頭の中の片隅にずっといるひと。
専門学校を中退してから始めたアルバイト先の確か3、4歳年上の綺麗なおねえさん。ここではAちゃんと呼ぶ。
わたしの暗黒時代に深く関わった人。
もう忘れたい存在なのにずっと頭の中に住み続けている。
わたしは何の気付きをいただく為にAちゃんと出会ったのだろう。
最近すごく考えてしまうので、記憶を辿ってみようと思う。
ロッカーで2人きりのときに「左利き?」と話しかけられる。
わたしの右腕が傷だらけだったから。
Aちゃんは刺青がからだの至るところに入っていてピアスも沢山。
リストカットの傷跡も全身にあった。
「はなんちゃん見て見てー!」とTシャツを胸まであげてお腹の新たな刺青を無邪気に見せてくれたときもあった。
スタジオについて行ってお腹に色を入れてるところを見守った。
タバコは赤ラーク12mg。
ビールは常に冷蔵庫に常備されている。
あるものは自由に飲んでいいし食べていいと言ってくれた。
睡眠導入剤とか抗うつ薬とか飲んでた。
「病院の薬をまだ飲んだことないなら飲まないほうがいい。1回人生終わるよ。」と言われたのをわたしは忠実に守ってた。
今思えば、もっと早く病院に頼れば良かった。
「こっちの世界においでよ!楽しいよ!」とLGBTQの世界を知る。
「ご主人様に会いたーい!!」と悲痛な叫びが聞こえて、Aちゃんのもとへ行くと、わたしに聞かれていたことにめちゃくちゃ恥ずかしがってた。
わたしはこのときAちゃんに彼氏の他に、彼女、そしてご主人様というSMのパートナーがいることを知る。
メイド喫茶のメイドさんだったり、SMの女王様だったり変幻自在な人。
「はなんちゃん、パンツ見せたらお金貰える仕事あるけどしてみる?」とか、「わたしが働いてるキャバクラで一緒に働かない?」とか、色々誘ってくれたけど、わたしには到底無理だと全て断った。
わたしの家の事情を知ってくれてたので、彼氏さんと同棲してた家に「いつでもおいで!」と言ってくれた。
彼氏さんも優しく迎えてくれた。
暗闇の中でお酒を飲みながらテレビでサイケデリックの映像をひたすら観るという謎の時間を過ごしたこともある。
もっと痩せよう!ヒール履こう!
こういう髪型にした方が可愛いよ!
プチ整形で二重にしよう!
今思うと、楽しい世界は沢山あるよ!とその人の世界での生き方を教えてくれてた。
「わたしに恩を返さなきゃとか思わなくていいよ。はなんちゃんがこの先出会う困ってる人を助けてあげてね。そうやって世界はまわっていくんだってわたしが苦しいとき助けてくれた人に教えてもらったから。」
台所でわたしと食べる晩御飯を作りながら言ってくれた言葉。
オンラインサロンのわたしにとっての最後のグルコンの時間の中でのコーチの言葉とAちゃんの言葉が繋がった。
お泊まりをさせてもらった日におやすみのキスをされて驚いて帰ってしまった日があって、次の仕事のときに「ごめん…でも○○ちゃんは受け入れてくれたのに…」と悲しそうに言われた。
そのときは友達なのになんでそんなことしたの?ってことしか思えなかったけど、Aちゃんの世界では愛情表現がそうだっただけなんだよね。
拒否してごめん。受け取れなくてごめん。
Aちゃんが別れても愛してた女の子が自殺。
当時同棲してた恋人を仕事に送り出した直後だったらしい。
以前わたしはその女の子に1回会っていた。
笑顔の可愛らしい女の子だった。
「この子は何回も自殺未遂してる。連絡が来たときに本当にいなくなっちゃったんだなと思った。」「この子のこと覚えていてくれてありがとう。」とAちゃんに言われた。
そして、わたしにも優しく接してくれてたAちゃんの彼氏さんが県外のラブホで自殺してしまう。
Aちゃんは壊れた。「彼氏がどんだけ苦しかったかわたしも同じ気持ちになる。」と同じ行動にでたこともあった。
どんどん壊れていくAちゃんの傍にいることが出来なくなり、わたしは逃げた。
Aちゃんごめんなさい。苦しいときに逃げてしまってごめんなさい。
入院してた精神病棟から退院したと連絡があり、会おうと言われ会った。
「〇〇〇しない?結構簡単に手に入るんだ。」と言われた。
ショックだったし、怖かった。今まで断れないわたしだったけど、これだけはハッキリ断った。ちゃんと自分を守れた。
数年が経ち、わたしは今のパートナーと同棲を始めた。
Aちゃんと再会。話を聞くと結婚したが旦那さんと離婚し子どもを連れて実家に戻っていた。
LGBTQの世界教えたのAちゃんなのに自分は子ども産んでてずるい。
なんか幸せそうでずるい。
1年間のホームレス生活からやっと脱却した当時のわたしはそう思った。
わたしはわたしの幸せがあったのにこのときは気付けなかった。
そうこうしてると、わたしたちが住み始めた家の隣のアパートに子どもと越してきた。
たまたまだと思いたいけど、怖かった。
遊びにおいでと言われ、断ることが出来ないわたしは言われるまま遊びに行った。
タバコは赤ラークからキセルに変わってた。
なんかAちゃんは何処までもAちゃんだなあとぼんやり思った。
誘われる度にわたしはパートナーに相談した。
「家に遊びにおいでって言われた。どうしよう。」
「遠出しようって誘われた。どうしよう。」
「行きたければ行けばいいし、行きたくなければ断ればいい。理由なんていらないんじゃない?なんで来ないの?とかまで聞かないでしょ。」
わたしのパートナーは昔からとてもシンプルでとても強い。
Aちゃんは元旦那さんの友達と付き合い始め、「元旦那にバレるとヤバいから彼氏が来たときだけ駐車場を交換して欲しい。」と言われた。
わたし関係ないのにめんどくさいなと思いながら、やっぱり断れない自分がいた。
そんなとき、祖母の家で母の兄が亡くなり、愛猫の面倒を誰が見るかの話し合いになり、わたしが引き取ります。と立候補したので、パートナーと共にペット可の家に急遽引っ越すことが決まった。
家を離れると同時にSNSのアカウントを変えたが、Aちゃんにすぐ見つかった。怖くなりSNSもやらなくなった。
そのあとも何故かたまたま立ち寄ったコンビニなどでAちゃんに出くわし、声をかけられることがあった。
どうにか断ち切りたくて、最初に作ったドリームボードにAちゃんのことを書き込んだ。
「わたしと同じと思ってたけど、はなんちゃんは強いんだね。」とLINEが来たときがあった。Aちゃんから離れられるときが来たと思った。
これでほんとに終わりだと思ったけど、数年後また連絡が来る。
「気付いたら血だらけで」「足が動かなくなった」「はなんちゃんと同じ仕事したい」
もう嫌だなあと思い、LINEをブロックした。
わたしの中では思い切った行動だった。
そこからは、1回も連絡がない。
電話も来ない。
恐る恐るまたSNSを始めた。
そしたらユンギに出会った。
わたしだと思った。
Aちゃんがいまだにずっと頭の片隅にいるのなんでだろうと思ってたけど、わたしの中のAちゃんとこうやって向き合ってこなかったからだ。
あのときのみんなが敵だったわたしを見つけてくれてありがとう。色んな世界を教えてくれてありがとう。愛をくれてありがとう。守ってくれてありがとう。
あの頃のわたしも、わたしの中のAちゃんも柔らかなの光で包むから。もう離れていても大丈夫。わたしの中のAちゃんさようなら。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?