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舞夜物語 vol.1

3月に一度は
玄兎が地上に舞い降りるのは ご存知だろうか

羊使いのフェリは 玄兎とは知らずして
夜の草原に 光り輝く少年を見かけたけど
夜風が頬をかすめると すっかり幻のように
少年の姿が見えなくなったことには気づきもしなかった

フェリは 昼間に滑落した牧羊犬のジフの怪我を悔い、独り夜風に話しかけていた

ジフって相棒は おいらと同じ誕生日なんだ
ジフの父さんと母さんは 山3つ向こうの湖畔の街に居るんだ 或る日おいらの育ての爺ちゃんが おいらの兄弟代わりだと引き合わせてくれたんだぜ

ジフを初めて抱いたときは おいらは自分の寝床を立派にこしらえることが出来た歳だった

だから ジフの為に
ふかふかで香りのとびきりいい干し草で
歓迎したのさ

ジフってヤツは
走れ!っていうと止まるし
止まれ!っていうとコロコロ転がって
待て!っていうと死んだフリをするヤツなんだ

唯一、頼んだぞ!ジフ!っていうと
指示していないのに
おいらが 一番して欲しいことを
103%の満足度で仕上げてくれるのさ

だから
初めから以心伝心で
トレーニングなんて無用だったんだ

どうしてなんだろうっていつも不思議なんだ

おいらが 感じるには
ジフは ずっとおいらを想っているんだ
ジフは 全く吠えないんだけど
体ごと よくくっついてくるのさ
おいらが 鼻がムズムズしてクスンッとすると
ジフも 決まってクスンッとする
或る時 おいらは大笑いが止まらなかったんだけど ジフの様子がちょっと変なんだ
どうやら犬というのをすっかり忘れたのか
なんとなく大口を開けて 左右に頭を振ったり
上下に揺さぶったりしているのさ

そこでおいらは 思った
ジフは 赤ん坊の頃からおいらの腕の中で
羊使いの呼吸を学んでいたんだ
おいらの吐息や鼓動 周りの状況をよく見聞きしていたのさ

ところが
どっかでアベコベちゃって
止まれ!
がおかしなことになっちゃってるんだね

だから
ジフは もうおいら自身のような気がしてて
してて クスンッグスンッグスン
アレ おいら目から水が湧いてくるぞ

一体全体どうなってるんだ
とまらない
嗚〜呼 胸が痛いぞ
どうなっちまったんだ

ジフは、3日もすれば
きっと 爺ちゃんと街から帰ってくるのさ

ふと もう三度続けて夜風がフェリの頬をかすめると フェリは深い眠りに落ちた

あの夜から3度目の夜の草原

フェリは 鳶が
ピーヒョロロロ〜
ピーヒョロロロ〜
と二回夜空に翻るとピカピカと光り輝いて
フェリの足下に降り立ったのに息をのんだ
すると
草原の草が小さく螺旋に舞い上がり
鳶を包み込んだ

時間にして30秒程のことだった

ピタリと何もかもが 
止まったように感じた瞬間

目の前に
5寸程の 見目麗しい少年が現れた

その光の少年は
フェリに 無言で 
山珊瑚で出来た
小さな小さなオカリナを手渡すと
再び螺旋に舞い上がる草の中に囲まれ
今度は 小さな小さな蝶トンボがヒラヒラと現れ、天高く月光に重なって光になってしまいました

フェリは 山珊瑚のオカリナを握りしめたまま
気づくと朝を迎えていました

フェリは その次の日もまた次の日も
ジフには逢えませんでした

フェリは握りしめた山珊瑚を吹くと
羊達の会話が判るようになっていました
ひと仕事終えると
見上げてごらん♪を
一曲演奏することにしました

爺ちゃんの鼻歌を真似て
ジフに届くようにと3つ山向こうに向かって
練習し続けました

丁度 ジフとフェリの誕生日の晩
遂に 爺ちゃんがフェリの演奏に釣られて
鼻歌を始めました

すると
なんとブルームーンの大空に
ジフの姿を見たのです

フェリは
またいつしかのように
目から水が湧いてきました

溢れて溢れて止まりません

ようやく水が止まった頃

目の前には
それはそれは美しい湖が広がり
ブルームーンが浮かび上がっていました

フェリは、ようやく気づきました

ジフよ ありがとう

玄兎と書いてジフ湖は 
のちにブルームーンの名所となり
ブルームーンの現れる日には
2羽の鳶が
ピーヒョロロロと仲良く旋回するのでした

お終い
※物語は 童話づくりに憧れた私の戯れです🙏

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