範宙遊泳『うまれてないからまだしねない』Actors' Profiles​ No.09 福原冠

 最新作『うまれてないからまだしねない』(2014年4月19日〜27日 東京芸術劇場シアターイースト)に出演する10人の俳優たち全員に、ひとりひとり、話を聞いていくインタビューシリーズ。

インタビュー&構成=藤原ちから&落 雅季子(BricolaQ)


(範宙遊泳「東京アメリカ」再演より 撮影:amemiya yukitaka)


福原冠 Kan Fukuhara

1985年生まれ。神奈川県出身。プリッシマ所属。

おもな出演作に、日本劇団協議会・オールスタッフ「猿後家」(作:三浦直之/演出:北尾亘)、日本劇団協議会「SEX,LOVE&DEATH」(作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ+ナイロン100℃)、FUKAIPRODUCE羽衣「Still on a roll」(作・演出・音楽:糸井幸之介)、木ノ下歌舞伎「黒塚」(演出:杉原邦生/監修・補綴:木ノ下裕一)、悪い芝居「キャッチャーインザ闇」(作・演出:山崎彬)などがある。

範宙遊泳には「東京アメリカ」(初演・再演)「労働です」「うさ子のいえ」「ガニメデからの刺客」「夢!サイケデリック!!」など多数出演している。

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 様々な舞台に出演し、範宙遊泳でも常連と呼べる存在になっている福原冠。範宙では老人や先輩などの歳上キャラを演じることが多かったが、今回はまたひと味異なるキャラクターでの登場となりそうだ。山本卓卓に初めて出会った瞬間にビビッと来たという福原は、『東京アメリカ』再演(2012年)以来の登場となる新生・範宙遊泳に何を思うのか。


▼初対面で一発で好きに

——主宰の山本卓卓さんも含めて桜美林大生の多い範宙遊泳にあって、福原さんは違う出自なのにどうして一緒にやるようになったんですか?

「シアターグリーンの学生演劇祭の第2回かな。僕が旗揚げに参加した劇団と範宙遊泳が参加してて、その時に一発で好きになっちゃって。「初めまして」って挨拶した瞬間に惹かれて、まだお芝居観たこともないのに、その夏の作品に俳優として出てもらったんです。作家でも演出家でもないのに劇団の主宰に「山本君にこの作品に出てもらえないかな」って咄嗟に言っちゃって……」

——ビビッと来たんですね。

「全然イメージと違ったらどうしようと思ったんですけど、そのあとスグルの出てた範宙遊泳(『美少女Hの人気』2008年)観たらやっぱり俳優でもビンビン来て、お話(物語)にも食らっちゃって。それで仲良くなって、その半年後にあった範宙の『透明ジュピ子黙殺事件』(2009年)に呼んでもらえたんです」

——作品を観る前に……ということは、人間として惹かれるものがあった?

「人として魅力を感じたんだと思います。ロン毛だったけど(笑)」

——ロン毛だったんだ(笑)。

「演劇祭で、最初にみんなのこと知ろうっていうので、ワークショップを各団体の主宰の人がやっていったんです。で、スグルのは最初に「演劇のゲームをやります」って言って、開始した瞬間を今も覚えてるんですけど、うわっと舞い上がっちゃって。「演出家ゲーム」っていう、この中に誰か演出家がいるというものだったんですけど。自分の存在が揺らぐっていうか。その空間にいる人たちがみんな迷いながら様子見てるっていう、その様が面白かったんですね。そういうことを考えて演劇やってる人が自分の周りにはいなかったんですよ。起承転結のストーリーがあってそれをどう面白くするかっていう演劇しか知らなくて。だからスグルがやってたような、手法で演劇を遊ぶ、みたいなのは衝撃だった。で、範宙の作品観たら、またびっくりするぐらい面白かったし、しかもダサくなかった。それまでイタい表現になってる演劇しか知らなかったんで。自己満足みたいな」

——それまでは、演劇は物語ありきで、ダサいとかイタいものだと思っていた?

「ガッツリそうでしたね。だけど、そうじゃない欲もどっかで満たせるのかなあって思いながらやってたんです。もっと言うと、自分を隠してたかも。メチャクチャな欲望を、いわゆるコメディとか真っ当なSFに組み込むしかない……って思ってたフシがあったんですね。でも範宙遊泳の世界観にはハマれたっていうか、衝撃でした」


▼ 負の力からの転換

——その範宙遊泳との出会いのあと、演劇とはどういうふうに関わっていったんでしょう?

「今にして思うと、不満とか、つまんねえなとか、暴れたいとか。そういうのを燃料にして演劇に注ぎ込んでたかもしれない」

——何に対する不満ですか?

「うーん……生活、日常、ですかね。1回就職して働いてたし。唐十郎さんが何かのインタビューで「虚構に逃げたい」って言ってて、「その通りだぜ」って前は思ってました。身近の演劇もあんまり面白いと感じてなかった。だからムチャクチャしてやれ! って気持ちでいたんですけど、ある時からその気持ちが邪魔になったっていうか、醜く感じるようになって」

——その変化はどうして?

「範宙遊泳の『東京アメリカ』再演の時に、そういう負の動機で演劇やることに単純に飽きたし、限界がある、飛距離が短いなって感じて……。ただ「虚構に逃げる」だけでは作品にのめり込めない。創作のエネルギーとして、作家なら「逃げる」のはアリかもしれない。でも俳優としては「逃げる」のは負の要素だと思ったんですね。白井晃さんがとある作品の打ち上げで「虚構づくりにのめり込めるのが楽しくてやってる」って言ってたのをその頃に思い出して……。今の負の力だけでは、歳とった時に、自分も果たしてそういうふうに言えるかなと疑問に思って。それでもっと単純に、シンプルにやりたいなってここ最近はなってきてますね」

——舞台に立つ俳優としては、のめり込むようなモチベーションが必要だと?

「本当にいい芝居するな、っていう歳上の方に出会うと、舌を巻くというか、なんてシンプルなんだろうって思うんですね。演劇の始めたては、ただやってても楽しいんです。ぶちまけてるわけだから。でも狭いエリアでしかやってないと限界あるっていうか、楽しめなくなってきて。落ち込んだりもしましたね」

——そこから……

「それでもっと削いでいきたいなと思って、今に至る……って感じですね。ビートボクサーの太華さんが「ミュージシャンとして伸び悩んでいる時期は、弓を引っ張っているような状態だから、これをパンッて飛ばした時は楽になる」ってラジオか何かで言ってて、その言葉をしばらく糧にしています。そういう言葉に救われますね」

——じゃあ今は「弓を引っ張ってる」状態?

「……だと思いたいですね。や、こんなこと言っちゃって、そんな状態の人が舞台に立ってると思われるとアレですけど」

——いや、今回はそういう部分も含めて、今みなさんが考えていることを記録しておきたいんです。きっと後で振り返った時に、それぞれにとって重要な通過点だと思える公演になる気がするから……。

「これ、話変わっちゃうかもしれないんですけど、都知事選が自分的にはデカくて。細川(護煕)さんが出てきて、バックには小泉(純一郎)さんがついてる。2人ともオーバー70なのに、言ってることが候補者の中でいちばん青くさいし、戦い方もワンイシューで。この人たち青春だな……俺、70過ぎてこの青くささでやれてるかな? って考えた時に、そうでありたいなと思ったんですよね」

——青くさいことのできる70代になりたいと?

「的の外れてるようなことも含めて、それもいいなと思ったんです。老人のボケには見えなかった。若者のようにシンプルに戦うのが衝撃だったんですよね」


▼ギークの役との距離感

——やっぱり、シンプルに研ぎすませていきたいという気持ちがあるんですね。

「なので、今回の稽古はとても苦戦しているんです」

——それはどうして?

「僕が最後に参加してから1年半経って、範宙遊泳のツボっていうか、ここだよね、っていうポイントが変わってるんです。今回呼ばれたことは本当に嬉しかったんですけど、それにフィットするために、余計なことは極力しないようにしようと思ってしまって。そしたらスグルから「マイルドなんですよねえ〜」みたいなに言われちゃって……(笑)」

——マイルド……(笑)。遠慮して様子を見ちゃった的な?

「例えば、俳優のふざけとも取れるようなギャグっぽい、キワモノっぽいことはちょっと得意だったけど、そういうの出しちゃう自分がイヤだなと思って極力しないようにしてたら、「別にチャレンジであるならいいですよ」ってスグルに言われて。それで開けたというか、気持ちがラクになりましたね」

——今回はどういう役なんですか。

「大橋(一輝)君の同居人で、後輩で、ちょっとナードな、ギークなところがあるやつですね(注:コンピューターやインターネットに詳しいが、どちらかというと内向的な人々を指すスラング)。自称クリエイターみたいな(笑)。これ、悪く言う意味じゃなくて、本当にいたから言うんですけど、そういう人たちと一緒に住んでたことがあるんですよ、3ヶ月くらいですけど、とあるシェアハウスで」

——そうなんですか。


「そこにいた人たちって、まだ何者でもない人たちなんですよね。何者かになりそうな人は抜けちゃうっていうか。要は、創作の場所じゃなくて、シェアハウスなんです。ひとりになりたくて抜けるわけなんです。だから何者でもない人たちが集まってるんで、夜な夜な熱く飲むんですよ。「Webのこれからは……」とか「アニメーションのこれからは……」みたいな。まだ何者でもない、業界の下っ端の下っ端だけど、1業界につき1人みたいになってて他を知らないから、「俺のいる業界の目線でそれを言うと……」みたいなことを夜な夜な語り合うんです」

——なるほど……。その何者でもない気持ちもちょっとわかるなと思います。

「平均年齢22か3くらい? 30代もいますけど、まあ20代前半がいちばん多くて。……まあ今回はそういう役をやることになりました。了見狭くて、自分の尺度でしかモノを見てないやつなんだけど、暴力的に人と出会っていくというか、劇中で「扉」が開くところがあって。……って俺は勝手にそう解釈してるんですけど、開けられるんですね。ドンドン、開けてください、って感じで。そこで変わっていくのか、変わっていかないのか、って役ですね」

——あ、そろそろ稽古場の退館時間のようですね……。移動して、もう少しお話を聞かせてください。


(稽古場を出て、近くの居酒屋へ)


——どうぞ、一口飲んだ瞬間に人が変わるとかじゃなければ飲んじゃってください。

「じゃあ、生ビール!」

——じゃ、生ひとつと、ウーロン茶ふたつで……。ではさっきの続きを。今作のギーク的なキャラクターとは、どういう距離感でやることになりそうですかね?

「そうですねえ。まず、自分とはかなり距離があるなと思ったんです。自分、ネト充じゃないし(笑)。どっちかって言うと、2ちゃんねるのまとめとか未だに好きじゃないし、用語もわかんないし、リアルで戦おうぜって思ってるフシがあるから。まあ、そこもリアルじゃね? ってのはありますけどね。(ビールが来る)すいません、いただきます。だから難しいなと思って最初は気負って。いかにもギョッて感じでやるのがどうも……」

——ギョッていうのは、さっきの演技の質の話ですか?

「ええ、嘘くさくなるなと思って。ただでさえ自分との距離を感じるし。だから人との関係とか距離感のほうから考えてつくってきましたね。コーティングして見た目だけでつくっちゃうより、もっと距離感とか、飾らずにどうリアクションするか、っていうところから。それで最後に、見た目の部分を付け足す、っていう。結果としてそれがいい順序だったなって、本番終わってから思えたらいいんですけどね」


▼ 一生かけて理解していきたい作品

——最後に、『うまれてないからまだしねない』の見所を教えてください。

「見所かあ……。俺は、物語がもっと(批評的に)語られてほしいなって思います。範宙遊泳はここ最近、目に見える形で話題や評判になってるけど、前からスグルの書く物語はヤバいと思ってたんですよ」

——ああ、それこそ最初のビビッと来たという……

「そう、手法のこともあったけども、スグルは昔から、多様性のある物語を毎回書いてるんですよ。今作もそれは変わらず、むしろソリッドになっていて。自分も何作か出演してきて、『労働です』みたいに手法を試した時期もあったけど、でもそれとのマリアージュが取れてきているし、その時期を経て、また物語に戻ってきてるんじゃないかな」

——手法と物語がいい感じに絡み合ってきたという。それは感じますね、非常に。

「スグルは同世代で最も信頼している作家の1人ですし、そこがもっと注目されてほしいと俺は思いますね。今回は特にそう。ワンヒーローじゃなくて10人いる群像劇なわけで、この視点、この視点……っていろんな見方があると思うんです。そこをつぶさに観てもらえたら嬉しい。しかも、演劇でしかタッチ出来ない感触でその物語があるから」

——もしかすると今回、福原さんを呼んだのは、そういう才能をずっと見てきた人と一緒にここでやりたかったのかもしれませんね。

「だと嬉しいですね」

——さっきの、矢がいつ放たれるかという話なんですけども、福原さん的にはそれは今回なのか、もうしばらく弓を引くのか、どうなりそうですかね。手応えとしては。

「今回は捉えてるモノがデカいから、ミクロなポイントでグッとくるかもしれないけど、マクロな視点で見ると相当凄くて……。なんていうんでしょうね。一生かけて理解していく作品ってないですか? そうなるような気がしてるんです。言い過ぎかな?」

——どうなるんでしょうね。その予感はあります。

「たまに、そういう作品ってないですか」

——もしかしたら、たまに。でも滅多にないと思います。

「ここで捉えてるモノを一生かけて理解していきたい、って作品を、スグルはつくる気がするんです。それは参加してる身としては幸せなことなんですけど。今回の脚本は読まれました?」

——まだなんです。ただ、ここまでの9人のインタビューを通して、じわじわと全体像が見えてきたような気もしてます。

「そうか、群像劇だから、だんだんピースがはまっていくような」

——その意味では、もう我々の観劇は始まってると言えるのかもしれないです。でもまだ、最後のピースがはまってない……。

「ああ、(埜本)サチローさんの役こそ、解釈がいろいろ持てると思いますよ」

——「サチローさん」って呼ばれてるんですね。

「彼の方が歳下なんですけど、出会った時にみんなが「サチローさん」って呼んでたから俺もそう呼んじゃう癖がついて、そのまま今に至りますね」

——じゃあそのサチローさんに最後、秘密をお聞きしますね。ありがとうございました!

(範宙遊泳「夢!サイケデリック!!」より 撮影:amemiya yukitaka)


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次回いよいよラストは埜本幸良です。お楽しみに。



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