パンパンパン

久々に飲んだ。
上司が異動するので送別会を開いたが、3人だけの小さいものだった。

ひさびさに深夜の電車に乗った。
いろんな匂いがする。アジアンなお香の匂い、腋にたまったムッとする匂い、化粧と汗の入り混じった匂い。

隣で男女が仕事の話をしている。
男が先輩で女が後輩のようだ。

話は尽きない。何を話しているか分からないが、女は時折、手を叩く。
ベージュのマニキュアが映える。
女は話しながら爪が男に見えるようにする。そういう癖なのか、意図しているのか。

細く、美しい指をしている。
血管がやや太く、盛り上がっているため無骨な感じが否めないが、総体的に美しい手をしている。

ずっと話していた2人が黙る。
そのとき、停車駅に着く。
エンジン音が止まる。

静寂と言えぬほどの静けさ。
ふたりには少し居心地の悪さをもたらす。

男は沈黙を破るように話す。
何を話しているか分からない。

女はマニキュアを見せるのをやめたようだ。
あまり効果を感じなかったのかもしれない。

女は指先を弄ぶ。
男が何か話すと、パンパンパンと手を叩く。
指を見せる。

そういう癖なのだろう、そのあとはまるで自分を隠すように手のひらを上に向ける。

気づけば、男と女は同じ手の形をしていた。
手のひらを上に向けながら何かを待っているようだ。

僕自身が降りるのが先みたいだ。
2人をもう少し観察したかった。

まあ、世界は不完全さに満ちている。
なのに結論を急ぐほど、不完全さに満ちている。

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