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安易に用語のイメージに頼らない

「レトロなまち」というコンセプトの薄さ

とある地方のまちにまち歩きに行ってきました。
歴史的に古くから醸造がさかえ、重厚な蔵も多く、そこから大正、明治、昭和、平成といった時代変遷が感じられるまちです。

しかし違和感が。
街のあちらこちらに「レトロ風」に作った絵画などが飾られており、
「レトロなまち」
というコンセプトで表現されているのです。

全くピンときませんでした。
このまちにあるのは重厚であり、今なお生活に密着な暮らしや産業、文化の文脈であると感じている自分の気持ちを、「レトロ」という散漫なイメージの言葉だけでは全く咀嚼、消化できなかったのです。

本物をハリボテで置き換えるタイプの、残念なまちづくりの典型でした。

発信側が薄くしかとらえられなければ、受け手は冷める

とはいえ、このコンセプトなどを一生懸命考えた当事者のみなさんもおられたでしょう。おそらく私のような「まちづくり専門家」も関わったはずです。
どちらかというと私としては「まちづくり専門家」が「薄くならない」ための「本質的な宝物の認識」から始めたのかどうか、が気になりました。
昭和や平成のころの、安易に用語のイメージや見せ方に頼り、本質的な魅力を引っ込めてしまうハリボテまちづくりの手法だったのかもしれません。

まち歩きや観光も同じだと思うのですが、
発信する側が薄っぺらければ、受け手は「あ、これは作り物なんだな」とすぐに感じ、見抜くでしょう。そして、再訪の価値を見出さない。
「これは町の人に根付いている文化で、今も大切にされているんだ」
と感じることこそ、来訪者にとって深みのある魅力であり、非日常であり、再訪したいと思わせる本物なのだと思います。

観光のためのまちづくりは未来を産まない・育まない

私がまちづくりで大切にしている経験の中で、良く2つの言葉を思い出します。
ひとつは倉敷の美観地区の中に関わる仕事をしたとき、現地側のキーパーソンのかたがおっしゃられていた言葉
「まちを博物館にしたとたんに、そのまちは時がとまってしまう」
日本全国「古いものを大切にする」という理由で「単に展示する」時を止めたようなまちづくりがいかに多いか。
古くから受け継いできたものを今もなお、工夫をして使っていくこと、「ライブ感」があるからこそ今とこれからの価値、そして地域の魅力がそこに醸成され表出してくるのです。

もう一つは15年ほど前に、飛騨古川町を訪れたときのこと。
風情ある水路と石畳のまち、長屋の格子戸にどこにも竹ずつと奇麗な花が一輪ずつ飾ってある。たったそれだけがとても印象的でした。
立寄った酒屋の女性はまさにそういった取組みを仲間としているのだといい、
「私たちはこうすれば自分たちがきれいなまちで暮らせるからやっているだけ。生活の中で自然体でしているだけよ」
この言葉は
「観光のためのまちづくりか、生活・文化のまちづくりの延長にあるのが観光か」
という投げかけの答えだと思っています。

やり切らなければ、裏切ることになる

私が駆け出しのころ、とある商店街のアーケードかけ替えのコンセプト作りを依頼されました。
その商店街はとあるヨーロッパの国をモチーフにまちづくりを進めてきており、それを標榜していました。特に歴史的文脈もないこじ付け的なコンセプトです。
それでも、インターネット上ではその国のファンが「そういう商店街があるらしいよ」「いってみたい」とやり取りしていました。

実際は、その国を全く感じるような街並みでも、ソフトでもありませんでした。これを見たら、そういったやり取りをしていたファンたちはさぞかしがっかりするでしょう。

私は本気でそのコンセプトで行きたいとお考えならば、徹底的にしないと逆に商店街はどんどん人離れしますよ。やるなら、ディズニーランドくらいやるつもりでなくては。とお伝えして、アーケードのコンセプトだけではなくそこに属する商店主の振る舞いや商品を含め見直すよう提案しました。

「その国をモチーフにするのは一部の人が言っていたことだから、提案を作り直してくれ」

これが私が受けた提案への回答です。
「お客様はおろか、まちや暮らしを大切にしていないんだな」
私はがっかりしました。そこに共感性はありません。

大切なのは用語イメージではなく、自分たちの価値観と文脈

「レトロなまち」ということは構いません。
ただ、「レトロ」の定義を徹底的にすることが大切だと思っています。
用語のイメージは困難を乗り越えたり創造性を発揮する原動力にはならないからです。
「自分たちが本当に大切にしているもの、暮らし」
それをちゃんと話し合えば、むしろレトロ、では収まらないかもしれません。もし、「まちづくり専門家」に関わってもらえるなら、そういった道筋を引き出してくれるかどうか、見極めてください。


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