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古代ギリシャ土着信仰の聖なる飲み物キュケオンに菌が使われていた?

占星術は殆ど見ませんが、子供の頃は星座の謂れギリシャ神話が面白くて結構ハマっていました。(私事ですが乙女座です。)
乙女座が農業の神であることを最近改めて知り、仲間と畑を始めた必然性を感じたりしていたのですが、その乙女座のデーメーテルとその愛娘ペルセフォネー(コレー)を神と崇める古代宗教儀式に使われる飲み物「キュケオン」に思いもよらぬ菌が使われていたことに着目してみました。

ギリシャ神話 乙女座

冥界の王ハデスは妃探しに難航しており、兄である大神ゼウスに相談したところ農業(穀物・大地)の神デーメーテルとの間にもうけた美しい娘ペルセフォネーの名前が上がりました。
 それを知った母デーメーテルはシチリアに娘を隠しますが、野原でケシの花を摘むペルセフォネーは突如地面が割れハデスに拐われてしまいます。
 悲しみに暮れるデーメーテルは食事はおろか農作業も手につかなくなり、地上の草木全ての作物は枯れ人々は飢え死にしていきました。
 困ったゼウスは娘を母の元へ返すように迫りますが、返したくないハデスはペルセフォネーに柘榴の実を与えます。
冥界のものを口にした者は永続的に地上に帰れない掟があり、一年の三分の一だけは冥界に戻ることが条件となりました。
 これが四季の起こりで母の元で暮らす春から秋までは作物が育ち、冥界に戻る間はデーメーテルの悲しみにより大地は凍てつき作物が枯れる冬になったということです。

https://seiza.imagestyle.biz/sinwa/otome.shtml

古代ギリシャの土着信仰
エレウシスの秘儀

 さて、キリスト教が起こる以前のヨーロッパの土着信仰のうちのひとつに「エレウシスの秘儀」があります。秘儀というのはそこで行われていることを他言すると死刑に処せられるほど厳格なものだったそうで詳細は知られずにいますが、2000年間もの間古代ギリシャ最大の宗教だったそうです。かの大哲学者プラトンやソクラテスもエレウシスの秘儀の信者であったとか。
そこに祀られているのがこのデーメーテルとペルセフォネーなのです。
 エレウシスはアテネから18km北西に位置する町の名前で、毎年9月に入信式が執り行われます。
断食を経てから「キュケオン」という飲み物を飲み、演劇を見て終了するのだとか。
プラトン曰くこのキュケオン[kykeon]は「本質的に神と一体になれる飲み物である」と伝えています。


https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%AC%E3%82%A6%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%81%AE%E7%A7%98%E5%84%80

キュケオンとはどのような飲み物だったのか

キュケオンの原料は、麦・水・ミント。
それがどのような飲み物なのか諸説あります。

 麦と水の飲み物と聞けばビール?
古代エジプトではピラミッドを作る労働者への水分とスタミナ補給にビールを与えたと聞きます。そもそも衛生面から真水が飲めなかったのも有りましたが、麦芽飲料となればエネルギー源になるのはわかる気がします。
ミントビール美味しそう。

 また、「魔女の麦粥」と呼ばれた古代ギリシャ料理もあった様です。キュケオンは“かき混ぜて濃くする”という意味を持つそうで、飲み物と食べ物の中間的なものだとも考えられているとか。

オートミールてなんちゃって魔女の麦粥作ってみました。
ブラックミントの清涼感が意外と美味しい。

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 また古代ギリシャの農民の間で飲まれていたのが大麦を水で粥状に炊き、麦を濾してミント水と作る飲み物が好まれたそうでこの説が最も有力なような気がしています。古代ギリシャに限らず母乳代わりに治療薬やエネルギー補給に大麦の煮汁を飲むことはメジャーなようで、ウィンブルドンのテニス選手も大麦水を飲んでいたとか。日本で言うところの「おもゆ」のようなものだったのかもしれませんね。
(追記 : ハデスに娘を奪われ人間界を飲まず食わずで探し回った末に疲れ果ててたどり着いた農家でデーメーテルが口にしたのがキュケオンであったそうです。)

キュケオンレシピ
材料:
大麦 1/3カップ
水 4カップ
蜂蜜 大さじ3
ミントの葉 細かく細かく刻んだ12枚分

つくりかた:
 中鍋で大麦を熱し、沸騰するまで熱します。
 火を弱め、蓋をして、90分煮る。
 別のボウルに水を入れ、ミントとハニーを加えます。混ざるまで徹底的に攪拌する。
 煮た鍋をサーブする?(火からおろして) 煮上がった大麦と水を別で保存します。
 (煮汁にミントとハニーの水を加えて?)4人前に分ける。

キュケオンレシピ引用元blog
http://kamifuru.kokage.cc/kami/yugi/wp01/blog01/%e3%82%ad%e3%83%a5%e3%82%b1%e3%82%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e3%81%ae%e5%86%8d%e7%8f%be%e3%83%ac%e3%82%b7%e3%83%94%e5%a4%a7%e9%ba%a6%e7%89%88-2502.html

(本来は大麦の玄麦をひき割るのだと思いますが)丸麦砕いて粥状に炊いて液体を濾し取り、蜂蜜ミント水と合わせていただいてみました。優しく身体に沁み入ります。これは美味しい!

これって水キムチやそやしに似ているような気がする・・・ということでこのボトルは飲み干す前に一旦預からせていただきます。

追記2021.8.9 Instagram記事
https://www.instagram.com/p/CSVUaibhaAg/?utm_medium=copy_link

キュケオンに入ってたとされる幻覚成分とは

 さて、キュケオンには幻覚成分が入っていたとされる説があり、その調合は女性の仕事だったとか。それが魔女のと言われる所以でしょうか。

 その幻覚成分の元がなんと「麦角菌」!(遺跡から成分検出がなされたのだとか。)
麦角菌は穀類・麦(特にライ麦)につく黒色の菌核(糸状菌・カビの一種)で猛毒を持っています。手足が壊死したり流産するなどの他、幻覚作用を持たらすとされていることがLSDを開発したスイスの化学者アルベルト・ホフマンによって発見されています。
 麦角菌は生薬としても用いられているそうで、これも毒とも薬ともなり得るものなのでしょうか。

公益社団法人日本薬学会
「バッカクキン」
https://www.pharm.or.jp/herb/lfx-index-YM-201209.htm

麦角菌(バッカクキン)とは?菌の概要や中毒症状から対策まで簡潔に解説!

https://botanica-media.jp/2529

キュケオンは麦角菌の幻覚成分だけを取り出して用いたのか謎ですが、断食明けにこれを飲んで鑑賞する演劇はどんなものだったのでしょう。洋の東西を問わず古代信仰にはこのような幻覚作用を用いることがあった様ですね。
(追記 : 発酵マニアのアジア人はこのカビで醸されることはなかったのか。再現レシピとして麹を加えてみたら…などと妄想が止まらないのでした。2021.8.6)

麦角菌と稲麹

 麦角菌と聞いて私が真っ先に思い浮かんだのが稲穂につく稲麹(稲玉・稲霊)でした。

以下Wikipediaより引用

稲こうじ病菌はバッカクキン科のカビであり、米麹などを作るコウジカビとは全く関係がない。「稲麹」という名称が誤解を与えるため、麹菌の野生種と混同されている事例がみられる。稲こうじ病菌自体がウスチロキシンというマイコトキシンを産生するため人体に有毒である。また、稲麹の病粒から分離したカビを用いて醸造する手法が知られているが、たまたま混入したコウジカビ類の菌を利用したものと考えられる。この場合も、野外のコウジカビ類(Aspergillus flavusなど)にはアフラトキシンやオクラトキシンなどのマイコトキシンを産生するものがあるため、稲麹を用いることは危険である。[要出典]


 種麹が一般的に普及する前は米麹を作る際に稲穂に着いた真っ黒い(濃い緑)玉を用いたとあります。
実際この玉を蒸米に一粒置いただけでオリゼーのような黄緑の胞子で覆われました。

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 Aspergillus・オリゼーは稲と共生するため、この稲玉にもオリゼーが着いているわけでこれを用いて米麹を作れるのだと理解しています。

 稲麹から採取した麹菌で米麹を作り、甘酒や味噌などを作りました。検査機関に出していないので自己責任です。オリゼー以外の菌も当然いますので無闇に行うべきものでありませんが、そうして米麹を作ってきたことは事実なのです。

 検査したわけではないのではっきりしたことは言えませんが、稲玉と同じようにして稲穂から。そして今、稲藁からもオリゼーらしきものを採取培養しています。

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色々居ますね。ここから始まります。
天然菌、野生カビは危険。
採取するべきではない。

 安全で優良な一粒の胞子を純粋培養するというそれはそれは大変な作業を種麹屋さんはして下さり安心安全な麹が作れているのです。
 時代に逆行したいのではなく辿ってみたい。

そして稲藁麹と同じタイミングで我が家の庭先でオリゼーを捕まえたように思います。

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 素人の私に何処まで出来るかわかりませんが、この夏採取した稲藁麹や庭先採取の麹菌を純化してみたいと思っています。検査機関に観ていただき晴れて安全のお墨付きをいただけたら、この麹から仲間と育てた大豆で味噌を作り、皆と味わうことが私のささやかな夢なのです。

おわりに

 『腐る経済』『菌の声を聴け』の著者であるタルマーリーの渡邊格さんは「場が整えば綺麗な麹菌が降りてくる」と言います。渡邊格さんは自然界から採取した天然麹菌で酒種パンを作り、ビールの醸造も手掛けられている天然菌のパイオニアです。
https://www.talmary.com

 天然麹菌を採取・蔵つきの天然麹で醸造する味噌屋さんがあります。種麹屋さんの種麹での醸造もしつつ、天然菌での作りを守り続けておられるお蔵の存在はとても貴重で、残すべき文化であると思っています。

 今日は8月5日発酵の日。
ギリシャ神話から天然菌の締めくくりとなりました。
今日よりはまた心新たに醸して参りたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

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