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ニコニコ学会βの熱量を生み出した、共創イノベーションのひみつ

ニコニコ学会βって聞いたことありますか?2011年から2016年までの5年間限定で運営された、市民と研究者が出会う「学会」です。この仕掛け人が本日(6月15日)のゲスト、江波浩一郎さん。お裾分けシリーズ2020、第5回です。

パターン・ランゲージから共創のしくみを考える

江波さんの仕事は「創造の基盤をつくる」こと。大学院在学中から、インターネット上の繋がりを可視化する作品をつくるなど、メディアアーティストとして活動してきました。ネットワークのビジュアライズは最近ではよく見る表現ですが、江波さんは先駆け的存在。1996年に発表された「WebHopper」は、アルス・エレクトロニカ賞グランプリ(コンピューター界のオスカーとも称される賞)を受賞しています。

そこから、インターネット上で創造的な仕組みを促すしくみに関心が移ります。例えば、わたしたちが日々お世話になっているWikipedia(たまには寄付しましょうね)。さまざまな人が集まって百科事典をつくろうというしくみです。

この発想の元になっているのが、建築家クリストファー・アレグザンダーが編み出した、パターン・ランゲージです。パターン・ランゲージは建築や都市計画を行う上で必要とされる要素をパターンにまとめたもの。このパターンを組み合わせると、よい建築や都市計画になるだろうという考えから生まれたパターン集なのです。

組み合わせると矛盾が生じるなど、さまざまな問題もあり、建築の世界ではあまり使われることがないのですが、その考え方は広い分野に影響を与え、さまざまな開発手法が生まれました。アジャイル開発もその一つ。今では、さまざまな分野でパターン・ランゲージが生まれています。

ユーザーとともに育ったWikipedia

実はその当時、Wikipediaのような取り組みがたくさん立ち上がったそうです。でも、ことごとく失敗し、残ったのはWikipedeiaだけ。なぜでしょうか?

Wikipediaも最初は専門家だけが参加でき、さらに査読が7回という厳しいルールがあったとか。うまくいかず、不特定多数の人が編集できる「WikiWikiWeb」のしくみを導入することに。不特定多数の人が編集する辞書なんてありえないと反対も多かったそうですが、共感した人が残ってみんなでルールを考えました。

最初つくったルールは7つ。今でも残っているのは、「偏向を避けるが、中立的」の1つだけ。Wikipediaはこうしてユーザーと共に育っていったのです。

人に愛される学会をつくりたい!共通善が求心力に。

学会は研究者でなければ、縁遠い場所ですよね。私も大学院生になって、初めて学会に参加しました。一般の人が楽しめる場、とは言い難い場所ですよね。でも、研究者でなくても、自分なりに実験をしたり研究し続けている方はたくさんいます。いわゆるアカデミックな専門家と市民研究者をつなげる場、それがニコニコ学会βでした。江波さんいわく「野生の研究者の集まり」。ワクワクすることばですよね!

ニコニコ学会βが立ち上がったのは2011年。そう、東日本大震災があった年です。原発事故によって科学が批判する声も大きく、今だからこそできることをやろうと考えたそうです。

「科学は専門家だけのものではない。みんなも科学に関われる。日本人全員を科学者にする」

それを目標にしようと、それで協力してくれと言った
簡単に実現できる目標ではない。でも、それをやるんだ。

簡単に実現できる目標ではない、高いレベルの共通善です。このメッセージが共通善になり、みんなの力を束ねる求心力となったのです。

NPOでも同じです。高いレベルで共感できる理念があればこそ、求心力が生まれます。ニコニコ学会は5年間という区切りがあったからこそ、全員がボランティアでも全力投球できたとおっしゃっていました。よくわかります。その熱量を持って継続するにはどうすればよいのでしょうか。まだまだ問いは続きます。

このnoteは、武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論のお裾分けシリーズです。

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