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ききょう

まったくイヤになる。

なんでこんなにも思いどおりにいかないのかしら。

私はね、かっこいいひとじゃなくて、やさしくて私にだけつくしてくれるひとがいいの。

なんてかっこつけて、にんきナンバー2のかずくんをふった。

そしてみつけたのは、ちいさな青いハンカチをさしだしてくれたひと。

「なおちゃん、だいじょうぶ?」

どろんこあそびで、すりむいたところをあらっていた私のこころにひびいたの。

きがきくやさしいひと。

ゆうまくん。

タレ目でなきむしだけどやさしい。

わるくないわ。

「ゆうまくん、わたしとおつきあいしてくれる?」

おとこからのコクハクをまっているだけじゃおそいのよ。
こいはたたかいだから。

「……うん?いいよ」

にっこりうなずいてくれたゆうまくん。

なのにどうしてなの?
なんでほかの女の子と手をつないでるの?
きょうの幼稚園でのことを思いだすと、ばたばたとなみだがおちる。

しゃがんでないてたら、ごきげんな兄がでんわで話すこえがした。
どうやら片思いしていた女の子に花火大会でひさしぶりにあえたみたい。

私はてんこうしてないからわからないけど。
なんかむかつくわ。
おとこなんてうらぎりのいきもの、ちょうしのいいいきものなのよ。
ドラマのセリフを思いだす。

まったくお兄ちゃんたら大声で。みんなにきこえちゃうよ?ひまわりの花?かのじょのことかしら?
私はね、お花のなかだったらききょうがいちばんすき。

おばあちゃんの家のおにわで、このお花かわいいねっていったら、おしえてくれたの。
ちいさなむらさきのコビトさんのぼうしみたいなおはな。

「このお花は桔梗っていう名前でね。花言葉は永遠の愛っていうのよ」

「えいえんのあい?」

「そう。ずっとずっと、あなただけがだいすきですって意味なのよ」

「おばあちゃん、わたしこのはな、だいすきになった」

「あらあら、そう。よかったわ。おばあちゃんもこのお花、だいすきなのよ」

ゆううつなきぶんだったつぎの日の幼稚園。
とたとたとゆうまくんがこっちにくる。
ふん!とおもしろくない気持ちでムシしようかかんがえていたら、

「なおちゃん、このおはなあげる」

ゆうまくんがさしだした手には一輪のききょうの花。

「……どうしたの?これ」

「きれいだったから」

「……ありがとう」

まだまだ、こんなもんじゃゆるしてあげないんだから。
なんでハルカちゃんと手をつないでたのか、あとでとっちめなきゃ。

でも、うれしい。

「ゆうまくん、わたしのこと、すき?」

「うん。なおちゃんすきだよ」

にこにことおだやかにこたえるかれのくせっ毛がぴょんぴょんとはねている。
あたりまえみたいにめのまえにさしだされる手のひら。
きちんとしてないけど、やっぱり私のためだけにつくしてくれるのは、ゆうまくんみたいな男の子だと思うのよ。

ほんとうよ。

そくばくしすぎるのもよくないから、こんかいはゆるしてあげよう。

お兄ちゃんにもそくばくはよくないのよっておしえてあげなきゃ。

「ずっとなおのことすきでいてね?」

「うん」

あたたかい手をきゅっとにぎりしめて、かたほうの手にはききょうのお花をにぎって。
きょうかえったら、おばあちゃんにつたえよう。
かれしから、ききょうのお花をもらったよって。

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