82| 檜扇
1年半ほど前の冬のある日。
新幹線に乗り込む朝の名古屋から、花吹雪のような雪が降りていて、向かう先の京都では小雪に、滞在2日目には大雪となりました。
このとき訪れた曼殊院と、たくさん歩いた鞍馬山のふもとより、今度は私たちのところへと、お客さまがありました。
はじまりは、賢さんに送られた一通のメール。
イザベル&フォスター(Isabelle Olivier & Foster Mickley)さんは、CuraterとArtist…。
私たちの東山の住居にお迎えすることになるも、
「何しにくるのかな…?」と、賢さん。
手がかりは、「ぜひ会いたいです」と、いうことのみ。
わたしはサンドウ庵の準備をして、お待ちします。
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入室して、一歩一歩をすすむ。
感性を研ぎ澄まし、時空、ある宇宙を自覚する。
あるかないか、触れるか触れないか、薄らいの花弁が、蕾の状態から、一枚一枚、はらりはらりと捲れていくような繊細さで、交流ははじまりました。
何処にも、何にも、何者にも寄せることのない、全き素のままに顕れ出ている存在に、自らの存在の奥中心は照らされます。
存在の中心と、表層座標との違いが浮き彫りとなり、はっと、衝撃を受ける。
目の前に現れているFosterさんは、かろうじて人型をしているけど、光や風といった方が近い・・・。
わたしは目を白黒させながら、
湧き上がってくる言い訳や、正当化じみた響きには、なんの効力もなく、
と、静かに、ひそやかに、微笑むようにかえってくる・・・。
感想を交わし合うと、賢さんは、4月に共に訪れた滋賀県三井寺の本堂に置かれていた観音さまや木仏を感じた…と。
頷きながらわたしも、蓮の花の香り、やわらかな振動を、感じていました。
7月前半の日々の稽古場を終えると、友人が、自宅の庭にある花をたくさん抱えて、遊びにきてくれました。「(色合いやかたちから)母親は〈金魚草〉って呼ぶんだけど・・・。」と言っていたその花の、のちに判明した名前は、『姫檜扇水仙(ひめひおうぎずいせん)』。
蒸し暑い、梅雨〜梅雨明け期に、炎のような色の、たくさんの花をつける夏の山野草です。
ちからづよく、野生群生するすがたも、そりゃまた美しかろう…と。
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