第8話 がんばれ彩芽


真美 「3人で会うのちょっと久しぶりだね」
千尋 「そうだね。授業期間は毎日会ってたからね」
真美 「そう言えば千尋ちゃん、その後はどうなの?」
彩芽 「そうだよ。バレンタインはどうなったの?」【ちらっ】
千尋 「えっ?」【もじもじ】
真美 「気になるー」【じーっ】
千尋 「それが、実はー……」【にこっ】
【……】

真美 「千尋ちゃん!!」
彩芽 「え、ほんとに?!」
千尋 「う、うん、まぁ……」
彩芽&真美 「おめでとう!!」【ギュー】
千尋 「う、うん。ありがとう。で、でもちょっと苦しい……それと恥ずかしいからやめてー!」
彩芽&真美 「ん?」
【じーっ】
真美 「わ、みんな見てる」
彩芽 「早く移動しよ。千尋こっち!」

千尋&真美&彩芽 「ふう」
千尋 「もう、恥ずかしいじゃん」
彩芽&真美 「ごめーん」
真美 「でも、よかったじゃん」
彩芽 「ほんとだよ。私の先を越すなんてー」
千尋 「うん、ありがとう」
彩芽 「お幸せにね」
真美 「で?」【ちらっ】
千尋 「で?ってなに?」
真美 「なにって、そりゃあいろいろ聞かせてもらわないと」【にやっ】
彩芽 「そうだよ。教えて千尋先生!」【にやっ】
千尋 「そ、それはな・い・しょ」【にこっ】
真美 「その手には乗りませんよー?」
千尋 「えーっ!」【もごもご】
千尋 「あ、そ、そうだ。彩芽ちゃん、さ、最近部活はどうなのー?」
彩芽 「なんか話そらそうとしてない?」
千尋 「ま、まぁいいじゃん。だって気になるんだもん」
彩芽 「んー、なんか納得いかないけど……そうねー。一番上の先輩が卒業して、最近やっと試合でも使ってもらえるようになってきたかな」
真美 「え、彩芽すごいじゃん!さすが天才少女!」
彩芽 「いやぁ、そんなことないよ。経験のために出させてもらってる感じだから」
真美 「さすがだな。高校の頃からチャンスに強かったもんなぁ」
彩芽 「なんか照れるなぁ」
千尋 「そう言えば彩芽ちゃんって、何の部活やってるんだっけ?」
彩芽 「あ、言ってなかったっけ。ソフトボールだよ」
真美 「彩芽すごいんだよ。特大ホームラン連発してさ。もう普段とは別人なんだから」
彩芽 「なんか微妙に褒められてる気がしないんですけどー」
千尋 「そうなんだ。さすが彩芽ちゃんだね。1回見てみたいな」
真美 「そう言えば私も、大学入ってからは見てないかもな」
彩芽 「え、じゃあ今度見に来る?次の次の日曜日。フェンスの後ろからでもけっこう分かると思う」
真美 「行く行くー!」
千尋 「私も行きたーい!」
彩芽 「じゃあ13時から大学のグラウンドだから、それくらいに来てみてー」
千尋&真美 「ラジャー!」


◆◆


   「真美ちゃーん!」
真美 「あ、恵里花先輩。お疲れ様です」
恵里花「聞いて。私彼氏できたのー」
真美 「え……」
恵里花「え、いや急に言い出した私も悪いんだけどさ、そんな推しのコンサートはずれたみたいなリアクションしないでよー」
真美 「あ、す、すみません……ちょっと心の準備ができてなくて……おめでとうございます」(ち、千尋ちゃん?どういうこと?あの笑顔はなんだったの?私たちに気を遣ってただけ?それとも千尋ちゃんだまされてるのかなぁ……恵里花先輩、うそだと、うそだって言ってくださいよー……)
恵里花「ありがとう。真美ちゃんもしかして恋バナ慣れてないタイプ?」
真美 「あ、いや、ちょっと急でびっくりしちゃっただけで……すみません。おめでたい話なのに変な空気にしちゃって。こ、この間おっしゃっていた方ですか?」【ビクビク】
恵里花「それが……実は別なのー」
真美 「ふぇ?……」
恵里花「前言ってた人は、幼なじみですごく仲よかったんだけど、すごくいい人なんだけど、やっぱり恋人じゃないかなぁってなって……もうちょっとガツガツしてる人がいいっていうか。そしたら私とおんなじ名字で、もう運命だ!って人に出会って、すぐLINE交換してもらってバレンタインに告白したのー」
真美 【ぽかーん】
恵里花「あ、あれ?ちょっと説明飛ばしすぎちゃったかな?」
真美 「あ、大丈夫ですよ。にしてもすごい急展開ですね。でもなによりおめでとうございます」
恵里花「ありがとう」
真美 「それじゃあまたサークルで」
恵里花「うん、バイバイ」

真美 (こ、これでよかったんだよね。うん、きっとそうだよ。ふたりとも幸せになってほしいな。でも、なんか1ヶ月分の体力使った気がするんですけどー。もう、先輩が変なこと言うから……あぁでもよかったー。本気で千尋ちゃんのこと心配しちゃった)


◆◆


真美 「着いた着いた。あ、もう練習始まってるみたい」
千尋 「ほんとだ。ボール取る音がするね」
真美 「えっ、1番センター山口彩芽って書いてある。すごいなぁ」
千尋 「えっ、彩芽ちゃん、一番すごいってこと?」
真美 「あ、そうじゃなくて、打つ順番のことだよ。でも1番目を任されるなんて、十分すごいと思う」
千尋 「へぇ、そうなんだ。彩芽ちゃんストイックだもんなぁ」
真美 「あ、彩芽もう出てきた」
千尋 「えぇ、なんかこっちまで緊張するー」

カン!ワーッ!!
真美 「彩芽すごーい!ナイスバッティン!!」【パチパチ】
千尋 【ぽかーん】

千尋 「ね、今何が起こったの?」
真美 「あ、ごめんごめん。彩芽いきなりヒット打ったんだよ」
千尋 「ヒットって何?」
真美 「えー、なんて説明したらいいかなぁ。えっとね、ピッチャーがボールを投げてバッターがそれを打つでしょ?打ったボールを守りの人たちが取って1塁に投げるより先に、バッターが1塁まで走り切れたらヒットって言うの。逆にボールが先だったらアウト」
千尋 「ふーん。じゃあヒットってことは、彩芽ちゃんの勝ちってこと?」
真美 「んー、まぁそういう感じかな。ヒット打った人はそのまま1塁に残れるんだけど、他のバッターが打ってる間に2塁と3塁を回って、最初いたところまで戻って来れたら、自分のチームに1点が入るの。で、3回アウトになったら攻撃と守備が入れ替わるんだよ」
千尋 「じゃあ彩芽ちゃんはまだまだ先が長いのかぁ。がんばれー」
真美 「あっ……」
ガシャン!!
千尋 「ぎゃー!!」
真美 「大丈夫だよ。フェンスがあるから、ここまでは飛んで来ないから」
千尋 「はぁ、びっくりしたー」


◆◆


千尋&真美 「がんばれー!」
カン!ワーッ!!

真美 「あぁ、アウトかぁ」
千尋 「えぇ、いい音してたのになぁ」
真美 「え、これで試合終了?負けちゃったの?」
千尋 「えぇ、彩芽ちゃんいっぱい活躍してたのにー」

彩芽 「くーやーしーいー!」
真美 「でも彩芽大活躍だったじゃん」
彩芽 「試合に勝てなきゃ喜べないー」【グズグズ】
千尋 「元気出して。すっごくかっこよかったよ」【よしよし】
彩芽 「千尋、ありがとう!」【ギューッ】
千尋 (おっと……)
   「あやめーっ!反省会するから戻ってきてー!」
彩芽 「あ、今行きまーす!じゃあ行くね。ふたりともありがとう」

真美 「私の説明、分かりにくくなかった?」
千尋 「ううん、分かりやすかった。ありがとう。まだルールとか怪しいけど、最後の方はボールの動きもちょっと分かってきたし、ソフトボール観戦にはまっちゃいそう」
真美 「よかった。また来よ?」
千尋 「うん、そうだね。彩芽ちゃん忙しそうだし、今日は先帰ろっか」

真美 「あ、ちょっと狭くなるよ」
千尋 「ありがとう。え……真美ちゃんそれ知ってるの?」
真美 「へへ。実は最近同行援護の資格取ったの」【にこっ】
千尋 「えぇ!いつの間にー?」
真美 「ずっと福祉には興味あったし、千尋ちゃんと仲良くなったのもいいタイミングかなと思ってこっそりね」
千尋 「えぇ、すごーい」
真美 「その講習会で狭い場所を通るときは、ひじを曲げて手を後ろに回しましょうって習ったってわけ」
千尋 「なるほどねー。なんかプロみたいでかっこいい」
真美 「そう思ってもらえてよかったー」
千尋 「よし、私も決めた!」
真美 「ん?どうしたの?」
千尋 「実は大学で紹介されてた保育園実習、申し込もうかどうかずっと迷ってたんだけど、彩芽ちゃんのプレイ見たり、真美ちゃんが新しいこと始めてるの知ったりして、私もがんばろうってなって。今申し込むことに決めた」
真美 「えぇ、いいなぁ。応援するよ」
千尋 「ありがとう。私も分かんないってばっかり言ってないで、たまには自分から動いてみないとなって思って」
真美 「それ私も興味あるなぁ。帰ってからでいいからチラシ送ってもらえない?」
千尋 「いいよー。一緒にがんばろ」


つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?