「リーガル・デザイン・シンキング」とは

「証拠開示制度、日本でも導入に意義」一橋大・相沢教授 (日本経済新聞2014年6月2日付記事)

「企業活動はグローバル化しており、日本企業同士でも米国の裁判所を使う例が増えている。知財に限って言えば、日本で争っても原告勝訴率が低いうえに賠償額も低い。ディスカバリーのような制度もない」

「企業も本来は、自国の訴訟制度が使いやすければ自国で争う方が望ましいはずだ。翻訳コスト、人の移動、違う土俵で争うといった不利な点がないからだ。司法もサービスで競う時代だ。米国のように世界中から訴訟が集まるような司法制度を導入することが、日本の国益にもつながる」

法制度の「設計」または「デザイン」の必要性を端的に示す相沢先生のコメント。法制度は与えられるものではなく、選択可能なものである。情報環境/居住場所がボーダレスになるにつれて、今やこの法制度の選択は現実になりつつある。この記事でいう証拠開示や知的財産関連の訴訟制度もそうだし、アメリカでの起業にはデラウェア州の会社法がよく使われる。

IDEOの活躍でデザイン・シンキングという言葉も知られつつあるが、今求められているのは、法制度を「設計」したり「デザイン」する思考だ。法制度を、立法者による多様な当事者の意見調整の成果物と単に捉えてはならない。法制度は、社会を円滑化・活性化させるためのツールであり、どのような効果が得られる(た)のかは厳密に算定される必要がある。

例えば、現在法改正に向けて動き出している風営法は、2020年のオリンピックに向けた街の再開発の文脈などで、クラブ業界に留まらず多様な業界からの注目を集めるに至り改正案の中でも「ダンス文化を活用した魅力ある街づくりを進め、海外観光客を呼び込む」ことが改正の目的に挙げられている
これは、東京という都市のデザインの一部として法制度が(潜在的にせよ)位置付けられ、設計されようとしている一例だろう。従来取られがちであった、クラブカルチャーを守りたい関係者 vs 犯罪を抑制したい警察の利益衡量という一元的/対立的視点ではなく、都市に価値を創出するための法制度をいかに設計できるかという視点によりシフトしているように思える。

法分野は、今最もイノベーションが求められている領域だが、(公的機関のみならず、在野の法律家も含めて)そこに関わるプレイヤーにその意識が最も欠けている領域でもある。ただ、上記の風営法のように、少しずつそれも変わりつつあるように思える。2020年のオリンピックはその一つの契機になるだろう。他方で、憲法改正や集団的自衛権に関する憲法解釈の変更など、現在進められようとしている大きな制度改革が、誰の、何の価値のために、どのような法制度がデザインされようとしているのか、見定めなければならない。

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