静かな勇気と度胸を持つ人
弟が来月結婚する。
私より彼はずっとずっと、賢い子だった。そのことに今更気がついた。
同じ家庭で、同じ親に育てられたのに、こうも違う人間が出来上がるのか。
世間に歯向かって歯向かって、生きづらさを抱えたまま、それでも、好きに生きてやる!嫌なことなんて絶対したくない!なんて吠えている、大人になり損ねた姉の私。
一方、小さい頃からおとなしい性格の弟は、様々なことを淡々と受け入れながら大人になって、大きな会社の一部となることを望み、それなりに悩みや苦労を抱えながらも一生懸命働いて、しっかりした一般的な人間になった。
かと言って、彼は好きに生きていない訳ではない。有給をたっぷり取って旅行も行ってるし、会社帰りにジムにも通っている。そこで出会ったのがお嫁さんだそうだ。
彼は嫌なことはしているだろうか?仕事で嫌なことは誰でもあるだろう。
彼が何より嫌なことは、私みたいに無計画に生きることかもしれない。
そう、私が高々と掲げている、安っぽいポリシーなんて、彼は掲げることなくしなやかにクリアしていた。
さらに、お相手の人生を背負おうとしているのだ。ちゃんとした大人になったんだなぁ、と姉は感心している。
はて、私はどこからどう間違って、そちらの道を外れてしまったのだろう。
大きな会社に入った方が楽だよ、手当もたくさん出るよ、そのためにしっかり勉強していい学校を出るんだよ、なんて、うちの親は教えてくれただろうか?
少なくとも私は「勉強しなさい!!」と怒られていた記憶しかない。
弟はそれらをいつの間に、誰から学んだのだろう。
姉は不思議で仕方がないよ。
弟とは、高校生くらいからまともに話をしていない。昔はずっと一緒に遊んでいたのに。
しかも私は、なんとなく弟を妬んでいた。弟は身体が弱く、母が構うことが多かったからだ。
仲良くしていた子供の頃でさえ、わたしは弟を支配したかっただけかもしれない。
大人になってもその妬みは続いたし、父が亡くなってからはより一層私は弟を嫌い、母は弟を頼った。私にはそう見えていた。
そんな折、母からこっそり聞かされた。
二十歳ごろに音楽活動で思わぬ飛躍をしてしまった私は、両親の関心を完全に独り占めしてしまって、その頃高校生だった弟は、ひどく寂しい思いをしたらしい。
それなのに、「姉ちゃんは、自分にはできないことができる」そう言って笑顔で応援してくれていたそうだ。
弟よ、こんないつまでも子供みたいな姉でごめん。
謝るタイミングを見事に逃してしまって、いつもぶっきらぼうにしか振る舞えなくてごめん。
一度も言わなかったしこれからもたぶん言えないけど、私は君を誇らしく思うよ。
私とは対照的な、静かな勇気と度胸を持つ人。
どうか幸せに。
わたしたちの家族で過ごした日々よりももっともっと、末長く、幸せに。
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