【とある深夜のシンヤたち】ーとある深夜の塩崎慎也(シオザキシンヤ)ー
「何故だ」
最初の問いはそれだ。
「何故、こんなことに…」
芝居がかった口調から、彼の衝撃度合いが把握出来る。
玄関を上がったところに、
見るも無惨な48分の1スケールのガンプラ。
バラバラであった。
三和土でがっくりと膝を付くは、
塩崎慎也27歳である。
帰宅時間は午前一時、風呂に入って寝るだけの予定であった。
黒縁の眼鏡を外して、
スーツの腕でぐっと涙を拭く背中は
さながら戦友を亡くした戦士のようだ。
犯人の目星はついている。
玄関にあるべきはずのジミーチューのベージュのハイヒールがない。
去年のバレンタインのお返しに買ってやったものだ。
「そうか」
涙を拭い、眼鏡を掛け直してからようやく思い当たる。
「誕生日だったか…」
やらかしたのだった。
今年はこれで3回目のやらかしである。
交際記念日、ホワイトデー、そして、肝心な、彼女の聖誕祭。
派手にやる、と宣言したのは先月の頭だったはずだ。
徐ろに携帯を取り出し、電話を掛けてみるが、当たり前のように電源が切られていた。
呻くように呟く。
「もう後がねぇ…」
次の策を講じようにも、睡魔という名の悪魔がどんどん手を引っ張っていく。
バラバラの愛機を丁寧に集めたところで限界が来た。
頭部だけかろうじてなんとか原型を保っている。
何を思ったか、頭部に接吻する塩崎。
「とーもこー…」
その言葉を最後に廊下に倒れ込み、息を引き取った。
かのように寝た。
最後に頭をかすめた言葉は『スーツに皺が寄る』であった。
とある深夜の塩崎慎也。
今日の深夜が明日の慎也の糧となるよう祈るばかりである。
合掌。
しろくまʕ ・ω・ )はなまめとわし(*´ω`*)ヨシコンヌがお伝えしたい「かわいい」「おいしい」「たのしい」「愛しい」「すごい」ものについて、書いています。読んでくださってありがとうございます!