範宙遊泳『うまれてないからまだしねない』Actors' Profiles No.06 名児耶ゆり
最新作『うまれてないからまだしねない』(2014年4月19日〜27日
東京芸術劇場シアターイースト)に出演する10人の俳優たち全員に、ひとりひとり、話を聞いていくインタビューシリーズ。
インタビュー&構成=藤原ちから&落 雅季子(BricolaQ)
名児耶ゆり Yuri Nagoya
1985年生まれ。東京都出身。
5歳から合唱団に所属し、童謡やCMソングを歌いはじめる。
15歳の時に「Annie」で初舞台を踏み、「イーストウィックの魔女たち」「CABARET」「THE MUSICMAN」「MOZART!」などミュージカルを中心に活動。
おもな出演作に、「Rock and Roll」(作・演出:今野裕一郎)、音楽劇「ファンファーレ」(作・演出:柴幸男/音楽・演出:三浦康嗣/振付・演出:白神ももこ)ワワフラミンゴ「馬のりんご」(作・演出:鳥山フキ)などがある。
範宙遊泳は「さよなら日本~瞑想のまま眠りたい」「おばけのおさしみ」に続き3作目の出演となる。
* * *
柴幸男+白神ももこ+三浦康嗣の演出による『ファンファーレ』(2012年)以降、その美しく通る声と共に、範宙遊泳、ワワフラミンゴ、バストリオなどで存在感を発揮してきた名児耶ゆり。ままごと(柴幸男主宰)の小豆島での滞在制作では「しょうゆしょうしょう」というパフォーマンスで島の人たちと親しむ一方、テレビCMにも出演するなど、様々な場で活躍している。ミュージカルに出自を持つ彼女は、今作をどのように捉えて舞台に臨んでいるのだろう?
▼「お・も・し・ろーい」と思った『幼女X』
――やあ、このインタビューシリーズ、一大ドキュメンタリーになりそうですよ。
「やだー! どうせみんなすごいことばっか喋ってるんでしょう?」
――みんな違ってて面白いですね。
「そんなこと言ったら……私は何もないです……。宮永さんなんとかして……」
(今回の制作・宮永琢生に助けを求める。宮永氏、クッキーを出す)
「いただきまーす! クッキー!」
――美味しいですね、このクッキー(もぐもぐ)。そういえば企画書に「ここ数作で範宙遊泳作品のミューズ(女神)になりつつある名児耶ゆり」って書かれてましたよね。
「え? なんですかそれ? 全然、見たことないです。ちょっと見せてくださいよ、え宮永さん知ってた?」
宮永 あ、うん。その「女神」って書いたのはオレだね。「ミューズ」だけじゃ意味わかんないかなと思って。
「えー……」
――で、ミューズといいますか、範宙遊泳は今回が3回目ですけども、出演するようになられたきっかけは?
「……ずっとミュージカルばっかりやってて、『ファンファーレ』の時に制作の坂本ももちゃんが「出てくれませんか」って言ってくれて。でもwebの映像を観たら、今みたいにプロジェクターを使う前の強烈な感じのだったから、面白そうだけど、果たして私が力になれるのか、わからないなと思ってて。でも『幼女X』観に行って、お・も・し・ろーいと思って、やりたいなぁと思いました」
――なるほど……やっぱりいろんな人にとって、『幼女X』前後からの変化が大きいみたいですね。
「ふーん……」
――ふーん、って(笑)。
「わたしは以前の作品を観たことがないから、全然わからないまま、これが範宙遊泳なんだなぁ、っていう感覚で私はいるんです」
――その『幼女X』が「お・も・し・ろーい」と思った理由はなんだったんですかね?
「役者として文字と並んでみたいっていうのもあったし。でも普通に観客としてすごく面白くて、友だちにも観てもらいたい、という気持ちに……なっ……(小声)」
(三角座りになり、突然叫ぶ)
「うぅ、もう、かえりたい……!!」
――帰らないで(笑)。
「いや、私ほんとに全然そういうの観たことがなくて、「青年団」っていう言葉も知らなくて「青年座」の方がよく知ってたぐらいだったので……なんかびっくり……でも同世代の子たちだけで公演してるっていうのはすごいな!って思います」
▼ミュージカルの世界
「ミュージカルだと、50歳くらいのベテランの舞台監督さんで、他のスタッフさんも……という感じで、私は年齢的にずっと下の方にいて、そういうものだと思っていたから。12000円ぐらいなんですよ、席が。すごくないですか? で、えーとねえ……」
(しばし沈黙)
「……そ♡」
――?(笑)
「ニッポンの河川を初めて観に行った時も「お・も・し・ろーい」と思ったんです」
――『大きなものを破壊命令』の初演ですかね。
「そう、しかもそれが2300円だったんですよ。もう……「はあー♡」と思って……だってミュージカルは12000円だから、「はあー♡♡」って」
――つまり、世界が違う?
「そうですね、世界が違うけど、……ミュージカルはお金がちゃんともらえてたんです、しっかり。でも変な感じっていうか。好き。すごく好きなんですよ、私、ミュージカルが。でも規模が大きすぎて、帝国劇場とか、いくら大きくやっても、どっか行っちゃうっていうか。なんか空間がね、さわ、さわれ……」
――触れ、ない?
「広すぎて、自分のものにできないっていうか空間が。だから大きいセットを使ったり、人数がたくさん出て歌ったりしてるんだと思うんですけど」
――範宙遊泳の『さよなら日本』はSTスポットという小さな劇場でしたよね。その空間的なギャップはどう受け止めてるんですか?
「うーん……そんなに全然ちがう! みたいな気もしないなぁ……(しばらく考えて)……みんな純粋に作品のことだけ考えてるから、真摯だなって思います。私、歌も踊りもお芝居も、別に違うものだと思ってなくて。だから「小劇場」って言ったほうがわかりやすいから言ったりするけど、別にそんなのなくていいんじゃないかって私は思います」
――「小劇場」という括りが?
「括りがあったほうがいいこともあるんだろうけど、私の中ではつくれないです。だから、全然違うことやってるようだけど、別に変わらないですね。でもミュージカルって、オーディションでもダンスを踊って、次が歌で、それで合格……とかで、お芝居なんて全然やらないんですよ。それが不思議だったんですよね。え、どうして? みたいな。時間がないとか、大人の事情もあるんですけど」
――ミュージカルは何歳からやってたんですか?
「わたしは5歳の時から歌ってて、合唱団に入ってずっとCMソングとか、童謡とか歌ってて、15歳のときに初めてミュージカルに出ました」
――歌と一緒に生きてきたんですね。5歳なんて、何してたかな……。おしっこ漏らしたりとかしかしてないと思う。
「おしっこ漏らしながら歌ってたようなものです。アハハ」
――(笑)
「だって歌詞とか読めないから、ずっと耳で聴いて覚えて、レコーディングに行ってました」
――その意味では、オトナが用意してくれた世界に入っていくのと、その環境も含めて同世代の人たちとつくっていくのとではやっぱり意識は違いますよね?
「そうそう、何もかもみんなで決めていくっていうか」
――ままごとの小豆島での滞在制作は、秋会期に参加されましたよね。またちょっと特殊な体験だったのかなと思うんですけど。
「小豆島は、楽しかったです♡」
――……はあ(笑)。
「やだー、宮永さん助けて……」
――なんなの、その恥ずかしがりっ子みたいなの(笑)。
「ちょっと、宮永さん説明してください」
宮永 わかんないです。
「ちょっと、助けてよー」
――例えば小豆島でアコーディオンを持って歌うことに、ミュージカルでの経験が繋がってたりはする?
「はい、ミュージカルやってなかったら出来てなかったこといっぱいあるから、ほんとやっててよかったなと思います。その力を信じられてるから、どこでやってもあまり抵抗ないし、みんなもやろうよって思う」
――ミュージカルの力、っていうのは?
「だって、あんな楽しいこと、なくないですか? 歌って踊ってお芝居するんですよ。最高に楽しいでしょ。やー、すごい楽しいですよね、あんなの!だってあんなの、すっごい楽しいですよ!」
―― (笑)
「『ザ・ミュージックマン』に出た時に、演出の鈴木裕美さんが「そこが好き」って言ってて、私も「そこが好きだなぁ」って思ったのは、市長さんを取り巻くのっぽだったり太っていたり見た目も性格も全然違う4人の男の人がいて、仲が悪くて毎日いがみ合ってるんです。それで、ハロルドっていう主役がそれを見て、「待って、君たちいい声してるね。一緒に歌ってごらんよ!」って言ったら、「アイスクリーム♪ アイスクリーム♪ アイスクリーム♪」って歌って、そうすると完璧にきれいな四声になるんですよ。で、それを歌ったことで、4人がお互いを受け入れ合うんです。はぁー♡と思って……。だって、歌っただけで仲良くなるんですよ? すごくないですか!」
――すごいですね。
「すごくないですか!」
――(落)ほんとにすごいと思う……(ごほごほ)
――(藤原)むせるぐらいすごい!
「仲良くなるからいいとかじゃないですよ? 1曲歌ったら人生変わってたりするようなことが、ミュージカルでは出来るっていうことです」
――アイスクリームの魔法ですね。今ここでみんなで歌ってみます?
「アハハ。今このメンバーじゃ、効かないと思いますよ、仲悪くないし」
――……。
▼今回の座組はオーケストラ?
――でも考えてみたら、演劇も、バラバラじゃないですか。みんな。そういう人たちが一緒になってやるのは面白いと思いますけど、どうですか?
「面白い、と、思います」
――もしかしてこれ、誘導尋問みたいになってます?
「面白い、と、おもい……(小声)」
――同世代の演出家との関係はどう思いますか。今回にかぎらず、いろんなところに出てみて。
「や、すごく面白いなあっていうか。私が想像してる小劇場界の「奴隷になって働く」みたいな感じっていうか」
――奴隷? どゆこと?(笑)
「言われたことはもう絶対! それでもやらせてください! みたいな。私のイメージだと」
――『ガラスの仮面』的な。
「そうそう、大好きなんです(笑)。泥臭いのが面白いなって思うんです。でもなんか……。またミュージカルの話になっちゃうんですけど、ミュージカルのオーディションだとひとり30秒で、30人並んでて一瞬歌って終わり、みたいなのが多かったりして、そういう時は…………私若い頃ほんとに、そういう意味ではとんがってたんで!」
――尖ってたんだ(笑)。
「なんでこんな下手な人たちが受けに来てんの?くらいの気持ちでやらないと受からない、厳しい世界だと思っていて。でも最近になって、特にそれは『ファンファーレ』で学んだというか……いや、3人の演出家がほんとにすごかったんですよ。ガッキー(俳優・大柿友哉)が全然面白くない提案を出したとして……や、でもガッキーって率先して怖がらずに言ってくれる子なんですけどね。それで他の出演者の子たちは「え? それちょっと違うだろ」みたいな雰囲気になってるのに、3人は「ちょっとやってみようよ」って言い出して、そのアイデアを面白いように変えてくれて。ほんとに、拒否っていうことをしなかったんですよ。全部を受け入れるスタンスでやってくれてて。「受け入れるよ!」とは言わないけど(笑)」
――「みんなぼくの胸の中へ!」とかではないけど(笑)。
「そうそう。だから何も怖くなかったんです。昔から思ってはいたんですけどね。合唱団で歌う時にはピアノの人がいたり、ミュージカルだと必ずオケの人たちがいて一緒にやるから、演劇もひとりずつがバンドの一員としていられればいいんじゃないかって思ってて。自然にそういうことができていければ、いい、なあ……と思ってます。だから演出家のことは尊敬はするし、言ってること以上のものを俳優としてもどんどん出していきたいとは思うけど、あんまり……。そうですねえ、そんな、バンドみたいな感じで。……ちょっと待ってくださいね。うーん…………」
(2分経過)
「……うん。オーケストラ、みたいな、気持ちでやってます!」
――宣言(笑)。
「バンドっていうと何かジャカジャカ♪って感じのイメージになっちゃうかもしれないですけど、もっとグループっていうか……。なんて言ったらいいんでしょうね。もちろん好き勝手していいよってことではないし、譜面を守っていくのと同じように守ることをやってはいくんだけど、もうちょっと重なり合ったり……1曲の音楽を奏でているっていうか……わけじゃないですか……作品っていうのは」
――(藤原)それぞれの音を重ね合わせていって、時々「アイスクリーム♪」の奇蹟が起こるってことですよね?
「きゃはー、もうダメだ、全然伝わってない!!!(笑)」
――(藤原)えっ、そういうことじゃない?
「はぁー」
――(落)そのオーケストラっていうのは、バンドよりは人数が多い?
「そう、いろんな楽器があって。『さよなら日本』の時はバンドっていう感じがしたんですけど、『うまれてないからまだしねない』は人数も多いから、編成としてはオーケストラな気分」
――(落)ある特定の楽器を多く奏でるから主役になるわけでもないし、ハーモニーが大事……っていう意味で、今回は10人出演するし、オーケストラのイメージに近いと?
「うん、うん。あ、少し伝わった♡」
――(藤原)差別だ(笑)。同じこと言ったつもりだったのに……。
「うっそー?(笑)えと、うーん……あず、あず」
――あず?
「預けたいし預かりたい、みたいな感じです」
――お互いの音を聴いて?
「そう、そうですね。だから自分も、……はい♡(差し出す仕草)って。はい♡(もらう仕草)って。へへへ」
――預ける、預かるっていう。
「日常生活でもそうしたいんですけど。今回初めて会った人もいるし、みんな考えてることが違うけど、それを受け入れたいし受け入れてもらいたいっていうか。いろんな顔が見たいと思いますね、ひとりひとりの。みんなが歯を磨いてる姿とか見たい。人に見せないようなところを。そんな気持ちにさせてもらえる人たちです」
▼「ない」から「ない」のではなく
――今回は夫婦の役だという噂を耳にしております。
「はい、夫婦です。タイトルも『うまれてないからまだしねない』だし、生まれるっていうこととか、死ぬっていうこととか。あるっていうこととか、ないっていうこととか……。例えば、あの、……わたし、古いものとか、時間が重なってるものが好きで、飲み屋だったらほんっとにきったない大衆居酒屋とかすっごい好きなんですよ」
――(藤原)へー。そこだけは気が合いそうですね。
「……と思って今言ってるんですけど(笑)。町の喫茶店とか。コーヒー飲めないからあんまり行くわけじゃないんですけどね。テーブルが人の油でこっくりしてる感じとか。誰かの手に触れたものが好きなんです。でもそうすると、それがなくなった時の心のいきどころがわからなくて、すっごく落ち込んじゃうんです」
――ああ、心のいきどころ……
「例えば、わたしが通ってた小学校が立て替えになっちゃって、建物には触って、別れ方、みたいなのができたんですけど、後で、校舎の前に立ってた高い、大きなもみの木も切られたって聞いて、もうすっごい怒ったんですよ。なんでそんなことするんだ!って思ったり今もするし。あったものがなくなっちゃった、と思っているんですけど。でも……」
――でも?
「『うまれてないからまだしねない』も、言葉としては「ない」から「ない」って入ってるけど、本当はあったものになっている、っていうか……。なくなってしまった木は、ないけど、なくないんじゃないかっていうか……」
(しばし沈黙)
「でもわたしよりも昔に別の校舎が建ってて、そこに通ってた人もいるだろうし、これからその新しい校舎を懐かしがる子たちも出てくる、と考えると、ちょっとスッとはなるし。『ミッドナイト・イン・パリ』を観たんですけど、古い時間に遊びにいけるようになる男の人の映画で、どんな過去の時代に行ったとしても、結局、今を考えるしかないし、自分が今生きているところも誰かにとってそうなっていくんだなって」
――循環しているというか、続いているというか。
「今回は、夫婦で、子どもがいる役なんです。で、私は今、子どもいないけど、子どもいないとも言えなくなってきてるなって思います。これ(舞台)をやっていると。いずれこれから出来るかもしれないけど、そういうことでもなくて。だってこの(お腹の)中にもうひとつ命がいるっていう感覚は、すごく面白いことだと思うし、それを動物はみんなやってきていて、ねえ……。すごく痛いことをしてまでも産むんだろうし……」
(急に頭を抱えて)
「あーもうダメだ。ほんと、ごめんなさい(笑)」
――(藤原)いや、今日は、確かにミューズだな、と思いましたよ。新しい風吹いてるなって。
「やだー、やめてくださいそういうこと言うの!」
――(藤原)今、絶対もし落さんが同じこと言ったら「そんなー♡」ってなったでしょ?
「そんなー♡(笑)」
――では最後に今作の見所を教えていただければと。
「見所?……うーん……何だろうなあ…………うーん……………………
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ダメだ全然…………うんとね
………………………見所は……………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
(数人が、部屋に出たり入ったりする。不思議そうに出ていく)
「……………………………………………………………………………………………何だろうなあ…………………………………………………………
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………わかんない、や…………
……………………………………………どこ観てほしいって、まあ………
……………………………………………………………………………………………うーん…………………………ふー……………………………………
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
(5分経過)
「……見所は、ない、です」
――(爆笑)
「ほんっとごめんなさい(笑)」
――じゃあ見所は、特にない、ってことで(笑)。楽しみにしてます。
「やだー、もう、宮永さんが助けてくれなかったから……」
――(藤原)でも面白かったですよ。
――(落)うん、すごくいい話いっぱい聴けた。
「落さん、やさしい♡」
――(藤原)ぼくも同じこと言ってるじゃん!(笑)
「へへへ。やさしくないとは言ってないじゃないですか」
――「ない」が続くと、肯定なのか否定なのか、よくわからなくなりますね(笑)。ありがとうございました。
(範宙遊泳『さよなら日本-瞑想のまま眠りたい-』より
撮影:amemiya yukitaka)
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次回は大橋一輝です。お楽しみに
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