ぺこぱの漫才はスリルだ

私はお笑い番組をたまに見て笑うぐらいの凡人だ。そんな私が昨年のM-1でぺこぱの漫才を見てすっかり虜になってしまった。お笑いの技術的なことはわからないし、面白さは人それぞれだ。ただ、私自身なぜぺこぱにはまってしまったのか、10ヶ月たってようやく自分の中で言語化できた気がするのでつらつらと書き留めておく。

昨年のM-1はとても面白かった。優勝したミルクボーイはもちろん、ボケとツッコミが言葉を剣に変えてリズムよく刃と刃を交える、まさに「真剣勝負」の連続だった。

9組の真剣勝負が終わったあといよいよ最後の組となり、私は決勝にすでに考えをめぐらせていた。それぐらい上位の3組は圧倒的に強かった。今年はどの組が優勝しても文句ないな、すごかったな、ぐらいで完結させようとしていた。

そこにぺこぱがぬるりと登場した。第一印象はあまりない。ツッコミの方が癖がありそうで、ボケの方が「普通」というラベルがついた少し変な人ぐらいなんだろうな、ぐらいだ。

ただ、彼らの漫才が始まるとすぐに違和感があった。「今まで見てきたものと全く違うものを見せられている」と感じた。
これまでの9組はボケとツッコミがお互いに切り合う、言うなら剣と剣が交わるキィン、カキィンという音が心地よく響いていた。しかしぺこぱの場合、ボケの刀をツッコミが受け止め、切り返さずに吸収していくので、勝負にならない。しかもあろうことかボケの刃先を審査員や観客にチラチラと向けてくる。ましてや「今のボケをボケだと思う人は手を挙げろ」と言わんばかりで、見てる側に勝負を挑んでくるのだ。

恐ろしい。私は今まで安全地帯でチャンバラを楽しく見ていたはずなのに、ツッコミがつっこまないのに加え、ボケの攻撃をそのまま観客に受け流してくる。ツッコミの得体の知れなさに不安になり、もしかするとボケの方がマトモなほうかもしれないとボケを見ると、ボケはただただボーッとしている。もはや不気味だ。二人とも自分達の常識外れとも言い切れない世界に観客を引きずり込んでいくのだ。

恐ろしい。私はぺこぱの漫才で感じたこの「スリル」がここまで虜になった理由だと思う。自分が今まで笑ってきた常識への疑問を心に直接刺していくのだ。

ここまで書くと本当に笑えるのかよくわからなくなってきたがこれがなぜかとても面白い。技術的なことはわからないので書けないが、今までにないスタイルのためどんな矢が飛んでくるかわからないドキドキ感もあり、私はいつも彼らの漫才に優しさというよりはスリルを求めてしまうのだ。

私が書くまでもなく彼らは今バラエティでもミュージシャンとしても大活躍だ。そんな彼らの姿をファンとして楽しく応援しながらも、心の底ではまた彼らの漫才が刃先となって自分の喉元に突きつけられることを望んでいる。

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