第6話 私のいいところ


彩芽 「最近真美が喫茶店でバイト始めたんだって」
千尋 「え?真美ちゃん?知らなかったぁ」
彩芽 「で、彩芽ちゃんの情報網によると、今日出勤してるらしいから、これからふたりで行ってみない?」
千尋 「行ってみたい!真美ちゃん、どんな感じでお仕事してるんだろう。で、そのお店どこにあるの?」
彩芽 「私の家の近く。大学から電車で20分くらい行くんだけどね」
千尋 「じゃあそんなに遠くないね」
彩芽 「そうと決まれば早速レッツゴー!!」
千尋 「ゴー!」


◆◆


カランカラン
真美 「いらっしゃいませー…ん?」【ちらっ】
彩芽&千尋 「ふふ」【にやにや】
真美 「空いているお席へどうぞ」(なんであのふたりが来るのよー)

真美 「メニュー決まりましたらお呼びください」
彩芽 「ありがとうございます。それにしてもお姉さんかわいいですね。大学生さん?」【にやり】
真美 「しー。てかふたりともなんできたのよ?」【ひそひそ】
彩芽 「千尋がさ、真美がちゃんと働いてるか、どうしても見てみたいって言うから……」【ひそひそ】
千尋 「えぇっ!彩芽さんが先に言い出したくせにー」【ひそひそ】
真美 「もうどっちでもいいわよ。変なことしないでね。じゃあ」【ひそひそ】
彩芽&千尋 「はーい」

彩芽 「千尋は何飲みたい?」
千尋 「私はアイスコーヒーにしようかな」
彩芽 「オッケー。じゃ私はアイスティーにしよーっと。えーっと、でスイーツセットってのにもできるみたいだけどどうする?」
千尋 「うーん、久しぶりにパフェ食べたいかも」
彩芽 「ショコラパフェっていうのならあるよ。写真はすごく豪華そう」
千尋 「私じゃあそれにする」
彩芽 「じゃあ私は抹茶アイスのセットにしよっかな。すいませーん!注文お願いしまーす!」

千尋&彩芽 「いただきまーす!」
彩芽 「カフェでスイーツ食べるの久しぶりだな。やっぱりたまにはこうやって充電しないとね」
千尋 「おいしい。あぁでもまたダイエットしないとー」
彩芽 「せっかくおいしいもの食べてるときくらい、そんなこと考えないで、味わいなよー」
千尋 「そうだね。でも私彩芽さんみたいに運動部じゃないからさぁ」
彩芽 「んー、そりゃ千尋の体内環境のことまでは私にも分かんないけどさ、見た目的には全然気にならないけど?なんかみんな痩せようと思いすぎな気がするんだよね。あんまり痩せすぎたらスタミナ落ちちゃうぞって感じ」
千尋 「そんなもんかなぁ……」
彩芽 「まぁ痩せるために走りにいくぞ!って引っ張り出した私が言うのも変な感じだけどね」
千尋 「そうだよー」
彩芽 「だって一回3人で走りにいってみたかったんだもーん」
千尋 「えぇ!なにそれー」


◆◆


彩芽 「そう言えば千尋はバイトとかしてないの?」
千尋 「うーん、したいっちゃしたいんだけどね。なかなかできそうなのがなくって」
彩芽 「たしかにそう言われたら、学生のバイトって見ないといけないのが多いかも。飲食系にしても、スーパーにしても……」
千尋 「そうなんだよね。お金貯めて買いたいものとか行きたいとこいろいろあるんだけどな。それにバイトの話題になかなかついていけないのがたまにさみしくって。あ、今思い出したけど、一回だけ点字の校正のバイトしたことあるよ」
彩芽 「へぇ、そんなのがあるんだ。それは千尋にしかできないやつだもんね」
千尋 「でもそう言うのってめったにないから、みんなみたいには稼げないんだよね。点字技能士の資格持ってないとできないのもあったりするし」
彩芽 「そんな資格があるんだ。なんかすごそう」
千尋 「私みたいに毎日点字使ってる人だったらふつうに取れるとは思うんだけど、お金払って試験受けないといけないから、それはそれで気が重くって」
彩芽 「そうなのかぁ。まだまだ私の知らない世界、いっぱいあるな」

千尋 「そういう彩芽さんは?バイトしてるの?」
彩芽 「うん。私は塾講やってるよ」
千尋 「えぇ!すごーい!何の科目?」
彩芽 「英語」
千尋 「すごいなぁ。大勢の前で授業するなんて、私にはまねできないな」
彩芽 「いやいや。授業するのはめったになくて、ほとんど個別指導だよ」
千尋 「いやぁ、それでもすごいよ」
彩芽 「それほどでもー。英語で分からないことあったらいつでも聞いてね。彩芽先生が優しーく教えてあげるから」【にこっ】
千尋 「遠慮しとくー。とんでもない間違いして笑われそうだし」
彩芽 「かわいい生徒にそんなことしないよー」
千尋 「じゃあ生徒じゃない私にはするかもってことじゃん」
彩芽 「あ、ばれた?」
千尋 「んもう」
彩芽 「ごめんごめん。そんな千尋にもほんとのいじわるはしないから安心して。英語の課題エッセーの文法スペルチェックくらいならお安いご用だよ」
千尋 「じゃあほんとにお願いしようかな。前期の英語の点数思ったより悪かったから、後期は本気でびびってるんだよね」
彩芽 「まっかせといてー!」

千尋 「英語かぁ。そう言えば彩芽さん、留学したいって言ってたっけ?」
彩芽 「うん、そうだよ。あ、そうそう。来週からうちに留学生がホームステイに来るんだけど、千尋にも今度紹介するね」
千尋 「えっ、どんな人が来るの?」
彩芽 「オーストラリアから来るんだけどね。こっちで言う高校生くらいの男の子なんだって。最近インスタでやりとり始めたんだけど、すっごく楽しそうな人だよ」
千尋 「そうなんだ。楽しみだね」
彩芽 「うん」
千尋 「彩芽さんはいろいろ積極的ですごいなぁ。真美ちゃんもバイト始めて。ほんと私と大違い」
彩芽 「そんなことないよ。千尋には千尋のいいところたくさんあるじゃん」
千尋 「そうかなぁ……」
彩芽 「うん、うまく言葉にできないけど、千尋といると安心するし。遠くからでも見かけたらぜったい声かけたくなっちゃうもん。それって千尋の魅力がつーっと届いてくるからなんだと思う」
千尋 「ありがとう。そんなこと言ってくれるの彩芽さんだけだよ」
彩芽 「そう?みんなも千尋のこと大好きだと思うけどなぁ」
千尋 「そうなのかなぁ。んーでも私にもひとつくらい彩芽さんみたいな強みがあればなぁ」
彩芽 「そう言ってくれるのはうれしいけどさ、千尋が私みたいになって、他の人までみーんな私みたいになったら、世界は大変なことなっちゃうよ?」
千尋 「……ふふ、確かにそうかも」
彩芽 「今私がいっぱいいるとこ想像して笑ったんでしょ」
千尋 【ギクッ】
彩芽 「そう、私には私のよさがあって、真美には真美のよさがあるし、千尋には千尋のよさがあるんだから、そこを大切にしたらいいんじゃないかな?」
千尋 【……】

真美 (彩芽がそんなこと考えてたなんて。あぁでもそうだよなぁ。私もないものねだりしちゃってたとこあるけど、もっと自分を大切にしてみよう)
   「吉村さーん!手空いてたら3番テーブル片付けてもらえない?」
真美 「あ、はい、すみません。今いきまーす!」

千尋 【……】
彩芽 「はぁ、私いいこと言う♪」
千尋 「…彩芽さん?そういうとこだってー」
彩芽 「え?だってこれが私なんだもーん」
千尋 「確かにそうだね」
彩芽 「あ、そろそろいこっか。ごちそうさまでしたー」
千尋 「ごちそうさまでしたー」

真美 「ありがとうございましたー」

カランカラン

彩芽 「あぁ、おいしかったー」
千尋 「うん。また来たいね」
彩芽 「そうだね。あ、そう言えば前から気になってたんだけど、千尋ってさ、どうやってお金区別してるの?」
千尋 「えっと私は、小銭は大きさと、ギザギザがあるかと、あとは穴が空いてるかで区別してるよ。お札は長さが違うんだけど、順番に並べて分かりやすくしたりもしてるかな」
彩芽 「ふうん。いろんな工夫があるね」

彩芽 「あ、どこまで送ってったらいい?」
千尋 「そこの駅までで大丈夫」
彩芽 「ほんとに?この辺初めてじゃないの?」
千尋 「大丈夫。電車の乗り降りは駅員さんに手伝ってもらえるから」
彩芽 「そうなんだ。じゃあ窓口に連れてったらいい?」
千尋 「うん、ありがとう」

千尋 「すいませーん」
   「どちらまでですか?」
千尋 「東駅まで行きたいんですけど、乗り降りの介助お願いできますか?」
   「分かりました。乗車位置のご希望はありますか?」
千尋 「どこでも大丈夫です」
   「では今からご案内しますね」
千尋 「ありがとうございます。彩芽さんバイバーイ!」
彩芽 「あ、うん。バイバーイ!気をつけてねー!」
千尋 「ありがとう!」


◆◆


真美 (はぁ、やっとバイト終わったー。なんか今日はいつもより疲れた気がする。んもう、あのふたりなんの予告もなく来るんだから。でも彩芽のあんな一面があったなんて。4年目で初めて知ったかも。千尋ちゃんもいつも穏やかなイメージだったけど、いろいろ悩みもあるんだなぁ……よし、明日もがんばろっと)


つづく


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