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コロナウイルス奮闘記 #11


車輪の下

〈著ヘルマン・ヘッセ〉


なんで死んでしまったのか、ずっとわからなかった。
陽気なやつだった。真面目なやつだった。
失恋したことは知っていたけど、それが原因だとも思えなかった。

僕は、ずっと原因を考えていた。
何が彼を殺したのか、許せなかった。
僕のせいだったのかもしれない、学校のせいだったのかもしれない、親のせいだったのかもしれない。
僕にはいくら考えてもわからなかった。

教室での彼はいつも笑っていた。
勉強には熱心で、とくべつ勉強を憎んでいるようには思わなかった。
家庭環境も、知る方法はなかったから、なにもわからなかったけれど、彼のお母さんとお父さんは、告別式の日、僕らに一生懸命お礼を言ってくれた。彼らは、泣き腫らした赤い目にまだ涙を溜めて、深々と頭を下げた。
先生には、目を付けられるようなだらしないやつじゃなかった。

僕らは、仲が良かった。
僕は彼の居る毎日が楽しかった。

でも、結局、彼のほとんどを僕は知らなかった。
なにもわかっちゃいなかった。

高笑いする彼しか思い浮かばない。
勉強熱心な彼しか思い浮かばない。
勉強を教えてくれた、優しくて、真面目で、良い奴の彼しか思い浮かばない。

どうして、なにもわかってやれなかったのか。
どうして、なにも言ってくれなかったのか。

僕には未だにわからないことだらけだけど、この本のおかげで、少し彼のことをわかってやれたような気がした。近づけたような気がした。


彼のことを思い出す。
一緒に居たい。
一緒にお酒を飲みたかった。
汚い言葉で笑い飛ばしたかった。
おいしい日本酒を教えてもらいたかった。
おいしい焼酎も教えてもらいたかった。
ワインのおいしさを熱弁してほしかった。

僕は一生、
彼の真実を知ることはできない。
それでも、彼は、間違いなく素晴らしい人間だった。

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