インタビューと絵と話 vol.2 植田綾子さん
見出し画像

インタビューと絵と話 vol.2 植田綾子さん

絵と文章のユニットtentenによる、気になる人に決まったアンケートを取り、出てきたキーワードを元に作り出す「インタビューと絵と話」です。第2回目は植田綾子さんです。最初に話と絵があり、最後にインタビューがあります。どうぞお楽しみください。

▷インタビューは毎回同じ10の質問と、その人に聞きたい質問をtentenのメンバーtomomi takashioと石井真秀子がそれぞれ一つずつ追加で質問しています。◁




小さな仏像を守っている家に生まれた女は、7つになるまでその仏像を見せてもらえなかった。初めて仏像を見た時、それを持って来た祖父の手があまりにも愛おしそうに仏像を抱いていたので、仏像よりも祖父の手の記憶が強く残っている。

だからなのか、その仏像を触るとき、祖父の手がフラッシュバックのように瞳の奥に現れる。7つの時初めて触れて以来ずっとだ。もはや、それは祖父の手か、仏像を作った者の手か、それともこの仏像を引き継いでいく自分の手なのか、女には分からなかった。もうその手は仏像の一部となっていた。

その話を写真家にしたのは、写真家があまりにも真剣に女の手を写したからだった。その話を男は静かに聞き、最後にもう一枚、女の手をフィルムに納めた。


画像1


山の中にある古く小さな私設の美術館で、手をテーマにした写真の展示があった。写真の手はどれも年配のものだった。その写真家は事情があって祖父母に育てられて大きくなった。だからどうしても被写体がおじいちゃんやおばあちゃんになってしまうのだそうだ。

そこにフラリと入ってきた女がいた。目の綺麗な人だった。

彼女はサンサンと日の光が入るその小さな展示室に、日暮れまでいた。途中、そこで働く静かな細身の青年がハーブティーを出した。彼女は低い声でお礼を言い。端に置いてある椅子に腰をかけチビチビと飲みながら、写真に目をやった。

写真は、一見どれもこれも誰の手かは分からず、細く手入れの行き届いている女性だなと分かるものもあれば、土をいじって生活しているのが分かるゴツゴツとしたものもある。こちらは男性か女性かは分からない。どれも深い皺が無数にあり、血管が見え、関節が目立つ。色は濃かったり、または白すぎたり。手は正直だと言うけど、確かにずっと観ていると、なんとなく人となりが分かってくる気がする。もしかしたら、顔を観るよりもその人が分かるかもしれない。そう思わせるような写真だった。

しばらくすると、彼女は、カップを青年に返し、もう少し観させてもらいます。と、やっぱり低い声で言った。青年は静かに頷き、好きなだけいてください。と言った。




仏像を観たいと尋ねてきた若い女がいた。彼女は低い声で、近くの資料館でここの教えてもらったと言った。女は奥から仏像を出し、ついでにお茶を入れて出した。若い女は触ってもいいかと尋ね、了承を得られると緊張した面持ちで、まるで産まれたばかりの赤ん坊を触るかのように、慎重に愛おしそうに仏像に触れた。

その手を見て、女の目から思わず涙が一粒溢れた。若い女の手が祖父の手に見えたのだ。若い女は気づかず、ただ仏像を見ていた。

女が仏像をしまう時、若い女はどこかで見たことのある手だなと思い、女の手をマジマジと見た。女の手は、まるで何かを語っているように見えた。でも、若い女にはそれが聴こえず、女も言葉では語らなかった。

帰り際、玄関に飾られた一枚の写真が目に入った。それは、昔、山の中の美術館で観た写真展に飾られていた一枚だった。それを見て、若い女は、間違ってなかったんだな。と思った。これまでの人生も、これから進む先の人生も。そう思い、次の目的地へ向かった。

終わり


画像2


絵・Tomomi Takashio
文・石井真秀子


【インタビュー】

・お名前は何ですか?

「植田綾子です。」

・大事な思い出はなんですか?

「八重山諸島のボロ民宿で働いた二十歳の春。釣ってきた色とりどりの魚を毎日さばいて食べた。サメは煮て食べた。服のまま海に飛び込んで、泡盛と三線で唄って踊るワイルドな日々。」

・好きな時間帯は?

「日の出、鳥が鳴き始める時」

・好きな食べ物と嫌いな食べ物は?

「好き:わさび醤油 嫌い:焼き肉とかステーキ」

・気になっている事は何ですか?

「蘇我氏と平氏(特に将門)。坂上田村麻呂も掘りたい」

・印象に残っている人は?

「山梨県の過疎の集落で、先祖代々守っている木喰仏を見せてくれた90過ぎのおじいさん、おばあさん。人の尊さを知った。」

・行ってみたい国や場所はどこですか?

「アラスカ、鯨に会える場所。」

・10年後何をしている?

「団子茶屋を開いて毎日団子を作っている。」

・何も制限がなかったら何がしたいですか?

「徒歩で、日本中の遺跡・神社・仏像・石碑などを、温泉に泊まりながらくまなく訪ねて手を合わせて回りたい。」

・今会いたい人は?

「ひいおばあちゃん。好きだよって言いたい。」

・点と点をつなぐと聞いて何を想像する?

「人と人が手を繋いでつながっていく姿。」

・自分らしいなと感じる瞬間は?何故そう思う?

「歴史ある物や場所に出会った時と、猫や木と一緒にいる時。無条件の愛が湧き上がるのを感じるから。」

・最後の質問です。チェロで弾きたい曲はなんですか?

「バッハ無伴奏チェロ組曲第一番ト長調 プレリュード」


画像3


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
石井真秀子

投げ銭を放るようにサポートくだされば、とても嬉しいです。でも、読んでくださるだけでも嬉しいです。どうもありがとうございます。

うれしいです♡
「まほこさんのはなし」です。小説家・古本屋の石井真秀子が、日々のことと、もう一つの日々のことを書いています。 HOOKBOOKSと石井真秀子のHPはこちら→「MAHOROBA・まほろば」https://mahoroba.one