【劇場版ヴァサラ戦記】ヴァサラ戦記FILM:RIVERS 並行世界と旧隊長:予告編【テイザーPV第一弾あるある。】

ゼラニウム街には奇妙な線が張られている。
それは現代でいう電線のようなもので人間では手の届かないところに無数に張り巡らされており、それは山頂の研究所へ繋がれていた。

その線から奇妙なものが流れている。
血だ。
この街のほとんどどの人は自宅に点滴のようなものがあり、そこから血を抜き、山頂の研究所から来る血を自分の体内に入れる奇習がある。

それは数年前新たな町長となった男、研究者アメクが極みと五神柱と血液の因果関係を解き明かしたことにより行われるもので、町民の九割が大なり小なり極みを宿し、使っていた。

その中でも得に強い極みを持つものは『筆頭極師(ひっとうきょくし)』と呼ばれ、その年の憧れの的になり、ありとあらゆる権利を取得することができる。
だからこそ町民達はこぞって血を提供するのだ。

数年前までは…

奇妙なことに筆頭極師はここ数年変わらないのだ。

血液の交換は今でも継続的にしているが、研究所から何かが変わったという報告はない。

更には町長であるアメクは現筆頭極師の強大な力に恐れを成し、全権はその男が握っている状態だ。

その男は緑の髪を左側だけ伸ばし、三つ編みのように結わえた奇妙な髪型に、紫と水色のオッドアイが特徴的な少年だった。

名はラミア。彼はここ数年筆頭極師に居座り続けている。

普段は筆頭極師の豪華かつ広すぎる部屋で自由に遊び、自由な時間に睡眠を取るだけのこの男が今日はなぜかせっせと忙しそうになにかの支度をしている。

「「「「ラミア様」」」」

呼んだのは四人の使者。彼らはラミアとそう年は変わらないが、部屋に来るなりラミアにひざまずく。

筆頭極師の言うことは絶対。
この街ではそれがルールなのだ。

「やぁ、わざわざありがとうね…今日は上物の羽織を他の街からいただいたんだ。四人分、彼らにプレゼントしようと思ってさ。『極座の四神(きょくざのししん)』通称『ラミア四天王』にね。」

極座の四神とは、筆頭極師とはいかなくとも優れた極みを宿した四人が選ばれる称号であり、かつては彼らも尊敬の対象だった。

しかし、今の四人はラミアが選んだ強者であり、畏怖の念を込めて『ラミア四天王』と呼ばれている。
彼らは恐ろしい極みを持ち、東西南北の各拠点に住まいを置いている。
ラミアの『とある目的』のために。

「なっ…あの人達に会いに行けと…」

使者はいきなり恐れたような声を上げるが、ラミアは悲しそうな顔でその男を見る。

「プレゼントをするだけだ。僕からって言えばわかってくれるさ。こうでもしないと彼らは僕を嫌う…そうだろ?」

「そ、そんなことはないかと…あなたは筆頭極師ですし…」

「でも、君ら四人僕をいじめてたよね?何の極みもなかった頃にさ、寺子屋で」

ラミアの問に四人の顔が硬直する。

「あ、あれは遊びの一貫のつもりで…」

「『板書ごっこ』とか言って僕の背中に刃物で文字を書くのが遊びかい?なら僕もしようかな…」

ラミアはゆっくりと刀を抜く動作をするが、それに恐れを成した四人は慌てて部屋を後にし、各々が任された四天王の元へ向かう。

「いいさ、どうせ反省してないって思ってるからね…」

ラミアは誰もいなくなった部屋でポツリと呟くと刀を抜き、何もない空間に素振りのように刀を振った。

四天王達に贈り物をした四人は街の外れで話し込んでいた。
その顔には明らかに苛立ちが浮かんでいる。

「ったく、なーにが『僕もしようかな』だ!元々は何度輸血されても極みが出ないで副作用だけだったカスのくせによ」

「ホントだよな。アイツいじめてた頃楽しかったろ?身寄りのない孤児院暮らしで極み無しの落ちこぼれ。あんなおもちゃいないぜ?」

「それだけじゃないわよ!ラミアに抵抗してるあのネアカ野郎のせいもあるんじゃない?人気者のあの野郎が何も言わなきゃあたし達の楽しみは無くならなかったでしょ。」

「あー、あの水色頭ね、あいつもだけどさぁ、やっぱラミアじゃなぁい?あの日から明らかに変わったでしょ?『ラミアが実験逃げた日』からさぁ」

「嫌なこと思い出させんなよ、あの実験の日だろ。」

「数日行方不明のラミアが服も体もきれいな状態で更に極みまで会得して発見されんだもん。まいるぜ…」

「てか、あたしらラミアの極み見たことある?ないよね?欺くだけの虚言なんじゃない?」

「アハハハ!あるある、今頃バレたくなくて震えてんじゃなぁい?」

「プッ、笑わすなよ」

「あるかもな、ギャハハハ」

四人が口々にラミアの悪口を言っていた目の前の空間が歪む。
まるで風景画が描かれた画用紙が真っ二つに破れたかのように空間にヒビが入るのだ。

「あぁ?何だこりゃ」

一人がそこを覗き込もうとすると空間から手が伸び、空間と空間の隙間へ引きずり込む。
空間に触れた男はまるでシュレッダーにかけられたかのように体がバラバラになっていく。

「ギャアアアア!た、助け…」

「断(ひとたち)」

空間内から技名のようなものを呟いた声の主はラミアだというのが生き残った三人にもわかる。
どうやってか彼はこの会話を聞いていたのだ。
そして復讐されている。

「ら、ら、ラミア様!あたしら女の子二人はずっと男性としてあなたのことが好きで…あぎゃ?」

逆側の空間から出てきた足に蹴り出され、先程の男がバラバラにされた空間に顔から突っ込み絶命する。

「あ、あたしはぁ…やめようって止めてたしぃ…ほ、本当ですラミアさ…ま?あれぇ?体どこ?」

空間に飲み込まれたのだろうか、喋っていた女の胴体が何処かへ消えている。

「うわあああ!助けてくれ!そ、そうだ!俺はあんたに従う!従うから!た、頼むからこの空間に押し込むのやめ…て…」

最後の男もあっさりと空間に吸い込まれてしまった。

「この街一帯僕に見えない、聞こえないものはないさ…」

ラミアは自分の部屋で抜いていた刀を鞘に納め、机に座るが、その手は震えている。

「四天王のみんなは…僕の贈り物を喜んでくれただろうか…気に入らなかったらどうしよう…きっと僕は襲われる…ちゃんと繋ぎ止められただろうか。」

ラミアは身寄りもなく、友人もいなかったため、人との適切な距離を取ることができないのだ。
毎日四天王を集めるときはこうして震えて眠れない夜を過ごす。
彼はそれがルーティンになっている。

さらに悪いことに、ゼラニウム街は山に住む上流層と下町生まれの貧困層に分けられており、もとから差別が起こりやすい街で、新町長になってからは極み差別まで生まれてしまった。

こんな街で人を信じろという方が難しいだろう…

「来て…くれるかな…今度の相手は僕一人じゃ少し骨が折れる…」

ラミアは東西南北と書かれた机の後ろに位置する自分の玉座のような席で『ラミア四天王』を待つ。

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