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OLの話

むかしむかしあるところに、一人のOLが住んでいました。

OLはいつもいつも疲れていました。

朝早くから夜遅くまで毎日毎日仕事に追われていたからです。

友人も皆結婚し子育てに忙しく、以前のように休日に遊びに行く仲間もいなくなりました。

週に一度の休日は一人部屋で寝るかインターネットをするかの日々。

まともな食事はほとんど摂らず、空腹を感じた時にチョコレートをかじるような休日。気づけば平日は社食のランチのみ、土日はミルクティーだけなんていうことが続くようになりました。

掃除をする気力も、遊びに行く気力もなく、部屋はどんどん汚れて行きました。

明日会社に行きたくないなぁ、いつも考えていました。

会社では笑顔で元気に振舞っていましたが、仕事量のあからさまな差、休日ドライブのお誘いを断った上司からの執拗ないびりやいじめ、少し先に昇級したOLに対する中卒社員の嫉みと僻みを一身に受け、くじけそうでした。

あんたの子宮、腐ってんじゃないの、と言い放った母親とは絶縁し、唯一のつながりのある父親から、今日の昼に呼び出され、ランチをしている時に、報告を受けました。

徹(OLの兄)に家を建ててやることにしたから。

お前にはいま、お父さん達が住んでいる、マンションをあげよう

兄には二人の子供とお嫁さんがいます。努力嫌いな兄は3浪した上に地方の大学へ行き、卒業後も就職できず、フリーターのような日々を送っていました。見かねた父が会社を辞め、小さな印刷会社を買い取り、そこに兄を雇い入れたのです。といっても営業など一切しない父子二人の会社はほぼ赤字で、兄の給料は、父の年金がまるまる使われていました。兄は小さな子供を会社に連れて行き、保育所代わりに会社を使い、会社の車を私用車のように乗り回し、朝は8時過ぎに家を出て、夕方5時には帰宅していました。

アパートのOLの部屋は、突然結婚してしまった兄夫婦に1年弱貸し出されました。

突然結婚してしまい、住むところがなかったのです。はじめは1、2ヶ月の約束が、どんどん伸びていき、シーズンごとの服を持ち出す時にも、なぜか、全部荷物を持って行けといわれ、3シーズンを過ぎた頃、OLからそろそろ戻してほしいと切り出しました。

掃除も何もしない部屋が戻ってきました。

純毛毛布は洗濯機にかけられ縮み、お気に入りの食器は割られていました。ごめんねの一言もなく、わざわざお茶碗代わりのを買ってきたから!と言われ軽い怒りを感じたのを覚えています。

OLは1日お休みをとってお部屋を掃除し貸し出したのに。埃の積もったままの部屋を返されて、また1日お休みをとって掃除をしました。

いつ頃からか、兄はOLを完全に無視するようになりました。

甥っ子たちに、お年玉をあげても、お誕生日や子供の日にお金とプレゼントをあげても何のお礼も言いません。妹が自分よりも年収が高いことに我慢がならないのです。

マンションには絶縁した母親が住んでします。

兄は数年のうちに、都内一等地に一戸建て。

OLは数年のうちにこの部屋を出て、どこかのアパートの借り、細々OL生活を続けていくのでしょう。

OLが今住んでいる部屋は電気がつきません。天井裏のネズミがかじったんです。

直してほしいと何度言っても直してもらえません、壊すことがわかっているアパートに修理費を出すのはもったいないのでしょう。

雪が降れば雪かきをします。生垣の剪定もします。

でも管理費も家賃もきっちりと支払い続けています。累計1000万円を軽く超えました。

OLは何のために生きているのか分からなくなりました。

そして、生きているのが嫌になりました。

ある日、OLはお酒をたくさん飲んで、睡眠薬をたくさん飲み、湯船に浸かると、そのまま持っていたカミソリで手首を切りました。

赤い血が、たくさん、流れて湯船を染めていきます。

血の匂いが浴室に充満していきます。

赤い色が綺麗だなぁ。

OLは最後に何を思ったのでしょう。

とても安らかな顔でした。

OLの名前は彩と言います。

彼女の人生は誰かの人生を彩ったのでしょうか。

彼女の人生は彩りあるものだったのでしょうか。

答えは神様しかわかりません

もうすぐ桜の季節がやってきます。

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