ため息を 言葉にしてみよう

美しいものに出会い、有意義な時間を過ごして、幸せを感じる時。ため息しか出てこなくて悔しくなることがあります。
その一つが、歌手で俳優でもある及川光博さん(以下、ミッチー)のライブです。ご本人も演者の一人として舞台に立つインスタレーション作品。女子(コーラス&ダンサー)のスタイリングに毎回うっとり。凄腕プレイヤーが集う一期一会の夜、ライブ後に飲むビールは格別の美味しさ。「眼福」且つ「耳福」そして「口福」。
客席にご招待いただく我々は、装いとコール&レスポンスで作品を完成させる1ピースだと自負しておりまして。SNSでライブレポやイラストも見かけますが、皆さん多才!観る側の表現欲求を刺激する「何か」があるんじゃないかな。

2021年のツアータイトルは 『SOUL TRAVELER』


ライブ映像中の客席に見つけました。マスクをしているため眉毛と目だけですが、絶対に笑顔の私。淡々と過ごした日々に、こんな素敵な時間があったんだなぁと、またニンマリ。
下記の曲名はセットリストの一部で、ライブでの体感や映像の感想を食べ物の味になぞらえてみました。「味覚」は、口内の味覚受容器「味蕾」が感知し、舌の上で起きる化学反応によって捉えられる感覚です。個人差がありますので悪しからず。

塩、砂糖に酢を混ぜ、オリーブオイルを少しずつ入れながら、さらにかき混ぜる。酢と油の比率は1:2。「かりりっ」歯応えと咀嚼音も楽しみたいから、ブロッコリーは少し硬めに茹でて、鮮やかな緑色に。

『Purple Diamond』=塩味

体内に塩分を取り入れたことを感知すると、脳へ信号が送られ血液やリンパ液などの体液が調整されます。塩がなければ細胞は働くことができず、過不足で様々な疾患を引き起こす可能性も。塩味は味蕾を目覚めさせ、他の味を認識する力を高める働きもあるとか。

初日。
時を堰き止めていた幕が上がる。                      そして、さめざめと泣く自分を想像していた、のに。

暗闇を二分するレーザー光線を見上げ、ただ瞬きするだけでした。飢えていたんだな、やっぱり。ツアーが中止となった2020年、桁違いの再生回数に苦笑いするほど何度も聴いた曲から始まりました。目を閉じると緑色の雨が流れてくる。マトリックス(仮想現実空間)!そっか。テーマは「近未来」だったね。一旦、デフォルトに戻します。ステージからの「自由に楽しんでいいんだよ」というお言葉に甘えて、存分にカスタマイズしていきます。

『BE MY ONE』=甘味 

MVを見た時は、綿あめかな?お菓子みたいな曲だなと思いましたが、とろけていく感じは、そうだ、アレだわ。

私にとって「エメラルドグリーンの甘いモノ」といえば、アイスクリーム『宝石箱(メロン味)』です。子どもの頃、お店の冷凍庫に貼ってあったピンク・レディーのポスターが欲しくて欲しくて。こんなノスタルジーも「胸キュン」ですよね。甘いモノって、見ただけでも幸せな気持ちになるから不思議です。
甘味の感知は、脳や筋肉が活動するための燃料、エネルギー源となる糖質が含まれていることを意味します。ミッチーに甘味を感じたということは、ミッチーは生きていくために必要なものですよね?(論理的には間違ってます。ごめんなさい) 

『未熟者にはわかるまい。』=酸味                     

酸味は、果物や作物が十分に熟していないことや腐敗を意味することがあるため、この食べ物は避けた方がいいと教えてくれるサインとも言えます。

アダムとイヴがかじったリンゴ、共有した罪は、どんな味だったんだろう。   楽園を背にした二人、苦難の旅のはじまり。              


『ラブ・アンドロイド』=脂肪味
                      
生理学的には味蕾を通して感じる味のみが味覚(基本味=塩味、甘味、酸味、うま味、苦味)とされています。第6の味覚として脂肪味が研究されているとか。油脂の味をピタリと表現する言葉は思いつかないけれど、口内に膜を作り「ぬるり」とした感触を残していくので存在を直感できます。               

あれは夢じゃなかった、よね?

オープニング曲冒頭の3分ほど、身体を斜めに捩り、照明を自らの光で跳ね返しているダンサーに釘付け。性質の違いから混ざり合えない物質、反発し合うような関係を例える「水と油」を連想しました。タイムラグと立ち居振る舞いで可視化された境界線。手を伸ばして触れることができたなら、多分「ひんやり&つるん」だ。アンドロイドの面影がフラッシュバックして、この曲のストーリーを補完。「2055」ハンドサインはオマージュですよね?他にも誰かとすれ違っているんだろうけど、わからなくてもどかしいです。




「辛味」と「渋味」は口内に呼応する味蕾がないので、粘膜の神経がその役目を担います。こちらはお好みで。



『アクアリウム』=辛味(を和らげる方法)

「アクアリウム」は水槽や水族館を意味しますが、ステージと客席が一体化した会場は青海原のようです。コーラスのリエさんが着ているドレスのドレープから立体感とあそびが生まれ、照明が作る陰影に引き寄せられちゃう。キラキラ光る水面みたい。弾け飛んだカケラは耳元や指先にも。次の曲が『彼の比率』だって知っているからだ。ひりひりする痛みと脈拍や体温が上がっていくような、そんな灼熱感を密かに鎮めたい。美魔女(リエさん)の魔法で、言葉(声)と引き換えに魚の姿に変えてもらい、エメラルドグリーンの浅瀬からもう少し深く、青い光だけが辿り着けるところへ。このまま海の泡になってしまってもいいかな、なーんて。(妄想が過ぎました。大好きな曲なので止められないよ。)

香辛料は全体を引き締めるアクセント。荒目に挽いた黒胡椒を少々。もしくは、水と油を一体化させる乳化剤ともなるマスタードなんてどうでしょうか。
辛さが苦手なら、風味をプラスし酸味強目で調整する赤ワインビネガーはいかが?

『懺悔』=渋味

ワインを飲んだ時、口の中がざらざら乾燥するように感じるのは、原料となるぶどうの果皮に含まれる渋味成分タンニンの影響です。思い浮かべただけで…。


あの、ぎゅっと締め付けられたような感覚。

望んではいけないものを欲した自分を責め、それでも消せない渇望。不意にそんな告白を聴いてしまったからですね。『アクアリウム』入れ替え曲のため映像はありませんが、忘れられない1曲。


『彼の比率』&『ビトゥイーン・ザ・シーツ』=うま味

うま味成分のグルタミン酸は食品に添加されることもありますが、トマトやパルメザンチーズなどには自然の状態で含まれています。異なるうま味成分を掛け合わせることで、味覚の相乗効果が得られるとか。
 
比率とパーセンテージ。意味は同じようでも、週末の様子は全然違っていて。泳ぎ疲れた彼女と逸る気持ちを抑えタクシーを探す彼。吐露したやるせなさ、本心とは裏腹のすました横顔(妄想)が愛おしくて客席でもだもだ。男女を俯瞰の視点で語る『未熟者にはわかるまい。』(=酸味)もじわじわ効いてくる。
及川プロデューサーの意図した展開ではないでしょうが、より深い意味が込められているのでは?と、散り散りのフレーズを拾い集めて勝手に創作しちゃいますってば!合わせ鏡のようなこの2曲はメインディッシュ(新譜)を引き立てる隠し味、発酵熟成期間を経た醤油。味わいに厚みと広がりを与え、まろやかなコクと香りも楽しめます。

『悲しみで胸がいっぱい』=苦味

なんて声をかけたらいいのかわからないから、髪をクシャクシャにしながら撫でてあげたい。多分、ウザがられますね。雨が止めば気持ちも晴れるわけではないけれど、雲間からもうすぐ光が差し込むはず、そんな予感がします。前向きなのは、歌詞の「雨に咲く傘の花」を、ライブ会場へ向かう人波に重ねてワクワクしちゃったからなんです。ミッチーのライブには降雨が付き物。場面を設定する普遍的な天候で、登場人物の心理を語り、受け取る側の感情を揺さぶり、リアリティを加味できるんだもの、これはもう「雨男」作詞家ゆえの特権なのでは。実際、突然降られると大迷惑ですが、悲喜劇作品での雨にまつわる情景描写はクセになる苦味。



甘味と苦味、好きと嫌いも表裏一体。子どもが嫌いな野菜ランキング常連のピーマンのように、成長の過程で食生活を豊かにする食材へと変わる苦味もあります。経験と時間を重ねて知る「大人の味」。一方で、味蕾の数は徐々に減っていくとか。なるほど。私がブロッコリーに苦味を感じないのは、品種改良のお陰ではなく、ただ鈍感になってしまったからなのね。せつない。


『抱き枕』=美味しいもの(?)

ねぇ、ねぇ。空腹を満たせれば何でもいいってワケじゃないのよ。「そばにいるから」と「そばにいてほしい」しか言わない彼にお説教したいのをグッと堪えて。言外にあふれた彼女への思いをミッチーにご教授いただきながら、手をつないで歩いていく二人の後ろ姿を見送る。

大切な人の身を案じ、そばにいたいと願う愛慕の情と柔らかく温かい質感が、表情や身振りからも伝わってきました。心がふわっと軽くなったのは、「抱き枕」擬似体験によるリラックス効果でしょうか。
座席位置はもちろん、どこにフォーカスするかで印象は変わるもの。ライブ中は彼女と彼の旅立ちをイメージしていたのに、あらためて映像を見たら、ハイハイする赤ちゃんに「おいで、おいで」してるシーンなんじゃない?って思いました。その両手に希望を託したら絶対に大丈夫って感じがします。ちょっと重いけど、煩悩まみれの私も抱き上げてもらえませんかー!

物理的距離と心理的距離はイコールでもなく、我らの「星(推し)」ミッチーは、遠隔技の巨匠ですからね。時空だって操れちゃうかも。

「♪ 新しい旅を始めよう… 」 

はーい! 次のライブが待ち遠しいです。