第3話 不運な千尋とやさしい張本先輩


ある日の授業終わり、私はいつものように階段で移動していました。ん?あの声は真美ちゃんたちかな?


彩芽 「千尋、やっほー!」
千尋 「ふたりともお疲れー!」
真美 「お疲れー」
彩芽 「今からサークル?」
千尋 「そう」
彩芽 「そういえばさ、千尋はなんでエレベーター乗らないの?」
真美 「たしかに。そっちの方が楽だし転ぶ心配もなくて安全そうなのに」
千尋 「だってここのエレベーター、ドアが開いたときに、上りか下りか言ってくれないんだもん。それになんかドアに挟まれちゃいそうな気がしちゃって……」
真美 「あぁなるほど。たしかにそうだね。そういえば何階に着いたかも言ってないよね、たしか。そう思うとなかなか不親切なエレベーターだね」
彩芽 「でもさ、下りだと思って乗ったとして、もし上りだったら、一番上まで行ってまた戻ってくればいいんじゃない?それに、何階に着いたかも、毎日乗ってたら、千尋のスーパーな感覚をもってすれば分かるようになりそうだし。近くに誰かいたらその人に聞けばいいんだしさ。ちなみに私、エレベーターに駆け込んでドアに挟まれたこと何度もあるけど、全然大丈夫だったよ」
真美 「それはあなたが特別頑丈だからじゃない?ていうか、そんな危ない駆け込みしちゃだめでしょ!」
彩芽 「ごめんなさーい」
千尋 「たしかにそれもそうかぁ。4階から1階まで行くときとか、正直遠いなって思ってたんだよね。今度ひとりでも使ってみようかな」
彩芽 「ものは試しって言うしね。あっ、私もう行かないと。じゃあまた明日ね!」
千尋&真美 「バイバーイ!!」


◆◆


次の日、私は4階から1階に降りるのに、さっそくエレベーターを使ってみることにしました。あ、きたきた。でも周りに聞けそうな人いないなぁ。とりあえず乗ってみるか。えーっと1階を押さないといけないんだよね……どこだろう……え、待って、上向きに動き出しちゃったんですけどー!今日星座占いで11位だったからかなぁ。あぁ、もっと運勢いい日に乗ればよかったぁ……あ、じゃないじゃない、一番上まで行ったら今度こそ1階押さないといけないんだ。えーっとどこだっけー……

   

   「すいません。5階ですよ?」
千尋 「え、あ、あの、私1階に行きたくって……」
   「あ、そうなんですね。そしたら1階押しときますね」
千尋 「あ、ありがとうございます」【もじもじ】

(こ、これは恥ずかしすぎる~!体がどんどん熱くなってくるし。こんなことならエレベーターなんて乗るんじゃなかった。もうひとりでエレベーターはこりごりだーっ!!)

(やっと1階に着いたー。なんでこういうときってすごく長く感じるんだろう。にしても今日はついてないなぁ。ほんと彩芽さんを恨むよー。でも彩芽さんだったらこのくらいのことじゃ動揺しないんだろうなぁ。あぁ、私もあれくらいメンタル強くなれたらいいのに……)

   「あ、松川さーん!」
千尋 (その声は……)「あっ!張本先輩!」【タタタッ】

祐介 「あっ、そこには段……あっ!!」

ドサッ!!

祐介 「松川さん大丈夫?ごめん、僕がもっと早くに言ってたら」
千尋 「……」
祐介 「ちょっと肩触るね。よいしょっ……あー、ひざすりむいてる。スカートもかなり汚れちゃってるね。絆創膏とかもらってくるからちょっと待ってて」
千尋 「あ、先輩……」

(あ、先輩行っちゃった。はぁ、またやらかしちゃったなぁ。いつも気をつけないととは思ってるんだけど……でも今日は痛いはずなのに、全然痛くない。初めて張本先輩に抱きしめてもらえた。すごく温かかったなぁ。あ、先輩戻ってきたかな?)

祐介 「ごめん、遅くなって」
千尋 「いやそんな。こちらこそ私の不注意ですみません」
祐介 「ちょっと左足失礼するね。ちょっとしみちゃうかも」
千尋 【こくり】

千尋 (張本先輩に手当されてる。しあわせー)【ふわふわ】
祐介 「んー、遠くからは分かんないくらいにはなったかな……後は家で洗濯してもらうしかないかなぁ。ひざ痛い?歩けそう?」
千尋 「あ、大丈夫そうです。ありがとうございます!」
祐介 「でもちょっと心配だなぁ。駅まで送っていくよ。ちょうど暇してたし」
千尋 「ほんとですか?ありがとうございます」


結局先輩が駅まで送ってくれることになりました。やっぱり張本先輩すっごくやさしいなぁ。しかも初めて先輩とふたりきりだ。でもどうせなら手繋ぎたいなぁ。あぁでもそんなこと恥ずかしくて言えないよー。それになに話したらいいのか分からない。せっかくゆっくり話せるチャンスなのに。あぁ、だめだな私……。


祐介 「松川さんはさ」
千尋 「は、はい」
祐介 「点字サークルでやりたい活動とかある?会長になったのはいいんだけど、なにをやったらいいのかいまいちピンときてなくて」
千尋 「え、いや、私もあんまり考えてなかったです」(あぁ、もう駅に着いちゃうー!)
祐介 「ここ分かる?」
千尋 「あ、はい、大丈夫です。こんなとこまでありがとうございます。ほんと助かりました」
祐介 「気をつけて帰ってね。バイバイ!」
千尋 「さようなら!」


◆◆


千尋 「ただいま~」
母  「おかえりー。て千尋、どうしたのよまたスカート汚して」
千尋 「帰りに転んじゃったの~」【ふわふわ】
母  「転んじゃったの~って、そんなのんきなこと言ってるから転ぶんでしょ。もう大学生なんだからもう少ししっかりしてよ。て、千尋聞いてるの?」【ぶつぶつ】
千尋 (張本せんぱーい)【ふわふわ】


つづく

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