解放された少女。(串マキ)
―――まもなく、仮装大会が始まります。
祭りの始まりを告げるアナウンスの声に目を覚ます。どうやら机で眠ってしまっていたようだ。
大きく伸びをし、壁に視線を向けると美しく煌びやかなドレスとは違い、燕尾服風ゴシックワンピースがかけられていた。
「そろそろ準備しなくちゃ。えっとこれは……フィッシュテールスカートっていうんだ。ドレスとはまた違って可愛いスカートだなぁ。サイズもあってる」
まず鏡を見ずに、身体に合わせた後、ワンピースを片手に鏡の前に立った。その後、慣れないチェーン装飾と赤黒マントに苦戦しながらも着ていくマキの顔は、とても楽しそうな顔をしていた。着ていた服を畳、机に置き、赤いリボンを取った時、夜の空が明るくなり大きな音と共に美しい花が咲いた。
「綺麗……これが、花火。初めて見た」
リボンを握りしめたまま、窓際へと行くといくつもの花が上空にいくつも打ち上げられ、仮装をしてはしゃいでいた者たちは、歩みを止め皆が空を見上げ笑っている。
その美しさと、人々の笑い声に徐々にマキの口元は震え、リボンを持つ手は震え、自然と涙が流れた。
「……そっか、もう闘わなくていいんだ。守れたんだ、私」
「マキ、そろそろ祭りが始まるぞ。準備はできたか?」
「は、はい! 今行きます!」
扉のノック音に我に返り、慌てて涙をぬぐい、赤いリボンを首に巻きながら扉を開けると、赤黒マントを羽織った少しむくれた串間が立っていた。マキの姿を見ると、少し照れた表情を浮かべ目線をそらした。
「……似合ってる」
「ありがとうございます。……なんだか並ぶとお揃い……みたいですね」
「いやか?」
「ううん、嫌とかそういうわけじゃないけれど……」
「そうか。……動くなよ。リボンがずれている」
彼の手が伸び首元のリボンをただした後、黒赤マントをマキに羽織らせ、そのまま引き寄せると強く抱きしめた。短い悲鳴は花火の音に消され、何が起こったのか分からずマキは困惑する。
部屋の前での出来事だったため、行きかう宿泊人がちらちらとこちらに好奇な視線を感じ彼の腕から逃げようと身をよじり彼の名を呼ぶ
「生きててよかった……今度は間に合ってよかった……!」
彼の小さく少し弱弱しいつぶやきに似た言葉に動きを止め、戸惑っているとゆっくり離れ背を向ける。もう一度確認するように彼の名を呼ぶと、回れ右をし振り向かずに速足で歩みをはじめた。
まるで何事もなかったかのような態度の彼に、唖然としたマキだったが慌てて追いかけ、腕をつかむ。
「もう、さっきから呼んでるじゃないですか!!」
「……吃驚したか?」
「え? それはもうビックリしましたよ! 急に抱き着いてくるなんて、何を考えているんですか!!怒りますよ!?」
「じゃあ涙も引っ込んだろ。あいつ等もあんたが泣いていたなんて気づかないだろ。……いこう。この仮装ならだれも君とは気づかないよ」
「…………貴方、色々とずるい人です。」
「よく言われるよ」
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強制終了。ハロウィンが近いので、リハビリがてら本編を交えたイフストーリーの串マキを書いてみました!
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