が必要
・活性化の主体としての視点 … 地域課題解決・価値創造を行うこと
両方ともに、です。
前者は会社の経営力が問われるところも多いですが、一方で、中心市街地全体に忖度することで効果的な事業を展開していきづらい状況もあります。

例えば、行政が出資した第3セクターのまちづくり会社が経営と活性化両面の視点から中心市街地エリアの中でごく一部のエリアに集中的に投資し、取り組んでいたら他のエリアからの不満や要望が必ず出てくるでしょう。
では全域をまんべんなく一つの薄利な会社で取り組んでいけるのか?
そうすると膨大な資金力、人材、組織が必要になるはずです。
それがないとすれば、バラバラのエリアに限られた資源、労力を投入していくことになりますが、このバラバラに資源を投入していく「逐次投入型」の取組みが効果が薄いことは、これまで中心市街地活性化に取り組んできた地域の苦境と、それぞれの地域がエリアを絞った取り組みに移行していることから学べます。
 

投資効果をあげるエリアへの集中イメージ

全体的に必要な事業を展開していく主体組織と、エリアそれぞれを特徴や個性をふまえ、しっかりと作りこんでいく主体組織は分けて考えるのが合理的です。
これがいわゆる「エリアに分けている」重要な視点の一つです。

問題4 ひとくくりの議論はエリアの持つ個性の魅力を失わせる

中活協で中心市街地全体をひとくくりでとらえて協議したり、一つのまちづくり会社が全域を意識して薄めた取り組みを展開していくことは、中心市街地の中でも個性を持った地域(エリア)の特色を活かすことが難しくなります。

私がかつて自由が丘などでまちづくりに関わっていた建築家の師匠の一人に受けた教えでもありますが、
「人は300mくらい歩くと景観にも雰囲気にも飽きる、まちを巡りたくなるためには変化が大切」
ということがあります。
それゆえ、画一的に総花的に「中心市街地」と括ってみるのではなく、その中でも特徴や個性、歴史、あるいは今後の開発計画などをふまえた「エリア分け」をして取り組んでいくことが、実は他の都市に無い中心市街地の魅力づくりにつながっていくことになり、それはこれからの時代は選ばれるまちづくりにとってはまずスタート地点に立つための視点と言えます。

例えば半田市でも、中心市街地にはいろいろな個性や課題があります

エリアを分け、そのエリアの関係者や事業者、地権者、そのエリアでの活動を主領域とするまちづくり組織などがあつまり、エリアの将来を描きながら自分たちの事業や暮らしの環境をあげて、結果的に選ばれるまちになるといったエリアの価値をあげて行く取組みがエリアマネジメントです。

中活協だけでは参加できない、述べることが難しくなる意見や提案も、エリアマネジメントに分けていくことで拾い上げていくことができるのも、大切な機能であると言えます。

エリアマネジメントにより自分たちで選べる・動ける・叶えられる中心市街地活性化へ

この、エリアに分けた取り組み自体はかつてはゾーニングなどとも呼ばれてきました。実際、私も15年前から各地域での取組支援においては提案し続けてきた考えかたであり新しい概念ではありません。欧米ではより地権者が受益者負担・地域への投資を行っているはるかに先に行っている取り組みもあります。ここ数年でようやくエリアマネジメントが脚光を浴びてきた日本の地域のまちづくりは残念ながら、かなり遅れていると言えるかもしれません。おそらく、高度経済成長時代、バブル時代の余力があったからかもしれません。

かつて、年間270万人日本では子供が生まれていました。
今は、75万人で、さらに減り続けています。
協議していける土台となる仕組みを急ピッチで作らねば進めていく必要があります。理想語れど実現伴わず、ではなく。

自分たちで選べる、動ける、叶えられる暮らしや働きかた、環境。
非日常だけではなく、日常からそれを実現して将来世代にもつないでいく仕組みとしても、エリアに分けた取り組み、その個性を集めて一つの中心市街地として他にないモザイク画のように作り上げていくのが中心市街地活性化ともいえます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?