「有観客」をプラスに

7月10日、ついにプロ野球に観客が戻ってきた。

入場制限がかかり座席間隔はまばら、マスクの着用が必須で声援も送れないという条件はあるが、「ファンがそこにいる」ということは画面越しにも見ても嬉しかった。普段聞こえない打球音や捕球音、選手のかけ声を楽しむことができたとはいえ、無観客試合はやはり寂しかったのだ。

だが飲食中でもないのにマスクをずらしている客、自席を離れてファールボールを取りに行く客の姿がカメラに抜かれ始めると喜んでばかりもいられなくなった。極め付けが忘れもしない8回の裏、ピッチャー交代時に飛んだ「ヤジ」である。

今まで静かだった客席から唐突に飛んだヤジ。最初のヤジの内容は画面越しの自分には聞き取れなかったが、聞き取れたであろう球場では笑いが起きた。すると次々に大声のヤジが飛び、笑い声が止まなくなった。ほんの十数分前と同じ場所とは思えない環境になってしまったのだ。あまりのことにプレーが一時中断したほどである。

一夜明けた土曜日、球団側の対応は早く球場内では「大きな声での応援はご遠慮ください」というアナウンスが頻りに流れ試合は恙無く進行した。しかし未だマスクを外している客、ファールボールを求め自席を立つ客、周囲の客とハイタッチをする客は見られる。全てガイドライン違反である。

勿論この件はSNS上でも話題になり沢山の記事が書かれ大多数の人間が不快感を示したが、信じ難いことに「あれくらい普通だろ、いつもやってること」「ヤジは古き良き文化」などという反応も多く見られたのだ。彼らは今が『普通』でも『いつもと同じ』でもないことを理解していないのだ。ヤジそれ自体を問題視しているのではなく、NPBの定める「大声での応援禁止」というガイドラインに堂々と違反していることが問題視されていることに気がつかないのだ。

野球場でクラスターが発生する事態になればまた無観客試合に逆戻りするか最悪の場合シーズン中止になるかもしれない。そうしないために各球団最大限に感染防止策をとってファンを迎えているのに、ファン側がそれに無関心ならば予防も何もない。現状の観戦ルールが守れないなら球場に来るな、家で存分に大声を出せ、という話である。

声は出せなくても、手拍子や拍手でも想いを伝えることはできる。それぞれ無意識的にでる小さな反応は、重なれば盛り上がりやどよめきとなる。タオルを掲げて球場を染めることだってできる。出来ることに思いを馳せよう。そこにファンがいれば、何かはきっと生まれるはずだ。

今週は札幌ドームでもいよいよファンを入れた試合が開催される。待ちに待った有観客試合なのだから、全員がルールを守ることで今しか出来ない素晴らしい球場体験にできればいい。球場に行きたくても行けない人もいる。そんなテレビの前で観戦しているファンも気持ちよく応援できる、そんな環境をみんなで作り上げよう。


「これなら無観客試合の方が良かった」なんて悲しい言葉、もう二度と言わせたくない。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?