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僕の “やや終わりに差し掛かった” 自粛日誌 その⑫ 2024年冬春編

2024年 
コロナ禍で自粛生活となったのをきっかけに、いろいろな出来事を記録しようというくらいの軽いノリで書き綴ってきた『僕の自粛日誌⑪』も、なんと『その⑫』にまでになった。
今回はタイトルに “やや終わりに差し掛かった” と入ったままではあるのだけれど、これからも自分の記録として、気楽に書き続けて行こうと思う。

前回の自粛日誌をブログにアップした後の年末は、年明け2024年からスタートする新しいキャンペーン企画の準備で、かなりバタバタとしていた。
昨年発表した「ブルースハーモニカ音頭」という曲の間奏を自分のハーモニカで吹く事で、その演奏時間(約30秒)分だけ自分が宣伝したい事柄を動画で流せるというCM参加企画を考え、その第一陣を配信するのだ。
自分のオリジナル曲の普及のための企画なので、僕側はキャンペーンと呼んでいる。
年末、最初にご協力をお願いした静岡のハーピスト「山口 牧」さん版の動画が、3点同時に完成する。さすがはプロというスマートな演奏と、余裕を持った期日前のさすがの仕上がりで、受け取ったこちらもスムーズに編集作業が終了した。

次にお願いをしたお茶の水の「谷口楽器」さんの方は、データ到着の期日として決めていた日の閉店後からお店が長めの冬休みに入るという事で、ギリギリ間に合うかどうかという、なかなかの緊張感の中でやり取りが進んで行った。
演奏担当のスタッフさんと売り場のスタッフさん双方の奮闘で、ギリギリお店の閉店30分前にこちらにデータが届き、早速僕側の作業に入った。
完成した動画を店側へ連絡する頃には、すでに閉店時間を5分過ぎていたものの、申し訳なくもスタッフさん達は待っていてくれて、無事その場で谷口楽器さん側の仕上がり確認と使用許可がとれるという、まことにドラマティックな展開だった。
このように、今回の企画はお仕事をされている現場での撮影によってご参加いただくキャンペーンなので、人によっては職場での業務時間との戦いになる可能性もある訳だ。
みなさんのおかげで、第一陣はめでたくも昨年内に完成しており、新年から新企画が無事に発表出来る事になっていた。

●吹いて宣伝キャンペーン専用HP

そして大晦日。
掃除などの作業は早めに済ませ、今度は「はもにかるた」の2024年版を専用X(旧Twitter)に公開させる作業に入る。
今回は8ネタの入れ替えと初年度分の応募作品の一覧化とが重なり、単純なリニューアル作業ではあるものの、年明けのタイミングに合わせるため、深夜から始まるその作業量は、なかなかしんどいものとなった。

●はもにかるた2024専用X
●はもにかるた専用HP

明けて、2024年元旦となる。
おせちとお雑煮をつまみつつ、今度はキャンペーン企画「吹いて宣伝!ハーモニカ音頭」の動画公開作業を始める。
残るのはただ公開をするだけという気楽な状態だったつもりが、これがまさかのトラブル続きとなってしまった。
土壇場で、僕のオフィシャルHPをリニューアルした事でのさまざまな企画ページとのリンク切れや、単純なコピペミスなどが何箇所も見付かり、まさに声をあげるほどパニクってしまった。さらに最悪にも、公開直後に完成した動画内に「誤字」が見つかり、まさかの動画編集段階にさかのぼってのやり直しに。オマケに編集用の動画ファイルが何かのミスで削除されてしまっており、一からではないものの、かなり最初の方からの動画の編集作業にまでなってしまった。
大の「げんかつぎ」の僕は、元旦からのトラブル多発という落胆と、目出たさを味方につけるため、なんとしてでも元旦の内に公開させるという自身の目標の焦りから、全てのメドが経った夕方頃には、すでにグッタリと疲れ果てていた。

そんな4時過ぎだった。
少しは正月らしくビールでも呑もうかとかみさんと話している頃、「令和6年能登半島地震」が発生し、震度7を超える大地震で津波による緊急避難警報が発令されたのだ。
ほとんど日本全体が地震に見舞われ、北海道から九州までの日本海側全域という広範囲に渡る津波警報と注意報で、「ただちに避難を!」という前例のない叫びを含んだ報道を皮切りに、全てのメディアが完全に震災速報一色となった。
SNSを通じすぐに現地の映像が飛び込んで来る。日本人の誰もが東北の震災を思い出すようなモードになり、その後に続いた暗闇の期間を振り返り息を飲んだはずだ。
政府はすぐに「原発には問題がない」と発表しつつも、その発表された文章の中に「原発内での火災は鎮火された」と入っていた事で、またいつもの当たり前のような隠ぺい体質に驚愕させられた。
被災された方々の事を想像するに、正月の浮かれた気分から一転し、避けられない不安と極寒の中で、一体どれほどの恐怖と落胆の中にいるのだろうか。自分だったら、ただ不運を泣き叫び座り込むだけだろう。誰にとっても、正月とは平穏で当たり前なのだから。

このタイミングで、正月三ヶ日からのめでたい企画発表が目白押しだった僕は再びパニクってしまったものの、まずは自分以外にも影響があるものと、相手先のあるものだけは急きょ公開を先送りにする旨をそれぞれに連絡した。こういう時、とかく娯楽関連の仕事は不謹慎と叩かれやすいからだ。
地震発生直前までに公開してしまった内容はもうどうしようもなかったけれど、それ以外は全て公開を先送りの判断をした。年始のタイミングに合わせるべく、周りの方々には年末まで急ピッチで仕上げてもらったので心苦しくはあるのだけれど、こればかりは仕方がない。
誰もが思う事だろうけれど、よりによって、まさか年明けというタイミングとは。

翌日2日。
朝から地震の報道が続く。
SNSを通じて被災地のリアルな映像が溢れ、被害の大きさを大手各局のニュースが伝えて行く中、まさかの事故がそこに重なってしまう。
被災地に物資を届けようと飛び立とうとする海上保安庁の飛行機が、着陸して来たJALの旅客機と激突し、大惨事に発展する。その事故で、海上保安庁の5名が亡くなり1名が重傷となる大惨事となった。
誰もがこれが元旦と翌日2日の出来事なのかと、落胆が止まらない状況となってしまった。とてもではないけれど「おめでとう」という言葉など出て来ない。
さんたんたる幕開けとなった2024年ではあったけれど、震災から約一週間後、僕の今年の目玉企画となる「吹いて宣伝!」シリーズを公開させた。

第一弾は静岡県のハーモニカ奏者「山口 牧さん」にご参加いただけたおかげで、好調なスタートを切る事ができた。

ここまで完璧な演奏から始まると、見る側は素晴らしい企画のように感じていただけるであろうという満足な反面、後に続く演奏者の方々にかなりのプレッシャーではなかろうかと少々心配にもなった。それに、いくらアドリブなので自分らしくやれば良いとはいうものの、後になればなるほど、使える手数は減っても行くはずなので、どこかでフレーズが被ってしまったりと難点も出て来る。

そんなところに、間髪入れず続いて公開した第二弾は、お茶の水のハーモニカ専門店「谷口楽器さん」の動画だ。

さすがは専門店、ハーモニカの接客担当者も達人という訳だ。
もちろん彼はお店の都合上「ハーモニカ担当」なんて肩書きで参加をしてはくれているけれど、さまざまな大きなコンテストの受賞者で、すでにハーモニカ界隈では名前も売れ始めている方だ。お茶の水のお店に伺えば、直接ハーモニカのアドバイスも貰えるというのだから、さすがはハーモニカの専門店だ。
このご両名のおかげで、この企画は順風満帆という印象があり、僕は専用ホームページに今後の参加者達を追加して行くのが楽しみとなった。

一方、日は経てど、震災の状況は悪化の一途を辿るばかりだった。
このタイミングで政府与党は、昨年末の「裏金問題」で大臣クラス5人ものを辞職者を出し、その後逮捕者まで出す事態にまで発展したせいなのか、まるで被災地の援助に積極性がなかった。
すぐに原発に影響が無いと発表するや、実は火災があった事や、海に油が流出した事など次々に露見し始め、またもやゾッとする隠蔽体質が浮き彫りとなる。むしろ政府は積極的に嘘をつこうとしているかのようだ。
さまざまな事情があって、安全上の配慮でボランティアを被災地へ入らせないようにするなどの措置を決めたのはまだ理解できなくもないのだけれど、ドローンを飛ばすのを禁じるなどの措置は、また政府の新たな隠ぺいを匂わせる。おまけに生き埋めになっている人が何人もいると解っている時に、選挙対策の食事会を優先したというのだから、もはや気が狂ってるとしか言いようがないレベルだ。

当然の話として、昨年から問題になっていた「大阪万博」を中止して、その人・物・金を被災地の復興に切り替えるべきだとの意見が浮上する。
反対者はこぞって「国際的な行事を中止にしては日本の信用に関わる」と口を揃えるけれど、原発処理水なんてものを海に垂れ流している段階で、すでに国際的な信用はない。むしろ、もともと立地・公費・日程など全ての面で問題が山積し、もはや失敗が確定している巨大行事を中止にするには、「震災復興」こそ、最も世界中が理解をしてくれる理由になるはずだ。
中でも反対者の多くは、予算などの使い方変更は「財布が違うので不可能だ」と言うが、財布は日本人全員のもので、使い道を決めるのが国会というだけのはずだ。話の中心軸にするのなら、建築資材や建築業者が限られている事の方が、遥かに現実的に直面している逃れられない問題だろうに。

さらにここに、中止をせざるをえない理由が加わってしまう。日本ではおそらく最も人気のあるタレント、人気漫才コンビの「ダウンタウン」の松本人志のかなりショッキングかつ悪質な性加害疑惑が報じられたのだ。
この段階ではまだ疑惑の範囲で、後日法廷で争うという事になるのだけれど、本人が芸能活動の休止を決定する。彼は大阪を代表する人物で「大阪万博」のアンバサダーでもあり、当然その仕事もキャンセルという事となった。事前に彼がMCを務める番組に「大阪府知事」が出演するなど、行政とメディアの癒着も報じられる中、このスキャンダルは日本中の注目を集めた。
ここまでのトラブルが重なるイベントなんて、さすがに不吉でしかない。まるで横溝正史の小説の出て来る祟り(たたり)の範囲ではないか。
すぐにSNSではさまざまなスレッドが立ち上がり、大阪万博から能登支援への賛同が加速して行く。僕とかみさんもさすがにそれには即決で賛成をし、できる署名などは積極的に行う事にした。自分の身内にだって大阪万博の関係者がいるかもしれないけれど、これは迷う必要のない一択の話のはずだ。

被災地への募金は、今回は積立て型のものをかみさんが選んだ。額面は大きくは無いけれど毎月支払って行く事で、常に関心を持ち続けられるという訳だ。うちは同じ仕組みをホームレスの支援でも続けている。もちろんこれもかみさんのアイデアだ。

そんな状況の中、さらに残念な訃報が届く。
演歌の女王八代亜紀が闘病の末亡くなったのだ。70代の前半とは早過ぎる。彼女はブルースを愛した1人だし、箱根の観光大使を努めた住人でもあったので、とても身近に感じる。実際に箱根甘酒茶屋さんで、観光PRに回っていた彼女を見掛けた事もあったほどだ。
僕は彼女の歌うジャズに興味を持ち、コンサートホールに観に行った事があった。当初は演歌とのコラボ的な興味からだったのだけれど、ステージから伝わる演歌の女王パワーで、登場しただけですでに鳥肌ものだった。
表現を極めた者が歌うのであれば、演歌であれジャズであれブルースであれ全て一流だ。それに加えて、演歌でつちかわれた「こぶし」というものがブルーノートスケールと重なる部分が顕著にあって、八代亜紀の極上のステージは、当時僕自身が頑張っていた「童謡唱歌のブルースバージョン」を、さらにその先へと深掘りさせたいという情熱を、大いに掻き立ててくれたものだ。心より彼女のご冥福をお祈りしたい。

1月中旬
いよいよ今年の対面レッスンが始まるという頃、コロナの新規感染者が急増する。モデルナの推計が6万人を超え、第9波のピークに達し、他のサーベイランスでも急激な増加は間違いない状況となり、また今回も、ヤマノミュージックサロンに休講の連絡を入れる。やれやれ、またこれを繰り返す1年になる訳か。
ものの数日で東京都が救急車の逼迫アラートを発表、愛知県は独自に「第10波入り」を宣言、インフルエンザと合わさり「学級閉鎖」というワードがネットでトレンド入りする事態となった。
またこのタイミングで、昨年8月までで9万6千弱の方が亡くなっている事が発表され、おそらく今では10万人超えはほぼ間違いなさそうだ。政府の経済を中心とした「マスクを外せ」という誤った運動がなければ、一体どれだけの命が守れただろうかとつくづく思う。

1月末頃
最悪のスタートとなった1月がようやく終わりを迎える。誰もがそうだろうけれど、正直もう6月頃なんじゃないかと思えるほどの疲労感を感じる。
この頃、定期レッスンの生徒さん方から、コロナやインフルエンザなどの感染の連絡が相次いだ。仕方がない事だけれど、やはり今まで同様に気をつけなければならないという事だ。

僕の方はヤマノミュージックサロンの対面型のレッスンの休講をさらに3月まで延長する事も決め、その判断により新規の生徒さんが待ちきれないので入会を見送るとの連絡も受けた。対面型も休講し続け、オンラインレッスンもかなり減ってしまうのではと心配をしたものの、新しい企画の影響なのか新規の無料体験の方なども続き、それなりに忙しくはしていられた。
「吹いて宣伝!」シリーズ企画の参加者の方も順調に増え、僕や山口牧さん、谷口楽器さんのような音楽関連だけでなく、BARやさまざまな飲食店、医療関係の方までご参加いただける事となった。
それは隠れた「街の演奏者達」というイメージとなり、この企画の専用HPを眺めているだけで楽しくなって来るほどの広がり方だった。
ここからは僕のSNSでの拡散活動が重要なのだけれど、参加した方々からは「宣伝の効果はともかく、何か楽しい事をやらなきゃね」という、僕のプレッシャーを気遣う言葉を聞いた。僕は、このスタート段階だけで、すでに楽しい気持ちにさせていただいたので、ぜひ、自分の番組配信以上に、動画が拡散するように頑張ろうと思う。


ようやく2月となった。
誰もがネットにそう書き込んでいた事だろう。「いろいろな事があり過ぎた」と。
コロナはいよいよ急激に増加し始めて、「JN.1」という新型が猛威をふるっているらしい。
全国ですでに9万人を超えているらしいけれど、街ではマスクをしている人が半分ほどとまだ少ない。飲食店のスタッフですらしていない場合が多い。
それだけじゃない。インフルエンザだって10週連続で増加なんて、当たり前にネットのニュースになっている。けれど、それをテレビで放送しなければ、誰ひとり信じる訳もない。特に高齢者は知る由もないのだ。

2月初めの頃は、ある残念な話題がネットを埋め尽くしていた。
「セクシー田中さん」という連載中の漫画を実写化したドラマをめぐり、原作者と脚本家との書き直しを巡るやり取りがSNS上で話題となり、その結果炎上し、誹謗中傷から数日後に作者が自殺をしてしまうのだ。連載中の原作は未完のままとなり、ファンを始め多くの人がショックを受けた。
特にテレビ局側のあまりにも業務的なコメントが、原作者と脚本家の問題からテレビ局と出版社との問題へとクローズアップされて行った。
僕とかみさんはこの主演女優が「勇者ヨシヒコ」というドラマの出演者で、なんとなしに応援していたのもあり、サブスクでこのドラマを観ていた。作品としてとても楽しく観ていたので、この顛末にはかなりのショックを受けた。それと同時に、やはりメディアに関わる人達の集団としての異常さは、計り知れないものがあると痛感させられた。
この事件に端を発し、密かに苦しめられて来た原作者達が次々に声を上げ始め、それぞれのファン達もそれに反応し、ネットでは大きなうねりとなって行った。
しかし「ガイドラインが出来るのか」というとそうではなく、メディアの闇という区切られ方で双方がアップデートする気もないらしく「ジャニーズ」「吉本興業」の性加害問題同様、世間から大きく意識がずれたままの現状を維持する気でいるようだ。
まぁ、ともに不正まみれの衰退産業なので、直すくらいなら終わりたいというのがトップ間の本音なのだろうけれど、結局、肝心な作品に関しての責任は、誰一人取らない訳だ。
今はネットにより誰もがメディアを持てる時代となり、かつての組織が不要となったのは自然な流れなのだろうけれど、作品自体の保護はなんとか出来ないものなのだろうか。
搾取する側は常に作品とは全く無関係な連中で、罪の意識なんて微塵もなく、パワーゲームの道具にするだけなのだろうから。

そんなモヤモヤとする中、自身の企画「吹いて宣伝!」キャンペーンはすこぶる順調で、今度は生徒OBの「玉虫厨子」さんが、ご友人のお肉屋さんの宣伝を、僕の方も、甘酒茶屋さんの宣伝に続き、地元の友人の蕎麦屋さんの宣伝を担当した。
他にもよく行く地元のケーキ屋ラブレさんを相方のギタリストの「中村アキラ」さんに引き受けてもらった。

そして、この中村アキラさんが参加してくれた段階から「ブルースハーモニカ音頭」は、「ハーモニカという楽器の軸」以外に「ブルースという音楽ジャンルの軸」を増やし、さまざまな楽器が登場して来る展開となった。

そのひとりが愛知のケンハモ奏者「ユカロン」さんだ。初めて女性の参加者のご登場だ。

彼女はネットで取り扱う自分の「オリジナルブランドのご紹介」で、宣伝の対象としても斬新な感じがする。
ブルースのせいか、ハーモニカのせいか、はたまた音頭のせいか、あるいは企画運営が私だからなのかはわからないけれど、今までは重たげな男性色が強過ぎた。
世の中の流れ同様、できれば男女比が半々になれば良いのだけれど、それは今のところなかなかに難しそうだ。

2月の中旬に差し掛かろうという頃。
各所の下水サーベイランスや入院者数は前回の第9波のピークに確実に近づきつつも、ある段階で上げ止まりのような数値を見せていた。ただそれはすでに入院者を受け入れる事が出来ずにいるという事から来るデータらしく、依然としてコロナ対応は1歩も2歩も後退したままという感じだった。
静岡県のデータがネットに出ていて、一日平均およそ2400人が新規感染者として増加し続けているらしい。新種の「JN.1」というやつらしいので、ワクチンもあまり効果がないのかもしれない。
僕とかみさんはさらに最悪の感染状況になった時を想定し、外での予定をなるべく前倒ししたり、買い物のストックなどの買い足しや確認を済ませていた。
僕は対面型のレッスンも引き続き休講という判断をしていたし、オンラインレッスンを中心としたのどかな日々も、相変わらず継続が出来ていた。
最近の僕のお気に入りの外食は、某パーキングエリアの食堂だ。天気が良ければ外のテーブルで食べる事もでき、感染の心配も少ない。かみさんも色々なテイクアウトを試すのが好きなので、僕らは無理なく自然に集団を避ける生活パターンを定着させ続けいる。
映画館にも行く事ができた。だいたいどこも混んではいないのだけれど、地方の深夜割引だとガラガラな上、なかなかに安上がりだ。
この時は「ゴジラー1.0」を観に行った。海外でも多くの賞を獲得し「控えめに言っても最高!」などというネットでの前評判には少々疑いを持ってはいたものの、確かに今まで観た作品の中では、最も楽しめた映画だったと思う。これこそ映画館で無くてはという作品だったので、サブスク化の前に観れて良かった。
映画館もスカスカで半径4~5メートルには誰もおらず、気のせいか咳どころか物音一つ立てない鑑賞者ばかりだった。トイレなども誰か出るまで入らないという人が何人もおられ、やはり今の感染状況の中で、動き方は地味に変わって来ていると感じた。
少し後にゲゲゲの鬼太郎「ゲゲゲの誕生」も観に行ったけれど、やはり同じような静けさの中で、安心して映画を楽しむ事ができた。

この時期、WHOですら混雑した交通機関ではマスクの着用を推奨しているというのに、相変わらず日本のマスメディアではそれを伝える気は無かった。
驚くのが文部科学省の通達の中で、「手洗い」と「うがい」に連なっていた「マスクの着用」をあえて文章から外したというのだ。信憑性は定かではないけれど、文科省の上の人が「反マスク」でそれに準じた措置らしい。もし本当だとすれば、そんな事の積み重ねでこの異常感染は再発したのかもしれない。
僕の生徒さんも結構な割合で感染されており、1ヶ月~2ヶ月治らなかったという話や、実際に「ブレインフォグ」と思われる後遺症に悩まされている人も見受けられた。
おそらく、あとひと月もすればピークは過ぎ、徐々に再び下降気味になって行くのだろうに。誰しも、今でなければダメな事情でもあるならまだしも、いつまで「コロナはもう終わった」というムード作りを、全体で続けるつもりなのだろうか。
今の嘘だらけの国やマスメディアを信じて、ひょっとしたら完治しないかもしれない後遺症を抱えてしまうかもしれないリスクを、本当に心配にはならないのだろうか。


3月になる。
コロナ感染者が減少傾向となり、取り急ぎ、ヤマノの再開を決定し連絡をする。
今回は1月と2月の2ヶ月間のみの休講で済んだものの、やはり体調を崩されている方や、この時期のレッスンには不安があり、念のために休むという方もおられた。
僕のレッスンはまだパーテーションも外さないでもらっているし、窓開けによる換気を頻繁に行うという努力は、まだ当分の間続けて行くつもりだ。なにせハーモニカは、吹いて吸っての呼吸楽器なのだから。

加えて今がチャンスとばかりに、僕とかみさんは甲府の美術館の企画展で、仮想空間VRを経験する展示を観に行った。
大きな水中メガネのような機会をかぶり、耳にはヘッドフォンをつけ、ひとりずつ体験する。
眼の前にいる先に体験している人がキョロキョロしているのを見るに、360度の全てに広がるバーチャル空間の中にいるようだ。
盛況らしく、予約をしてから1時間ほど待ち、僕らも体験する事が出来た。
20分ほどの映像で、目の前の景色に、現実にはいない人達が登場し、踊ったり話したり演奏したりするのだ。本当に目の前にいるかのようなクオリティで、しばしば機械を外し、そこにいないのを確認したほどだ。
とはいえ、まぁ結果的には、僕にとっては残念な体験に終わった。準備不足なのか機材の不調なのか、仮想空間に入りつつも「バッテリー切れ」や「通信切断」などの表示が相次ぎ、音声すら途絶えてしまう時があった。
何度もスタッフを呼び調整してもらうものの、次の体験者が控えているとの事で、やり直しは出来ず、個人単位の体験なので、僕の番は単に「ついていなかったですね」という結論だった。
かみさんの興味で来た企画展なので、かみさん側は問題がないのは良かった。僕は、現状の映像クオリティを知る事ができたので、まずはそれくらいで充分だった。
かみさんと「本当に目の前に人がいるみたいだったね」などと、この技術が普及する未来での使い道などを話しつつ、そのまま静岡に一泊し、翌日はそのまま静岡で単館上映の映画を2本見て帰宅する。
1泊のミニ旅行だったけれど、ついでのハーモニカのミニ動画企画「ダッシュで息切れワンフレーズ」の撮影も好調で、まずまずな週末だった。

こちらの動画は、オブジェ作品とハーモニカをコラボ的にまとめてみた。

天候に恵まれたおかげだけれど、我ながらメタリック同士のいい絵が撮れたと思う。

数日後、箱根甘酒茶屋さんの餅まきに顔を出した。
甘酒茶屋さんの茅葺き屋根は定期的に交換をしなければならない大仕事で、現代ではその数も減少された貴重な職人さん達が、しばらく泊まり込みの作業を続けられていたらしい。

餅まきの前にはお祝いの挨拶と、地元の小学校の生徒さん達が集合し「箱根八里」を合唱されるという素晴らしいイベントもあった。
僕とかみさんは、箱根での付き合いのあるお蕎麦屋のご主人さん達と並んで、お子さんの話を伺いながら歌声を堪能させていただいた。
ふと、そのお子達の中に(あれ、甘酒茶屋十三代目店主 山本 聡さんのご子息達は、どこにいるんだ?)なんて一瞬探してしまうのだけれど、もう彼らは厨房に入り、甘酒を出している側なのだ。髪を染め、ピアスを付け、手入れをしていない無精ヒゲを隠そうまでしていた。あの天使のような甲高い声も消え、すっかり大人になってしまっていたのだ。
ちょうど、タイミング的にも、僕らが定期的に開催していたイベント「箱根八夜」を今年あたり復活させられないかという話をし始めていたところだったので、コロナ禍をまたいだ月日の重なりに大きなため息が出る。
全く、嫌なものだ。自分はすっかりオッサンとなり、これから年寄りに向かう訳だ。再び演奏現場に戻るにしても、本当に基礎体力作りから始めなければならないとは。
幸い、体調もそれなりに元に戻った、と言えなくもない。まぁ、また悪化したら、誰かに助けてもらえば良いのだ。
帰路につく僕らは、ここ10年ほどを振り返りつつ、昔話に花を咲かせた。

数日後、訃報が世界を駆け巡る。
「Dr.スランプ」「ドランゴンボール」などで知られる大人気漫画家鳥山明が、急性硬膜下血腫により、68歳という若さで急逝された。SNSの多くはこの話題が埋め尽くし、僕自身も喪失感を味わった。
14歳の頃から高校2年くらいまでの間、僕は漫画家になる事だけを目指し、毎日漫画を描き、月例賞に応募を続けていた。集英社の週刊少年ジャンプへの1本狙いで、その熱意が伝わり、ある段階から出版社の人がノートに鉛筆描きの段階で原稿を見て下さる事にまでなり、当時は最年少デビューを目指し、学校そっちのけで漫画を描いては、足繁く集英社の編集部へ通ったものだ。
その際、僕の原稿がいつも修正液まみれだった事を注意した編集者の方が、プロの仕事として鳥山明の「ドラゴンボール」の納品原稿を見せてくれた。
約20ページの原稿で、修正はただの1箇所だけ。しかも枠線の外で、コーヒーをこぼしたからという事だった。枠線は水性ペンで適当に引いたようなラフな感じだった。全体を通して最低限しか手を動かさないという、プロならではの説得力が十二分に伝わって来た。
当時の僕は生意気で、そんな神的な原稿を目の当たりにしつつも、鳥山明を崇めるどころか(数年後にはこうなるぞ)なんて思うほどの青さだった。
まぁ結局はしょうもない理由で漫画家への夢も諦め、今だにコロコロと夢を変え続けて生きている。
なんだか世界中の鳥山明の大ファン達に「僕のような者が」という申し訳無さはあるけれど、僕にとって宝物のような経験だった。

翌日、なんと人気声優のTARAKOの突然の訃報が報じられる。63歳という若さに日本中が悲しみに包まれた。
TARAKOといえば、僕は「戦闘メカ ザブングル」の「チル」というキャラの声のイメージだけれど、やはり一般的には「ちびまる子ちゃん」の声として知られる存在だ。
僕はサラリーマン時代、玩具会社の商品開発の仕事で一部のちびまる子商品を担当をしていた事もあり、あの個性的な声は耳に強く残っている。
連休や商戦期などは連日売り場応援などに駆り出され、販促用のTVモニターなどで番組の一部がヘビロテされ続けるので、彼女の声はまさに脳に刷り込まれたようなものだ。
声の幼さの印象もあるので、本当に早すぎる訃報に驚かされた。

そして3月の中旬、いよいよ、僕のオンラインレッスンの値上げを告知する。まぁ、今年の1月からHPでは告知し、定期的な生徒さん方にはお話をして来た事なのだけれど、やはり値上げをする側としてはかなり気が重い。
45分3300円だった料金を、4月から45分3500円に改定するのだ。これにより一体どれくらいの生徒さんがお辞めになったり、レッスンを減らしたりされるのだろうかと、つい弱気になってしまう。全てのものが値上げになる以上、個人事業者の僕らは、それを自分のタイミングで踏み切らなければならない。
そこで、自分の宣伝という事で、「吹いて宣伝!ハーモニカ音頭」キャンペーンの自分版を撮り直してみた。

宣伝内容は金額だけを書き直し、告知内容は引き続き今までのままなのだけれど、今回の演奏面の方はアンプリファイドハーモニカで収録をしてみた。
少し前に参加していただいた名古屋時代の友人ハーピスト「じんのうせいゆう」さんもアンプリファイドでの演奏だったけれど、この企画はブルース・ソロとなる割にはアンプリファイドでの参加者が少なめなのは予想外だった。
今後の参加希望者の中には「ザ・アンプリファイド」というハーピストもおられるので、僕としては楽しみな限りだ。
と、ここまで書き、一区切りのアップをしてみたいと思う。

前回の『その⑪』にも、タイトルに“また逆戻りとなった” とつけるしかない感染状況のままだけれど、いつかは「もう“終わりとなった”自粛日誌」と銘打ちたいものだと、『その⑬』に期待したいと思う。

2024年3月23日 広瀬哲哉