【禍話リライト】男一、女二

 廃墟に行って、ゾッとするような体験をするのが好きなKさんという女性がいる。

 そのKさんが、とある田舎の廃墟に行った時の話だ。
 そこは、おそらくはキャンプ場だと思われる施設だった。Kさんは日中のうちにさしあたり周辺を全て見て回ったのだが、これは夜泊まってもそんなに面白くない、全部見たら帰ろう、とその施設に見切りをつけていた。
 その中に、宿舎のようなスペースをKさんは発見した。恐らく、その施設の職員が泊まっていたのだろう。中には既にマットの無くなったベッドの残骸などがあった。
 そして、適当にベッドに寝転んで書いたらこれぐらいの高さだろう、というような位置に、何やらボールペンで書き殴りがあることにKさんは気づいた。
 大体こういった落書きは、「〜のバカ」みたいなものばかりだろうと思いながら、Kさんはその文面を確認した。

『…年…月女性二人が男性をザンサツしました』

 Kさんは素直に、うわ怖、と思った。
 Kさんは廃墟だろうと一人で一晩明かすほどの度胸のある人間ではあるが、そんな彼女でも怖いと思ったのには、二つ理由があった。

 一つは、その…年…月が未来であること。
 丁度Kさんが廃墟を訪れた半年後ぐらいの日付だった。

 二つ目は、『惨殺』の字がこれだけカタカナで、他の文字は整っているのにこの言葉のみ酷く乱れていること。
 それがなぜか、Kさんの恐怖神経に刺さったのだという。

 一文以外には落書きはなかった。
 Kさんはこの廃墟を後にし、それから特に訪れることもなかった。


 それから二年ほど経った頃、Kさんが「廃墟写真友達」とする女友達と話している時のことだった。

「〜〜の廃墟に行った時、酷い目に遭ってさぁ……」
「Kちゃんは体験したことは無いとは思うけど、オバケというかヒトコワというかそういうことになっちゃってさぁ……」
「えっ?どういうこと?」

 Kさんが詳しく場所を聞けば、友人が行ったのはまさしく二年前にKさんが立ち寄った『ザンサツ』の落書きのある廃墟だった。
 友人たちも、事前に落書きがあるだのの情報は知らず、ただ廃墟があるとだけ聞いて写真を撮るために行ったのだという。
 ただそこでKさんがゾッとしたのは、行ったメンバーが友人含めて女性二人男性一人だったことだ。
 じゃあ現場で落書きを見て、人数があってるからゾッとしたとか、そういうことだろうか。

 しかし、友人の語るところによれば、そういう訳ではなかった。

「楽しみにしてたんだけど、途中、道の駅に寄ってトイレ休憩、ってなったんだよね。そしたら、運転手の男の人が全然帰ってこなくて……」
「彼の車だし、戻ってこないと車にも入れないから困ったなーって思ってたんだよね」


 その日は平日で、道の駅はそれほど人の入りはなかったらしい。そして、男子トイレに入ったのも運転手の彼一人だと分かっていた。
 やがて、具合でも悪くなっているのかもしれないと思うほどの時間が経ち、メールで大丈夫かと聞いても一切の返信が来なかったのだという。
 仕方なしに、友人らが男子トイレに近づくと、激しく水道を流しているような水音が聞こえた。まるで何かを洗っているかのようだった。

(もしかして、何か粗相でもしてしまって下着なりを洗っているのだろうか?)

 そう思って中を覗くと、男性はどうやら顔を洗っているようだった。そして、彼女たちの視線に気づくことなく蛇口を閉めると、彼は鏡に映る自分に向かって「大丈夫、大丈夫」と呟きはじめた。


「えっこの人ヤバい奴?って思ってたらさ、鏡の中の自分に向かって、『大丈夫、言うても俺は身体は大きいし、分かってる訳だから、不意を突かれるってことは無いんだから大丈夫大丈夫』っつって、またバシャバシャ顔洗い出すからさぁ……私たち怖くなっちゃって……」

 結局友人の語るところによれば、一緒に廃墟に行く予定だった男がヤバい奴だったので、女二人でタクシーに乗って帰った、ということだった。
 さらには、後日再びその男性と顔を合わせても、そもそもあの廃墟に出かけたことすら彼の中では無かったことになっていた。

「そんな不思議なことがあってさぁ……まぁ、その廃墟に理由があるのかは分からないけど、気持ち悪いよね〜」

 Kさんは、この友人に落書きのことを教えることはできなかった。
 とりあえず、なんかよく分からないけどここは私が奢るわ、と言うしかなかったそうだ。


(出典:シン・禍話  第四十夜(後半一時間はただの雑談です)

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 本記事は、ツイキャス「禍話」にて放送された、著作権フリーの怖い話を書き起こしたものです。
 筆者は配信者様とは無関係のファンになります。

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