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インタビューと絵と話 vol.5 高根沢尚子さん

絵と文章のユニットtentenによる、気になる人に決まったアンケートを取り、出てきたキーワードを元に作り出す「インタビューと絵と話」です。第5回目は高根沢尚子さんです。最初に話と絵があり、最後にインタビューがあります。どうぞお楽しみください。

▷インタビューは毎回同じ10の質問と、その人に聞きたい質問をtentenのメンバーtomomi takashioと石井真秀子がそれぞれ一つずつ追加で質問しています。◁



その日、いつものように犬の熊五郎と散歩に出た。熊五郎は大きな黒い犬で、普段はベアと呼ばれている。身体は大きいが愛嬌があって、人が好きで、お腹を撫でてもらうのが好きで、とても食いしん坊な犬だ。

ベアといつもの湾沿いの道を歩いていると、ベンチに熊が座って海を眺めていた。なんの因果か今日わたしが着ているボーダーのカットソーと同じものを着ている。もちろん大きさは違うのだけど、ボーダーの幅も色も全く同じだ。一緒にいたらペアルックだと思われるなと思いながら横を通り過ぎようとした。

「もし、あなたは猫さんではないですか?」

急に声をかけられたのもあるが、人の言葉を喋るとは思わなかったので、ギクリとした。確かにわたしの名前は猫だ。

「ちょっとここに座ってくださいよ。今日の海は一段と美しいですよ。」

そう言って、熊はちょっとだけ左側へお尻をずらした。

「いえ、犬の散歩の途中ですし、犬はとにかく散歩が好きなので、先を急がないと。」

そう言い訳をしている最中から、ベアは熊の膝あたりをクンクンと嗅いだ後、吠えもせず、腹を見せて寝転がった。服従のポーズだ。熊の爪がベアの腹を引き裂きハラワタが四方八方に飛び散ったらどうしようか。と、そんな事を心配したが、熊はベアの腹を手の甲を使って上手に撫で、ベアは嬉しそうに身をよじらせた。

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わたしは諦めて熊の隣に座った。三人は余裕で座れるベンチだが、熊はやはりとても大きいので、せめて少し距離を置いて座りたいとベンチの端っこギリギリに座った努力も虚しく、熊とピッタリと寄り添う形になった。ペアルックの熊と人間が仲良くベンチに座っているという奇妙な光景のはずなのだが、他の人は特に気にならないらしく、驚かれもせず、にこやかに挨拶すらされた。

ところで、熊の毛はゴワゴワしているかと思いきや、フワフワだし、さぞかし臭いかと思いきや、とっても良い匂いだった。優しい沈丁花のような香りだ。なんだかとても良い気持ちになった。ベアがお腹を見せて寝転がる気持ちが分かるようだった。まるで安心、安全、心地良い。そんな感じだった。そして、熊が一段と美しいという海を見た。いつもと同じようにも見えるけど、そう言われるといつもより一段と美しいような気もする。そんな気持ちで海を見ていると、おもむろに熊が話し始めた。

なんの話かと思いきや、熊は最近とても心配しているという環境問題のことを話しだした。この湾は街に面しているけど、少し行けば山があるし、北へ真っ直ぐ行けば深い、深い人間が入ってこられないような森へ続いているからいいのだけど、ここはよくても他の熊たちのことを考えたら、どうもよく眠れないのだと言う。

夏は前よりも暑いし、冬も前よりも寒い。春も秋も早まっていて、しかも急すぎる。熊にとってはいろいろ心の準備が必要なのに、それをする時間がとにかく短すぎる。熊は眠ったり起きたりが実は下手くそで、それは冬眠をする熊にはとても繊細な問題なのだそうだ。寝床にもこだわりがあって、フカフカで暖かく、暑すぎてもダメ。清潔で、彩りも良く、広さも身体に適したちょうどよい広さというものがある。それを準備する時間が前よりも短くなっているらしい。

そして、目が覚めた後も、すぐには動き出せないというのだ。冬眠中に見た夢をじっくりと思い出し、一体どういう意味があるのかをよく考える。良い夢だったら、何がどう良いかを考え、何か注意しないといけないことがあればそれをじっくりと考えてから、ストレッチを入念にする。そしてやっと寝床から外に出るのだが、夢のことをよーく考えようにも外の鳥たちや虫たちの声がうるさく、ストレッチをしようとするも、ネズミやキツネ、タヌキやウサギなんかがわんさかやって来て踏み潰さないようにするのに精一杯だと言う。

それと、雨も前より激しく降るし、それは、本当に熊にとっては困ることなのだそうだ。いつもの川の水位が上がるとうまくシャケが獲れない。あれは足場が決まっていて、そこでシャーっとかっこよくシャケを獲るのを子熊たちに見せないといけないのに、水位が上がると足場が変わる。良いアングルで子熊にそれを見せないと、子熊たちは真似をしないのだと言う。これは由々しき事態だと熱弁をふるった。

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わたしは、足元に座るベアのおでこのあたりを撫でたり、おやつをあげたりしながら熊の話を聞いていた。たまに熊の方を見て、ウンウンと頷き、ネズミとキツネは喧嘩をしないのか?などの質問もはさみ、話をきちんと聞いているよとアピールをしながらも、遠くを飛ぶトンビの観察をしたり、ベンチの前をすれ違うベアの友達の犬とその飼い主に挨拶をしたりしていた。

熊は、一通り環境問題について思うことを話し終えたのか、ふとこちらを向き控えめに笑顔を作るとこう言った。

「ところで、今日はコーヒーをお持ちではないですか?猫さんのコーヒーはとても美味しいと聞いております。もし良かったらぜひご相伴にあずかりたいのですが。」

わたしは、もちろんですよ。と言うと、カバンから保温性のある水筒を取り出した。家を出る前に淹れたコーヒーはまだ冷めてないはずだ。それを見ると熊は近くからゴロンと大きな岩を持って来た。どうやらテーブル代わりにするらしい。わたしはその岩の上にチェックのハンカチを敷いた。そして、いつもカバンに入れている自分用と、誰かに会った時用のカップを二つ取り出して置いた。それを見ると、熊はホクホクした笑顔で自分のボーダーのカットソーの中に手を入れると小ぶりのリンゴを二つ取り出した。その後、ベアと目があい、あぁ、君の分もありますよ。ともう一つリンゴを取り出した。そして、カットソーで器用にキュッキュッとリンゴを拭いて、一つをベアに二つはカップの隣に丁寧に置いた。

わたしは水筒からカップにコーヒーをなみなみと注いで、どうぞと言った。熊はこれまた丁寧に手を合わせていただきます。と言うと、カップをそっと持ち上げ器用にコーヒーを飲み始めた。そして、グググっと一気に飲み干し、フーッと深く息をはいた。

「これで安心ですね。猫さんのコーヒーを飲むと心配事が解決するともっぱらの噂ですから。」

わたしは、そんな噂は聞いたことがなかったのでひどく驚いた。そして、環境問題はコーヒーではどうにもならないと思いますよ!と慌てて熊に言った。だけど、全く聞く耳を持たず、熊はあー良かった良かった。とニコニコと笑い、リンゴを一口で食べると、どっこらしょと立ち上がった。

「では、わたくしはこれで失礼します。環境問題も解決しましたし、安心して眠れます。どうもありがとうございます。」

わたしは呆気にとられつつ、熊にお名前は?と聞いた。なんとなく熊の名前が知っておきたかったのだ。熊はひどく真面目な顔をすると、こう言ってお辞儀をした。

「わたくし、ヒューマンと申します。猫さん、どうぞどうぞお元気で。またいつかお会いしましょう。」

わたしの足元でベアが、それに答えるようにワン!と一回だけ鳴いた。


終わり

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【インタビュー】

・お名前はなんですか?

「高根沢尚子です。」

・大事な思い出を教えてください。

「東京で勤めていた会社でジェフ マクフェトリッジの展示があり、急遽ジェフの通訳として仕事をさせてもらったこと。Beautiful Losersのジェフのページにイラストを書き足してくれたものは宝物です。そして、入社して間もない私にチャンスをくれた当時の社長はすごいとおもう!」

・好きな時間帯は?

「寝る前に布団の中で映画をみたり、ラジオ聞いたりする時間(これって時間帯?)」

・好きな食べ物と嫌いな食べ物はなんですか?

「好きな食べ物は、納豆、ブリトー、ナチョス、麺類全般。嫌いな食べ物は、レバーとか、刺身とか、卵かけご飯とか生物系。」

・気になっている事はなんですか?

「環境について!」

・印象に残っている人は?

「私の人生に関わってくれて、影響を与えてくれた人全て。」

・行ってみたい国や場所

「選ぶのが難しいくらいたくさんあるなぁ〜。ん〜、アメリカの様々なナショナルパーク、ニュージーランドのミルフォードトラック、コスタリカは鳥をみにエチオピアはコーヒー農園に行きたい。」

・10年後何をしていると思いますか?

「中年の10年はヤングの5年くらい長さだからきっとあっという間だな。特に変わりなく、心おだやかに生活していたいな。」

・何の制限もなかったら、何がしたいですか?

「制限なかったら~、ん~。特にないなぁ。あ、でも世界のいろいろな場所に住んでみたい。まずは、バンクーバーに居住して世界のいろいろな街で生活したい!」

・今会いたい人は誰ですか?

「え~、いっぱいいるなぁ。死んだおばあちゃんとか海の向こうにいる大切な友達とか。最近の推しニコ ヒラガとか。しまおまほさんにも会いたい。」

・<点と点をつなぐ>という言葉で何を想像しますか?

「テンテンマウンテン」

・コーヒーの次に好きなものは何ですか?

「本」

・無人島に半年間行くことになって3つだけ持っていけるなら、なにを持っていきますか?

「犬、ポッドキャストかラジオ、ブリタ(浄水器)過酷な無人島ではなく、無人島は人はいないけど、炊事はできると想定して…。」


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