R-1グランプリ2021 ネタの感想

〜有料記事にはなっていますが、最後まで全部読めます〜


予告なく出場制限を10年以内にしたことで反感を買い、霜降りをMCに、野田クリスタルやザコシらを審査員に据えたことで期待感を上げた新生R-1グランプリ2021は、番組構成の失敗が目立つという結果になった。

このあたりの不満は恐らく他にも書いている方がいらっしゃると思うので、ここでは各出場者のネタについて感想を書いておきたいと思う。
もちろんネタを軽く一言で論評するなんて失礼極まりない話なのだが、2021年のリアルタイムで、1人の個人がどのようにネタを見ていたかという記録は大変に資料価値があるもので、敢えて感想を書き残しておきたい。

①マツモトクラブ

敗者復活の常連。録音したセリフとマツモトクラブとの会話形式でコントを見せるスタイルを貫き、また1人ぐらんぷり時代の功労者が散っていった。

視聴者ウケはかなり良いようだが、実は私は彼のネタを評価できない。
というのはネタを台本の段階で評価すると、録音のセリフを流すくらいならばピンネタとしてではなく、コンビ(以上)のネタとして演じた方が、設定の面白さを表現できるのではないかとむず痒くなるからだ。

今回のネタで言うと、空想の中にいた女性と、現実的な存在を象徴する警官とのギャップが見えにくくなってインパクトを損ねてしまっている(録音のセリフが棒読みなのも痛い)。
また、録音きっかけでマツクラは演じることになるので、フィクション感を強く感じさせられてしまうのだ。アドリブ感、ライブ感がないというか。
今回はそこまででもなかったので余計な話なのだが、マツクラは録音に面白いセリフや人格を託すことが多いので、正直舞台上でのマツクラ自身の存在理由が見えてこなくて、私は残念なことにいつも入り込めない。
ピン芸の方にネタを寄せて、台本の魅力を損ねてしまっているならば、他の形で見てみたいし、そう思わせるということはR-1向きではなかったのないだろうか。

作品としては評価は高いが、大爆笑を取る可能性はないネタに思えた。
時そばの構成に言葉遊びを混ぜた設定は、正直面白かった。賞レースという場を卒業した今なら、この小品感はマツモトクラブの武器にもなると思う。

②ZAZY

正直、この時点では優勝が決まったと思った。芸として完成しきっている。服装と、芸名と、フリップのニュアンスが見事に調和している。孤高の存在だ。

かつて私が生でネタを見たときは、最後の歌を大音量で浴びたおかげで、オチの意味のない感動を存分に味わえたのだが、テレビで見るとBGMの貧弱さとZAZYの声の細さが気になってしまった。

それでもやはり素晴らしいネタだと思う。The Beatlesの"A Day in the Life"とか、Ravelの"Boléro"なんかを自分が面白いと信じるフリップネタの中に見出したのは世紀の発見だと思う。


③土屋

僕は結構冷静な目でネタを見てしまった。
まず、土屋という芸人さんに、あるいは演じられている自転車競技の彼に、興味を持てなかったのは事実だ。弱虫ペダルなんかを読んでいる人はまた違ったのかもしれない。

そして唯一の軸であるトシちゃんの声マネであるが、実は空気階段が数年前にコントでネタの核にしていたのを見たことがある。
そんなにマイナーなネタではないだけに、偶然にしても珍しい一致だなぁと考えて一度ネタから降りてしまった。

なにせ魅力的でないキャラクターが田原俊彦に変わっていくことにフリオチを感じられないのが最初のバラシでウケなかった理由だと思う。

また、田原俊彦である必然性がまったくないために、見てる側としてはキャラクターというよりストロング大喜利の回答を見せられているようだった。
「元気と言えばトシちゃんなので、トシちゃんになっちゃった…」くらいの無理やりなロジックでもあればネタについていけたのだが、あまりにも理由がなく登場したトシちゃんに、ハマれない人はもう戻ってこれない作りになっていた。
このネタが自分のセンスにぴったり来た人には説明など要らずこれで十分ずっと面白いのだと思う。

あと「トシちゃんで優勝するの、嫌だなァ…」はなぜだかわからない共感があって面白かった。


④森本サイダー

煽りVで、蛙亭の岩倉さんと同居しているシーンが映ったのが良くなかった。これは完全に私が悪いのだが、森本サイダーが登場した時、蛙亭のマッチングアプリのネタを思い出してしまった。これは完全に私が悪い。
蛙亭中野さんの「マッチングアプリの人〜!」のインパクトの強さがどうしても…。

なので「リュックが大きいと思ってたでしょ!」という森本サイダーのくだりも、「いや蛙亭のこと考えてた…ごめんなさい」となった。これは私が本当に客として駄目なところである。でもそこまでリュックは大きかったかなぁ?

それにしてもこういうメタネタはどこかで見たぞと思い出してみたら、昔真空ジェシカがM-1グランプリの予選でやっていたコンビニのネタだった。
正直に言えば真空ジェシカのネタの方が圧倒的に構成、爆発力に優れている。
ここらがメタをするにあたって「オーソドックスなピンネタ」というイメージがまだ固まっていないことや、一人でネタを演じなければならない難しさが出ていた部分だと思う。
しかしそこを超えてもらわないと、ピンネタを見る理由がないのも事実だ。これは森本サイダーさんに限らず。


⑤吉住

フリが長いということが賞レースに向かないネタだったと思う。あるいは出順がもっと早ければ…?
持ち時間が短い中フリを長く取ると、観客側が勝手に焦ってしまうというのは私に限らずあると思う。
街を焼き尽くすくらいでは期待の内だったかもしれない。
長老が注意してるくだりがあったせいで、そらそれだけ警戒されてるモンスターは街くらい燃やすよなという予想がついていてしまったせいもある。
でも自分のテンポでネタをやるこの余裕がThe W王者の風格なのだろうか。

「そんなのいいっこなしよ!」の無茶苦茶さとか、私の好きな吉住らしさも観客には伝わっていなかったが、粗品はMCの際拾っていて、良いシーンだった。


⑥寺田寛明

ネタは面白い。しかしR-1を制するためには、ネタが対象にしている客層が狭すぎる。
「数学の答えがすごい分数」「かな入力が戻らない」「冷凍グラタンがチンしてもシャリシャリ」は、私にとってはもう面白すぎるが、これを審査員の人々が共感して笑えるわけがない。
設定のないボケの羅列のネタなので、一つでもウケを取り逃すボケがあると途端に見る側のテンションが0に戻ってしまうのが、構造的な短所だろうか。
Twitterでは面白かったの声が多数だし、私も面白かったが、最下位になるのは仕方ないと思う。

あとこれは反対意見もあると思うのだが、フリップを捲る間のつなぎの一言が私は気になった。
劇場で見る分には寺田さんとの距離が縮まって感じられて良い。
しかし、R-1グランプリという場で見ると、自信がなく、客におもねっているように見えてしまう。
そう見えてしまったら、審査員がチャンピオンにしたいと思うかどうか…。


⑦かが屋 賀屋

今まで見たどんな一人コントよりも優れていた。やはり賀屋は(かが屋は)、演者としての才能に溢れている。

優れていると思ったのは観客の関心が、その演技力によって、賀屋の心情その一点にフォーカスされる点だ。
マツモトクラブの項で語ったのとは真逆に、作り物でない世界が舞台に広がっていた。
客が賀屋にぴったりと感情移入するおかげで、他に役者を必要としない、これが一人コントのひとつの理想だと思う。
逆にこのコントをかが屋で演じた場合、かわいそうな賀屋を加賀が見ていることで、我々は加賀を通して賀屋を冷静に客観的に見れてしまうので、このコントの味もガラリと変わることになる。

おいでやすこががコンビを組んだ途端にそれぞれのピンネタの何倍も面白くなったように、R-1ぐらんぷりで披露されてきた一人コントは外部の人間を潜在的に必要としていた。
しかし賀屋は初参戦でそうではない見事なコントを披露した。

例えばコーヒーで濡れてしまった原稿をおそるおそる取り出すとき、我々も同じように緊張しながら見たはずだ。少なくともボケの1つが来るぞと侮りながら見たりはしなかったはずだ。
このネタの密度と質!もちろん笑った。


⑧kento fukaya

どでかいフリップを3脚使ったネタ。この芸風を突き詰めてきた歴史が見えるかのような、様々な仕掛けと発想に満ちたネタだった。
(またフリップか…というマイナススタートだったのは否めない。)

特に好きだったのは、ストーリーから急に「おじいちゃんあるある…集合写真の時…」とあるあるネタに入ったと思ったら、次はそこから転じて「写真あるある」が始まるという発想の転がりの気持ちよさだ。

あまりのテンポの良さに、観覧の客がついていけていなかった感じはあるが、3分ではこれ以上スピードを落とすのも難しかっただろうし、完成されているが故の難しさを感じた。来年どう見せてくれるか楽しみだ。

⑨高田ぽる子

あどけない女の子が変なことを言ったらそりゃ笑いが起きるし、リコーダーも無駄に上手かったらぜったい面白いという、実はかなり手堅いネタ。

高田ぽる子の良いところは、このファンシーな世界観が、偽装されているように一切見えないところだろう。
おそらくは自分のキャラクターを分析してからネタの構想を計画したのではなく、思いつく面白い話を紙芝居にしたら決勝に来た、というタイプだと思うが、これをこそ天才と言うのだろう。

点数表を眺めると、古坂大魔王が高田ぽる子に自身の最低点を与えていることが分かる。
これには少し意外な気もしたが、少し考えてみれば古坂大魔王はこういうホラ話を即興かつ高速で話せる人なので、高田ぽる子はテンポが遅く見えたのだろうか。来年以降は審査員コメントの機会を増やしてほしい。
友近も最低点を出していたが、これは単にちょっと怖い…


⑩ゆりやんレトリィバァ

優勝おめでとうございます!
ZAZYの圧倒的な世界観に立ち向かえる人なんていないと思っていたら、圧倒的にバカバカしい芸人が一人残っていた!

これまでゆりやんがR-1ぐらんぷりで披露してきたネタは、どちらかというと芸達者な部分をフリに使ってバカなことをやるというネタだったが、今回はシンプルなコントで、ゆりやんがバカをストレートにぶつけてきた。気持ちいいですね〜。
木に執着してノリツッコミを続けるところも、いちいち椅子に戻ろうとするのすら面白かった。

考えればゆりやんは歴史上笑い飯の次くらいに賞レースでネタを消費していて、楽なはずがないのに今年も決勝に現れて、優勝して、そりゃ泣くよな〜としみじみ思う。


決勝戦は簡単に。

①かが屋 賀屋
このネタに関してはかが屋としてネタをした方がひょっとしたら良かったかもしれないし、もっと長尺で見たかったコント。

②ゆりやんレトリィバァ
一本目でゆりやんはめちゃくちゃ変な人なんだなと思っていたら、このネタのようにゆりやんは一般人の目線からも物事が見えているんだ…と思ったらやっぱりバカをやって終わるという、人間ゆりやんを見た気がするネタ。

③ZAZY
フリップにクリップをつけたままにするというミスには茶の間が肝を冷やしただろう。
それでも一本目と同じ形で、本来なら一本目の余韻で勝てたのだろうが、ゆりやんの二本目がすごすぎたとしか言えない。売れてほしい!なんれ!


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