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消化できないルッキズムの話


唐突にどうした????

これは私が大学生のときに出会った、とんでもない、しかし私の今後の生き方を180度変えたある女の話です。



まず先に伝えておきたいのですが、

外見や容姿のことで何か傷ついた経験がある方がこのnoteを読まれると、もしかすると当時の傷を抉られたり、とても悲しい気持ちになる可能性があります。


そしてハッピーエンドも待っていない、解ける兆しのない私の呪いの話なので、持っていかれそうな方は目を通すのをおすすめしません。

だから公開しなくても良かったんだけど、なんだろうな。私が呪われていることを、誰かに知って欲しくなっちゃったな。



出会い

私がとんでもねえルッキズムモンスター女と知り合うことになったのは、私が大学3年生のとき、近所のスポーツジムの受付スタッフのアルバイトがきっかけです。


まず私は客観的な事実として、名前くらいは誰もが知る有名な大学で法律を学ぶ学生でした。この上なくリーガルマインドを身に付けた、優秀かつ真面目で規律的な学生です(建前上はね)

対して彼女は高校時代を卒業後、専門学校1年生のときに妊娠、デキ婚の末2年前に離婚、親権は父親に渡し、当時は別の男性とお付き合いしては別れるような女性でした。たしか2歳年上。

仮名で「まい」さんとします。


私は中学校も比較的教育熱心な地域の公立に通い、高校からはマジメな進学校(女子高)に進んだのち、ここに実家ごと引っ越してきたので、たぶんここでバイトしなかったら今後の人生で一生出会うことのなかったような人種です。


これは別に見下しているとかではなく、私は私で、正直わたしが歩まなかったタイプの人生を歩んできたひととしてとても興味深かったし、毎日話してくれることがあまりにも刺激的なので結構好きな女性でした。


とかいいつつ、必要のない経歴までしっかり書くあたり、やっぱり結構見下してるとこ、あるんだろうな。

他人事としておもろすぎるタイプの人。他人事にしておきたかった人。



shampooが読めない


カルチャーショック①


スポーツジムの受付なので、閉館作業後忘れ物があればフロントで管理するシステムになっており、各所の忘れ物がフロントに集まってきます。

その日もお風呂場での忘れ物が大量にあり、2人で閉館後記録を付けていました。

対象物は小さな深緑のミニボトル。

彼女が帳簿に「ボトル(緑)」と書いているのを見ながら、shampooという文字を確認し、「あーシャンプーですねー」と私が言ったところ


あーこれシャンプーって書いてあるんだー





……………?!?!?!!!!!






shampoo………読めないんだ……………





ほかの方がどう思うのかは分からないのですが、私はここでものすごいカルチャーショックを受けました


shampooが読めなかったら、この世の英語ほぼ全部読めなくない?歌詞も映画のタイトルも謎のTシャツも、全部全部、意味がわからないってこと???????



それってめちゃくちゃ、世界狭くない?



わたし本人の語学力としては、日本でずっと生活をしてきてセンター英語をほぼ満点取れるくらい、つまりなんでも大体読めます。


日本人みんながそうではない、ということは当然理解しつつ(だって日本で必要ないもんね)ここまで読めない人がいることに死ぬほどびっくりしました。



英語が出来なくても雰囲気でわからん??????ローマ字で読めん?????ローマ字は分かるのかなこの人????????



本当に単純にびっくりしてしまい、帰宅してすぐ、あまり勉強に重きを置いた人生を送ってこなかった母に確認しました。


私「shampoo、これ読める?」
母「シャンプー」



ああ良かった〜。
母が読めたことに、というか、やっぱりこの程度の英語は常識的に読めるよね、というか。私が英語をやらない人でもこの位は読めるんじゃないかな?の認識がだいたい合ってて、、良かった〜



母「書けって言われたら綴りわかんないな」

母よ、それは私も怪しい。



ブスの話は聞かない


さて、本題です。


その他にもとんでもない刺激的エピソードを沢山話してくれた彼女ですが、(たぶん)私がなんでも面白そうに聞くのでドンドン心の内を話してくれるようになっていき、ついに衝撃の人生観を語ってくれました。



「洗濯機が壊れちゃったから買いに行って、店員が説明してくれたんだけど、ブスだったから話聞くの辞めた



………………………?????



ブスから物買いたくない
イケメン店員がこれがいいって言ってたからそれ買った
ブスの説明なんか聞きたくない




おっおお、おおおおおお……………




おおお……………………



おお………………



人生最大のカルチャーショックです。



ものの価値の尺度に、人の美醜が、直結している……………………




素直な感想を書きます。

頭が悪すぎる。




その日を境に、いよいよ彼女は忌憚なく、人生におけるあらゆるジャッジをルッキズムに基づいて行うアクロバティックな生き方をグイグイ説明してくれました。



・今日あの会員に対応を怒られたけど、ブスだから全然効かない
・(他部門のアルバイト)ブスのくせにめちゃくちゃ遊びに誘ってくる、ウザイ
・ウザいけど横にいるとまいの写真が盛れる
・ブスの時点で話聞く気にならない
・デブもおなじ
・デブが痩せてもブスなら同じ
・デブが同じライブに来てた。デブが同じアーティストのファンとか勘弁して欲しい
・(当時の上長は)可愛いから言うこと聞くしかない。でもまいも同じくらい、というかまいのほうがちょっとかわいい




す、、すごい女だ…………………




もしかすると、というか普通に、こんな人間が横にいたら不愉快極まりないと感じるのが一般的な人間だとは思うのですが


不思議なことに私はそこまで不愉快には思っていませんでした。


あったま悪いなあとは常々思っていたのですが(ド失礼)そんなに不愉快にならず聞けていたのは、多分私がブスでは無いという自覚があったのも大きい気がします。


別にとても外見に自信があるわけではないけど、特別彼女が言う「ブス」に私も含まれている、とは全く考えていなかったので、他人事としてへらへら聞いていました。
私に向けられているとは1ミリも思ってない。


おそらくらまいさん側も、同じように私を認定して、ある程度共感してくれるものとして安心して話していた節があります。



彼女の中の思考回路はたぶん
まい:めちゃくちゃ可愛い
私:綺麗だけど可愛くはないから張り合わないでOK。でも私の方が断然上


みたいな感じだと思います。


そう、私はこの段階においても嫌悪感をいだけなかったのです



徐々に侵食される価値観

もしここで私が「あっ私の事言われてる」と思って少しでも傷ついていたなら、ルッキズム反対を心に決めて、コイツは絶対に許さない、いつか×す…と思っていたと思うのですが


幸か不幸か私はまいさんから、同じ側の人間だと認識されていて、私も特に傷つくこともないので肯定も否定もせず、面白い人間だなあ、と思って話を聞いていく日々。


でも途中から、思い始めてしまったわけです。




めちゃくちゃ言っておるが、いうてコイツも別にそんな可愛くないけどな




芽生えた瞬間にあっ…………と思いました。



同じ尺度が植え付けられ始めてる他人事ではなくなってしまった。



そこから人を見る度に、今までなんとも思っていなかったのに、まいさんの呪いが降り掛かる毎日の始まりです。

「ブスのおめかし」
「デブのドレスアップ」
「出っ歯のメイク」






やめてくれ〜。





そこから、私の尺度としてインプットされたとは絶対に認めない、けれど。


そのアルバイトをやめて、私の人生を歩き始めても、脳内のまいさんが囁くようになりました。



それから徐々に私の中にも侵食してきて、

まいさんみたいに見てくる人もいるから、綺麗にしていないと、太らないようにしないと、美人を保って出かけないと。


BAさんも、ショップの店員さんも、エステティシャンさんも、「外見」に携わる人なら誰でも。

真っ当に扱われるためには、美人であり続けないといけない。


舐めた対応を取られた?綺麗にしていかなかったからじゃないの?

太っている時点で下に見られるに決まってるじゃん。同等に扱われるわけ、、無いでしょ。




やめてよ〜。

そう思っちゃう人がいるのは受け入れるけど、それもまた妥当と考える自分までは絶対受け入れたくないよぉ。




今までの人生で学んできた公平という理念、そんなことで見下されて言い訳がないでしょう、という理想と、実際問題、そんな理想を語っても頭の悪い人に理解させるには結局、美という武器で押し通すしかないでしょう、の脳内の戦いが


終わりません。




もしもあのときのまいさんに「あなたの考えは間違っている」と伝えて考えを改めさせたいのであれば


例えば石原さとみさんのような、美人も可愛いもできる到底叶わない美しい人にそう宣言してもらうしかないけど。
それってルッキズムに対抗したことになったんだろうか。





結局それって自分より美しい人がそういうから、っていうルッキズムに基づく思想の強制でしかない。


彼女のような人間には「ブス」がいくら声を上げても届かないわけです。





そして実際に「美人」と「可愛い」がどれだけの莫大なパワーを持っているのか、を知っている、さらにそのほんの一端を、本当にほんの少しだけ自覚しているところがあります。



利権を手にしている。




ほら、あなたにとっては都合いい話でしょ?





吐きそうです。吐きそう。




そうだからこれって、啓発風の懺悔文書な訳です。否定したいはずの概念に時々乗っかって、甘い蜜を舐めてる。気持ち悪い。


どちらの道を歩みたいのか明確に見えているのに、ときどき美味しいところだけ頂いてる。その矛盾に本当に耐えられなくなるときが、たまにあります。


あるからこそ久しぶりに、こんな呪いの文書を書いてしまった。ああおそろしい。




彼女は今、2児の母をしています。
自分の子がブスって虐められたらどうするのかな。


ほら、こういう下世話な興味が湧いてくるあたり、私の呪いはやっぱり全く解けていないわけです。



でもこれが呪いだって気付ける脳みそを手に入れることが出来たことは、私が今まで学んできたことによる確かな収穫であり恩恵なはず。

呪詛を吐きながらでもいいから、光の道を生きていきたいものですね。



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