第10話 二十歳の誕生日


実は今日8月30日は、私の二十歳の誕生日なんです。こんな特別な日に祐介くんとすごせるなんて、私は本当に幸せ者だなぁ。もうわくわくが止まらなくって、ずいぶん早くに来てしまいました。んー、もうそろそろかなぁ。


   「ごめん。待った?」
千尋 「さっき着いたとこだよ」
祐介 「じゃあ行こっか」
千尋 「うん」

千尋 「もう半年くらいになるのに、手繋ぐとやっぱりちょっと緊張する」
祐介 「そう?相変わらず千尋はピュアだなぁ」
千尋 「そう言う祐介君だってちょっと震えてるでしょ?」
祐介 【ギクッ】「そ、そんなことないよ」
千尋 「相変わらず祐介君もピュアだね」
祐介 「あはは。あ、こっちに曲がるね」


◆◆


私たちはお昼を食べにお店に入りました。あぁもう入ったときからずっといいにおいしてて、お腹がなりっぱなしです。祐介くんには聞こえてませんように。


祐介 「今日は二十歳の誕生日おめでとう!これ、よかったらプレゼント」
千尋 「え、ほんとに?ありがとう。うれしい」
祐介 「そのままが持って帰りやすいと思うから、よかったらお家で開けてみて?」
千尋 「うん。ほんとにありがとう」
祐介 「そっか、千尋も20歳かぁ」
千尋 「自分でも信じられないなぁ」
祐介 「千尋もお酒が飲めるようになるね」
千尋 「そうだね。でも私そんなにお酒強くない気がする」
祐介 「そうなの?」
千尋 「うん。なんとなくだけど」

祐介 「えっと、フォークがこれで……右奥にお水どけとくね」
千尋 「ありがとう」
祐介 「なんかごめんね、お節介で」
千尋 「そんなことないよー」

祐介&千尋 「いただきまーす」
千尋 「んーおいしい」
祐介 「おいしいね。にしてもほんとに千尋はおいしそうに食べるよね」
千尋 「え……なんか恥ずかしい」
祐介 「いいことだと思うよー。こっちまで幸せになるし」
千尋 「そう?ありがとう。あ、そう言えば最近祐介君、よく図書館で勉強がんばってるよね」
祐介 「がんばってるってほどじゃないけど、ちょっと資格を取ろうと思って」
千尋 「えぇ、すごーい。何の資格?」
祐介 「簿記。もう3年生になったし、ぼちぼち就活のこととかも考えないとなと思って」
千尋 「さすがだなぁ。試験はいつなの?」
祐介 「11月。ぼくそんなに根詰められないタイプだから、そろそろ始めとかないと間に合わなくって」
千尋 「それがすごいよー。私も見習わないとな」
祐介 「なんか照れるなぁ。でも千尋はまだ2年生なんだから、ゆっくり考えたらいいんじゃない?」
千尋 「ありがとう」

千尋 (そっかぁ。祐介君も将来のこといろいろ考えてがんばってるんだぁ。彩芽ちゃんは留学行ってるし、真美ちゃんもがんばって資格取ってたし、なんか私だけおいてかれそう。みんなこんなにがんばってるのに……私なんかまだなにをやりたいのかも、なにに向いてるのかも分からないままだし……勢いで保育園実習だけ申し込んじゃったけど、私大丈夫なのかなぁ……歳だけ増えて、全然成長してない気がする)
祐介 「大丈夫?急に黙り込んで……」
千尋 「え、あ、うん。大丈夫。ちょっといろいろ考え事しちゃった」
祐介 「そっか、よかった。気分悪いのかと思った。これおいしいから千尋のお皿にもおいとくね」
千尋 「あ、ありがとう」


◆◆


おいしいお昼ご飯をいただいてお腹いっぱいになったところで、私たちは遊園地にやってきました。


祐介 「千尋、何乗りたい?」
千尋 「んー、祐介君のおすすめがいい」
祐介 「じゃあ、これにしよ。千尋は乗ってみてのお楽しみってことで」
千尋 「えぇ、楽しみー」

   「運転中は安全バーをしっかりお持ちください。それでは当園一番のスリルをお楽しみください。」
千尋 「え、これ怖いやつ?……」【ビクビク】
祐介 「うん、わりと揺れるかも……」
ピー!
ガガガガガガ
千尋 「ぎゃああああああっ!!」
祐介 「だ、大丈夫?」
千尋 「私こういうのだめなのーっ!ひーっ!!誰か助けてーっ!わあああああっ!!」

祐介 「だ、大丈夫だった?」
千尋 「は、はひ?……」
祐介 「ちょ、ちょっとベンチで休もっか」


5分くらい休んだんでしょうか。やっと上と下の感覚が戻ってきました。はぁ、死ぬかと思ったぁ。


祐介 「ごめんね。いきなり強烈なの行っちゃって。大丈夫そう?」
千尋 「う、うん。いや祐介君に任せるって言ったのは私だから。絶叫計苦手って言ってなかったし」
祐介 「次はおだやかそうなのにしよっか」
千尋 「うん、私にはメリーゴーランドくらいの方がちょうどいいみたい」


◆◆


千尋 「今日は楽しかったぁ。ありがとう」
祐介 「こちらこそだよー」
千尋 「忙しいのにちゃんと私の誕生日に合わせてくれて」
祐介 「たまたま空けられそうだったからね」
千尋 「祐介くんに元気もらったから、今年はちょっとがんばれそう」
祐介 「今年はって、今までもがんばってたじゃん」
千尋 「んー、がんばってなかったわけじゃないんだけど、目標もなくなんとなくすごしちゃってたところあるから、今年は自分を変える一年にしたいんだよね」
祐介 「すごいなぁ。応援するよ」
千尋 「あーあ、言っちゃった」
祐介 「え?言っちゃだめだったの?」
千尋 「だって口だけになっちゃったら祐介くんに見せる顔がないじゃん」
祐介 「そんなこと言わないでよ。そうやって言えることがすごいことだし、もう第一歩目クリアなんじゃない?」
千尋 「そうかな。ありがとう」
祐介 「ぼくも資格の勉強がんばるし、一緒に成長できる一年になりそうだね」
千尋 「そうだね」
祐介 「あ、ここでバイバイかな。今日はありがとう」
千尋 「うん、ありがとう。バイバイ!」
祐介 「じゃあ気をつけて!」


今日は今までで一番思い出に残る誕生日になりました。ほんと、祐介くんに感謝しないとですね。あ、祐介くんからのプレゼント……

(ん?なんだろ……香水?かな。わっ、これ私が好きな香り!祐介くん、この間ちらっと話しただけなのに覚えてくれてたんだ!うれしい!さっそく今度の保育園実習のときにつけてみようかな。なんかTPO間違ってる気もするけど、お守り代わりってことで、いいよね?きっと……)


つづく

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