第5話 スポーツ大好き


彩芽 「ふたりともニュース見た?!」
真美 「どのニュースのこと?」
彩芽 「ブラインドマラソン大会のニュースに決まってるじゃん!」
千尋 「ああぁ」
彩芽 「優勝した前田選手、よく見たら私たちと同い年だし、出身地がこのへんじゃん!」
千尋 「最近どんどん頭角を現してるよね。前から運動神経抜群だったけどさ」
真美 「なんかよく知ってるみたいな言い方だね」
千尋 「知ってるもなにも、中高の6年間ずっと一緒だったから」
彩芽 「やっぱりそうだよね!いいなぁ、そんなすごい人と6年も一緒だなんて」
千尋 「はたから見たらそうかもしれないけどさ、同学年にすごいのがいると、けっこう大変なんだよ。リレーの人数が足りないとかで、遅くてもいいからって無理やり陸上の大会連れてかれたりするし……」
真美 「えっ、それどういう意味?」
千尋 「盲学校ってさ、子どもの人数が少ないから、1人が何個も部活入って、大会の日程に合わせて活動するの。陸上の大会の前は陸上やって、その後は水泳みたいな感じ」
真美 「へぇ、千尋ちゃんは何入ってたの?」
千尋 「前田君に振り回されて、得意でもないのに陸上と水泳とフロアバレーと卓球だったんだよね」
真美 「千尋ちゃん、誘われたらイヤって言えなさそうだもんね」
千尋 「そうなんだよね。ほんとはお家でのんびり読書とかお菓子作りしてたかったんだけど。ちゃんと断れない私も私なんだけどさ……まぁ今となってはいい思い出かな。おかげで少しは体力ついたし」
彩芽 「ぜったいそうだよ。あんなすごい人と一緒に練習できるだけで私だったら年中ハッピーだな。それに写真も載ってたけど、すごくイケメンなんだよ」
真美 「たしかに彩芽の好きそうな雰囲気だよね」
彩芽 「一度でいいから会ってみたいなぁ」
千尋 「そんなに会いたいなら会ってみる?」
彩芽 「そんな簡単に会えるの?」
千尋 「だってラインの連絡先知ってるし。前田君、かわいい子が会いたがってるって言ったら、すぐに飛んでくるんじゃない?」
彩芽 「ほんとに?」


私の予想通り、「行く行くー」とすぐに返事をもらえて、1週間後に近くのカフェで会えることになりました。たまたま予定が空いてたみたいで、真美ちゃんも来てくれることになりました。


◆◆


千尋 「紹介するね。前田晴人君。中高の同級生で、とにかくスポーツ大好き人間」
晴人 「前田晴人です。いやぁ、千尋の方から呼び出されるのは初めてだなぁ。あ、千尋がお世話になってます」
千尋 「もう、私の親みたいなこと言って」【ぶつぶつ】

千尋 「あ、そうそう。ふたりも紹介しないとね。優しそうな方が吉村真美ちゃんで、存在感半端ないのが山口彩芽さん」
彩芽 「ちょっとそれ失礼じゃない?こんな優しくておしとやかな彩芽ちゃんに対してその言い方は」
晴人 「いやぁ、存在感があるのはいいことだよ。ここまでインパクトあると、1回話したら忘れないや。彩芽さんだっけ?よろしく!」
彩芽 「ありがとうございます!あ、それとこの間は優勝おめでとうございます!」
晴人 「おっ、ありがとう!それと同い年なんだから敬語使わないでよー」
彩芽 「はい、喜んで!」
晴人 「で、もう1人が吉村真美さんだっけ?」
真美 「あ、はい。お会いできて光栄です」
晴人 「いやぁ、それほどでも……」【にこにこ】
千尋 「かわいい子に会えてうれしいのは分かるけど、もう少し遠慮しなよ」
晴人 「もう、うるさいなぁ」
彩芽 「そう言えば千尋、盲学校で卓球やってたって言ってたけど、どんな風にやるの?」
千尋 「あぁ、サウンドテーブルテニスって言って、シャラシャラ音のなるピン球を使って、転がしてやるの」
晴人 「そうそう、ふつうはネットの上を越えるように打つと思うんだけど、STT、あ、サウンドテーブルテニスのことね。STTではネットを少し高くして、その下をくぐるようにやるんだ」
真美 「へぇ。でもまだなんかイメージつかめないな」
晴人 「そうだよな。実際にやってみないとなかなかイメージつかないよね。あ、そうだ!今度ふたりもやってみる?」
真美 「え、そんな簡単にできるんですか?」
晴人 「実はこの近くに障害者スポーツセンターがあって、俺と千尋がいればその練習相手ってことでふたりも入れるはず」
彩芽 「ぜひやってみたいです!」
千尋 「卓球ならいいよー。私まだ得意な方だし」
晴人 「じゃあ決まり!」

真美 「で、この近くって、どの辺りにあるんですか?」
晴人 「えーっと、ここから走って30分くらいじゃない?」
千尋&真美 「えーっ!!走るのー?!」
晴人 「冗談だよ。南町のバス停からすぐだから、そこで待ち合わせよう。って、千尋は知ってるだろ?」
千尋 「だって前田君なら本当に走るって言い出しそうな気がしたんだもん」
晴人 「まぁ、その予想はいい線いってるかもね。あぁでも最近走るのばっかだったから、たまには卓球もいいなぁ。みんな風邪ひかないようにな」


◆◆


彩芽 「前田さんも大学行ってるんですか?」
晴人 「うん、行ってるよ。スポーツ科学にも興味あったから。ただただやるだけじゃなくって、ちょっとはスポーツのこと勉強してみたいなと思って」
彩芽 「ほんとすごいですね」
晴人 「そうでもないと思うけど……でもありがとう」
彩芽 「そうでもありますよー。私も千尋と友達になって半年くらい経つんですけど、目が見えないのにみんなとおんなじように大学生活送ってるって、すごいことだと思うんですよ。まぁ一緒に遊んでたらそんなの忘れてることも多いんですけどね。大学で勉強してるってだけでもすごいのに、前田さんはスポーツも一生懸命やってて、しかもすごい記録出してて、もう尊敬です」
晴人 「ありがとう。でも自分ではそんなにすごいとは思ってなくて、好きだからやってるってだけなんだよなぁ」
彩芽 「はぁ……?」
晴人 「彩芽さんもソフトバリバリやってるって聞いたけど、別にそれをすごいことだと思ってるからやってるわけじゃないでしょ?」
彩芽 「あぁ、たしかに」
晴人 「それとおんなじような感じかなぁ。なんか周りの人はすごいすごいって言ってくれて、まぁそんな悪い気はしないんだけど、どっか違和感あるっていうか……」
彩芽 「なるほどー」
晴人 「俺もこんな性格だからメディアとかでも喜んでいろいろしゃべるんだけど、なんか編集されたの見たら、すごい大げさな感じになってたりするんだよね」
彩芽 「そう言われたら私も千尋に変なこと言っちゃってたかもしれないなぁ。知らない間に傷つけちゃってたらどうしよう……」
晴人 「んー、でも普段は忘れてるんでしょ?それが一番ありがたいよ、俺だったら。きっと千尋もそうなんじゃないかな。あんまり深く考えすぎないで」
彩芽 「うん、そうしよ。あ、きたきた……まみー!!ちひろー!!やっほー!!」


◆◆


さて、私たちはもう卓球場にいます。ちなみに私と真美ちゃんは一緒にバスで来たんですが、彩芽さんと前田くんは先に待ち合わせてひとっ走りしてきたみたいです。ほんと、恐るべし体力。まずは見本ということで、私と前田くんがやることになりました。久しぶりだからちょっとドキドキするなぁ。


晴人 「よっしゃ、俺の勝ち!!11対6だ!」
千尋 「やっぱ前田君強すぎるよー。それにつめに当たったらすごく痛いし」
晴人 「ごめんごめん。つい本気モード入っちゃって……」
千尋 「だからってあんなに強烈なの打たなくってもいいじゃん。しかも私の手に当たらなかったら前田くんのアウトでしょ?あれ」
晴人 「へへ。次はふたりやってみる?で、勝った方が千尋に挑戦ってことで」
真美 「うん、やってみる」
彩芽 「負けないぞー」

晴人 「ふたりともアイマスクの準備はオッケー?」
真美&彩芽 「はーい!」

真美 「待って、これどっち行ったらいいの?」
彩芽 「えっと、ここに台があって……」
千尋 「真美ちゃんは左向いてちょっと進んでみて。彩芽さんはそこであってると思う。台の側面に丸く飛び出てるのがあったらそこがちょうど真ん中のはず」

晴人 「それじゃあ、ラケットの持ち方はさっき教えた感じで、とりあえずやってみようか」
真美 「う、うん」


初めは相手のところまで届かなかったり、浮いてしまったりで、ペースもゆっくりだったんですが、さすが真美ちゃんと彩芽さん。上達が速い!お、点数もいい感じに競ってきたみたいです。


晴人 「今のはセーフだから彩芽ちゃんのポイントで、11対8で彩芽ちゃんの勝ちかな」
真美 「あぁ、疲れたー。にしても彩芽すごいなぁ。ちゃんとこっちに返してくるんだもん」
彩芽 「そうなのかなぁ。ピン球の音聞こうと思って、ずっとかがんでたから、腰がつかれちゃった」
真美 「私もー」
千尋 「いやぁ、ふたりとも初めてにしてはすごい上達だよ。私なんて、初めてやったときは、全然ラケットに当たらなかったもん。彩芽さんが休憩できたら、次は私とかな。ここは経験者の実力をお見せしないとね」
彩芽 「お手柔らかにお願いしまーす」


私がいいところを見せるはずだったんですが、かたくなりすぎたみたいで、最初から2連続でサーブミスをしてしまって、大ピンチに。なんとか持ち込んだマッチポイントでも決めきれなくって、今度は逆に11対10に追い詰められてしまいました。やばい、ここはなんとしてもいいサーブ打って追いつかないと!


千尋 「いきまーす」
彩芽 「はーい」
カン!シャラシャラシャラ……バン!
千尋 「ああ!!」
晴人 「アウトー」
彩芽 「…え?私の勝ち?」
真美 「彩芽すごーい!!経験者に勝っちゃうなんて」
彩芽 「いやぁ、ビギナーズラックていうやつかな」
千尋 【ずーん】
晴人 「そんなにへこまなくても。ただのお遊びなんだしさ」
千尋 「そうなんだけどさ。私の6年間がー」【しょぼん】


その後も何ゲームかやって、みんなで思う存分卓球を楽しみました。あ、ちゃんと汚名返上もできましたよ。あぁ、よかった。それにふたりともすごく楽しんでくれたみたい。今度は張本先輩を誘ってみようかな……


つづく
 

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