範宙遊泳『うまれてないからまだしねない』Actors' Profiles​ No.08 椎橋綾那

 最新作『うまれてないからまだしねない』(2014年4月19日〜27日 東京芸術劇場シアターイースト)に出演する10人の俳優たち全員に、ひとりひとり、話を聞いていくインタビューシリーズ。

インタビュー&構成=藤原ちから&落 雅季子(BricolaQ)


椎橋綾那 Ayana Shiibashi

1988年生まれ。埼玉県出身。浪曲修行中。

おもな出演作に、F/T公募プログラム13参加作品 Q「いのちのちQⅡ」(作・演出:市原佐都子)、こq「油脂超しq」(作・演出:市原佐都子)、わっしょいハウス「我着地、クワイエット」(作・演出:犬飼勝哉)などがある。


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 わっしょいハウスやQといった新進気鋭の劇団の公演に出演し、その特異なキャラクターで頭角を現してきた椎橋綾那。今作のダークホースといっていい存在だが、範宙遊泳には学生時代に出演していた。今作はひさしぶりの登場。そして浪曲を修行中でもあるという彼女の不思議な語り口は、新しい生き方の可能性を感じさせるものだった。


▼範宙遊泳にひさしぶりの登場

——昨秋のQ『いのちのちQⅡ』ではいい感じで寿司握ってるなあ、って印象の強かった椎橋さんですが、範宙遊泳との関わりは?

「学生の時に何度か。H(『美少女Hの人気』)とジュピ子(『透明ジュピ子黙殺事件』)には出ました。すっげーひさしぶりですよ。いいのかなあって……」

——どういう意味で?

「やー、だってこんな、晴れ舞台じゃないですか。範宙にとって」

——晴れ舞台だからこその、満を持してのオファーなんじゃないですか?

「そうですねえ。フフフ」

——(笑)じゃあ俳優業は、範宙遊泳に出てた学生の頃からされてるんですね。

「やってまーす」

——その頃の思い出はありますか。

「たのしかった気がします。今と比べるともっと若い感じ。稽古の始まりとかも、スグル氏が考えたゲームをアップ程度にやったり……。けど今回は、大人になったなあ、変わってくんだなあって思いました」

——出演してないあいだの公演は観ていましたか?

「『東京アメリカ』の再演と、『幼女X』も観ました。なんか、表現がストレートになったような……気がしました。どんどんシンプルになってるのかなって」

——今回のオファーの経緯は?

「あ、定期的にワークショップやってるのはご存知ですか? それに来てよ、みたいに言ってくれて、じゃあ行こっかな、ってなって、そのワークショップを楽しませていただいて、そしたらオファーがあって」

——QもF/Tの公募プログラムだったし、今回も東京芸術劇場ということで、注目を集めるような舞台にぽんぽんと出ている印象もありますけども、椎橋さんはどのようにお考えですか?

「非常に恐ろしいことだと思っております……(小声)」

——(笑)

「でも! 言うても! たかが100人200人ぐらいでびびってちゃいけないと思ってます。もっと大きい舞台もあるし!」

——ちょっと待ってください、二重人格者ですか?(笑)今稽古をやってて、他の人との共同作業はどうですか。

「みんないい方で……。ってか最初キラキラした人ばっかだなあと思って、やっべ、これ付いていけるかなあ、まあ付いていけなくてもいっか、と思ってたら、みんなすごく優しい……高飛車な人とかもいないし、やっぱ真面目にやってきた人たちがここにいるんだなあ、私もがんばろって……思いました!」

——なんで演劇を始めようと思ったんですか?

「なんでなんですかねえ……。あたし、恥ずかしながら高校演劇からやってたんです。でもそれがなんでかって言われたらちょっとわっかんねーなって感じです……。なんでだろう?」

——たまたま演劇部の門を叩いてしまった?

「ちっちゃい頃から、そういう世界に興味はありました。でもテレビ……ではないなあと思って演劇を始めたら、ハマっちゃったんですね♥」

——あのう、その頃からそういう感じだったんですか?

「えっ、そういう感じって?」

——舞台でも、常にクネクネ動いてる感じがするんです。今もですけど。

「ああ〜」

——流動体みたいになってますよ。

「たまに言われます」

——やはり。

「えー、どうだろう高校の時なんて覚えてないですよ。とりあえず浮いてましたね。高校、キライだったし……でも演劇部の人はかろうじて話せる人がいたかなって感じでした」

——桜美林大学に入られてからはどうですか。周囲も演劇を志す人たちがいて、何を培ってきたんでしょうね?

「へええーーー??? 何を培ってきたか? え、何も培ってない気がする……。大学生活で学んだことってことですか?♥(かわいい)」

——まあ仮にそういうことでもいいです。

「なんだろう……大学……でもええ、大学……うわ、あ、ええ」

——(藤原)あの、ちょっと言っていいですか。さっきのインタビューが大橋さんだったので、この世界の落差をぼくは楽しんでます。まるでジェットコースターのようだ。

——(落)そんなこと言わないの!

——(藤原)いい意味ですよ。

「ごめんなさい。まあ大橋さんは……一輝はしっかりしてんだなっ」

——卒業してからも俳優を続けようって思われたのはどうしてですか?

「えっと……就職をしたくなか……や、違うな、違う……。えーと、演劇を、続け、るしかないような気がしたから、就活をする気も起きず。しませんでした、就活」

——演劇のためだったらがんばれるって思った?

「てか普通に会社勤めとか絶対無理だなあ、とほんとに思っちゃったんで。じゃあ演劇しかないかーって……いやあ、想像できないです」

——でも、会社に椎橋さんいたら革命が起きる気がするけど。

「ほんとですか?」

——(藤原)だって会社で隣のデスクに椎橋さんいたらどうなるよこれ?

——(落)革命が起きますね。

「ええー? 何もできないですよ〜」

——何もしなくてもそのままで。社内の空気、一変ですよね

「でもあたしバイトしてますけど、バイト先で革命起きたことないですよ」


▼人情喜劇と浪曲の世界

——プロフィールに「浪曲修行中」ってありますね。

「浪曲の弟子入りをして、その修行もしております」

——どうして浪曲を?

「なんか、浪曲、好きになっちゃったんですよ。昔の映画が好きで、たまに流れてて……あ、これかっこいーい! と思って。自分でもできるかなあと思って教室を探して通ってたら、そこの先生が浪曲協会のお偉いさん……あたしの師匠なんですけど「やってみたら?」って言ってもらえたので、じゃあ本格的にやってみようかなと」

——へえー! 古い映画で浪曲っていうと、つまりは日本映画ですよね?

「あっ、そうですね、邦画です」

——どういう映画がお好きなんですか?

「えっ……あたし、寅さんが好きです♥」

——寅さん! いいですね。

「あ、ほんとですか。岡本喜八とか好きです」

——人情喜劇の世界ですね。

「そう、それが好きなんです。あたし……………マドンナになれなかった(涙)」

——(笑)

「ほんとに、なりたかった」

——寅さんがねえ、続いてれば。

「ほんとですよぉー。寅さん、かっこいいですよ♥」

——寅さんいいですよね。

「あ、何が好きですか?」

——第1話の、妹さくらに再会するシーンと、ラストの矢切の渡しがやっぱり好きですかね。あと第何話か忘れたけど、無人駅で電車待ってたけど……(しばらく寅さんの話)

「やー、なんですかね、あの人情がいいんですよねきっと。あたし「ハイビスカスの花」がすごい好きなんです。えーと……浅丘ルリ子? 何でしたっけ、名前」

——リリー。

「そ、リリー! 寅さんが好かれるんですよね、珍しく。で、一緒に住んだりするんだけど、結局、寅さんのほうが無理、みたいな」

——逃げちゃう。

「いやあ、でもそう、ひとところに留まることができない寅さんもまた、切なくていいんですよね……。まだ全部観れてないんですけど。でも後半は寅さん元気なくなっちゃってて、やっぱり(甥の)満男が中心になってきちゃってて、それが残念なんですけど。寂しくてしょうがない……」

——ともあれ、そうやって浪曲の世界に魅入られたと。

「そうです。でもこの修行、大変ですね……師匠とか、ちゃんと挨拶できないとすごく言われちゃって。あたしほんとそういうの苦手……(怖)」

——あ、さっき大橋一輝さんも、日舞の師匠に挨拶のことを注意されるって言ってましたよ。

「だって、一輝はできるだろーが」

——(笑)

「できるだろー。好かれるよ、あれ」

——えーと、でも浪曲は楽しい?

「浪曲自体は楽しいです」

——てことは、将来は浪曲師になりたい?

「まあ、なれたらいいと思ってますけど……どっちもやりたいと思っております!」

——ときどきハッキリ物を言いますよね(笑)。じゃあ演劇も浪曲もやりたいと。

「どっちもやりたい……(小声)」


▼演劇、やめられない

——演劇のほうは、どうしてやりたい?

「んー、やめられないんだなあ……。何でやりたいかっていうよりかは、やめられないんだなあ。やめられたら楽だなって思います。だって、お父さんとか見てて、ああもういいなーこの人絶対ひと通り幸せな、ね、道を踏んできたんだろうなと。まあ苦労もあったんでしょうけど……まあでも苦労はみんなあるか」

——(落)演劇をせずにいられる幸せってありますよ。

「そうそう、そういうの、ある。ひとつの公演が終わった後にそう思うんですよね。あ、終わって嬉しいって。でも1週間ぐらい経つと何か寂しくなってきちゃって、ああ〜、次の舞台立ちたいなとか思っちゃう自分がいて……こういうのがなければ、普通に結婚とかして子どもとか産んで、普通に素敵女子になれるのにって」

——(落)結婚したからって素敵女子になれるかはわからない……。

「ほんとそうなんですけどね。お姉ちゃんとか見てても、週末とか普通にデートして、平日は普通に働いて、みたいなそういうルーティンな生活……に、何も疑問を感じずに生きれたら楽だし、こんな貧乏な思いしなくていいのに……って思うんですけど、それができないんだな。だから、やめられないんだろうな」

——(藤原)よかったらこのクッキー食べてください。すごく美味しいから(自分も食べる)。でもそういう意味で言うと、ぼくは椎橋さんの演技をまだQの『いのちのちQⅡ』と『油脂越しq』しか拝見してないですけど、俳優をやってらっしゃる必然性みたいなものは感じますよ。やむにやまれぬ業というか、ひとたび演劇に魅入られちゃったが最後、みたいな。

「褒められてるんですか……?」

——(落)もちろんそうですよ。(小声)

「ありがとうございます(小声)」

——今回の『うまれてないからまだしねない』ではどういう役なんですか?

「普通に、女性の役ですよ」

——(笑)

「や、でも普通に、人間の役です。へえ、はい」

——じゃあその人間は何を思って生きてるんでしょうね?

「何を思って生きてるんでしょうか……。普通にルーティンの生活をしていて、顔に自信がない、みたいな。そんなとこですかね……あたしもまだ全然、入り込めてなくてぇ♥」

——台本を読んだ時にどう感じました?

「いやあ……大作だ、凄い作品なんじゃないかなって思いました。いろんなことを考えさせられる……や、すいませんつまんないことで」

——人情喜劇ですか?

「や、残念ながら違うと思います(笑)。……人情喜劇、いいなぁ♥」


▼2本柱で生きる

——人情喜劇に出たい?

「映画だったら出てみたいです。芝居じゃちょっとつまんないんじゃないかな」

——(笑)高校の時はテレビは違うなって感じたとのことですけど、映画は出てみたい?

「……機会があれば」

——浜ちゃんスーさんの釣りバカコンビの会社とかにいそうじゃないですか。ヤバい感じで。時々ハマちゃんのボケを拾って。

「やったあ。山田洋次監督……あたしに気づいて!」

——(笑)

「まだ生きてらっしゃるから」

——そうか、寅さんは亡くなっちゃったからね。

「でも最近、洋次さん人情喜劇撮らない……」

——洋次さんと来たね(笑)。

「初めて呼んだんですけど(笑)。映画はそうですね……お金になりそうですね。演劇は稽古自体は苦にならないんですけど、お金が……」

——その問題はありますよね。浪曲師のほうでは?

「浪曲もでも、お金になんないんですよねーなかなか。でもがんばりまーす♪」

——がんばってください。シビアな問題ですけど、どうやったら食っていけるんでしょうね。

「うーん、芝居だけでってことですよね?」

——いや、わからないです。

「でもみんななんとか食ってはいけてるんですよね」

——そう思うと「食っていけるかどうか」ってのも変な話ですよね。食べてるから生きてるわけだし。ともあれ、浪曲と演劇という2本の柱があるのは面白い気がします。

「確かに、どっちかで儲ければそれに越したことはないし……。あたし、役者でも歌がうまい人は歌えばいいと思うし、楽器が弾けるならそういうこともやっていいと思うし、演劇1本だと違うような気がしたんですよね。最初にやるキッカケは、表現の幅とか広がるかなー? とか思って、まあ役者のため……役者やりたい……役者ッ……!」

——ど、どうしました……?

「えっとー、キッカケは役者の糧になったらいいなって……それが言いたかった。でもいざ始めてみたらそうもいかず。どっちも大事! だし。……あたし何が言いたいんですかね?」

——何が言いたいんでしょう?(笑)

「あ、だから自分の興味のあることは全部やって、1本に絞らなくてもいいなあって最近は実感してます」

——考えようによっては、演劇と浪曲という2本の柱に絞ってるわけじゃないですか。そういう意味では一環してるというか、椎橋さん、クネクネしながらも実はあんた筋通ってるだろ、みたいな感じがしてきました。

「ああ、あたし筋通ってますよ(キリッ)」

——寅さんが好きっていうのもわかる気がします。

「ほんとですかー」

——ああいう世界のたくましさってきっとあったはずで、それが今、芝居にしたらつまんねえなって思うのは、現代の世の中が元気を失ってるってことと関係あるのかもしれないですし。

「そうですね……や、それはほんとにあると思うなあー、だって洋次が喜劇撮らないなんておかしいよ」

——今度は呼び捨て!(笑)

「だからここらで1本ぽーんとね、喜劇とか撮ったら、いいんじゃないですかねえ」

——そこにはぜひ椎橋さん、出てほしいですね。この場で洋次にラブコール送っておきましょ。

「呼び捨てにしちゃダメですよ」

——(笑)


▼伝統を継承すること

「でもほんとにああいう世界って、昭和のあの感じとリンクしてるんですよね。今のこの時代で撮ったら全然味が変わっちゃうんでしょうね」

——その意味で、浪曲の師匠につくっていうのは、伝統を引き継ぐという気持ちもあるんですか?

「すごい、言われるんですよ、若い人がいないみたいで。受け継いでいかないといけないもの、っていう焦りもあると思うんですけど。でもあたしは正直、師匠とかの浪曲聴いてて、とても素晴らしいとは思うんですけど、若い人が聴けるかなって考えた時にこりゃ無理だなって思うところもあるんで、あたしはあたしの浪曲をやりたいなって思いました。伝統は伝統で受け継ぎたいんですけど……でもそれだけじゃ何か、年寄りばっかりに受けちゃって、これは絶えちゃうんじゃないかなって気はしてます。だから進化するとかしないとかよくわかんないんですけど、でもやっぱ変わっていかないと受け継げないのかなって。……これ、師匠には恐れ多くて言えないんですけど。伝統、難しいですよね。浪曲はほんとに……やあ、聴いたことないですよね?」

——ライブではなかなかないですね。例えば落語でも、伝統を受け継ぎつつ、新しいスタイルを取り入れたりということがあるじゃないですか。

「そうですよね……まあでも何人か浪曲やりたいっていう若者もいるから、伝統はそっちに任せて、あたしはあたしでやろうかなって思っちゃってますけど」

——いいじゃないですか。そしていつか浪曲と演劇が融合してくるかも……。

「あ、たのしーい♪ いけるかなあ」

——ではそこは期待するとして。今作『うまれてないからまだしねない』の見所を最後にお聞きできればと思うんですけど。

「見所? えー、ミドコロ? なんだろう…………演出ですかね。この脚本もらって、一体どう見せてくるんだろうスグル氏は、って思うんですよね。その演出っていうか世界を観ればいいんじゃないですかね。……わあー、こういうの難しい。芸能人ってすごいなー。芸能人はちゃんとここでスパッて言えるから」

——でもどうでしょうね。あれもパターンがありますよね。

「そうですよねっ!」

——(笑)。なんか謎の時間が流れた気がしますけども、ともあれ、楽しみにしてます。

「ありがとうございました〜」


(わっしょいハウス「エーテル」より)


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次回は福原冠です。お楽しみに。

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