シャノアール早稲田店閉店に寄せて
早稲田のシャノアールが1月13日に閉店することになった。
思い出の場所がなくなってしまうのがあまりに悲しくて、同じ場所を借りて喫茶店を始めようとしていたのだが、結局断念したのでその顛末とその過程で知った事情についてちらほらとまとめようかと思う。
※本当は閉店を知った6日から動き出し8日には断念していたのですが、やる気をなくしてしまい今日まで遅くなってしまいました。すみません。
閉店のニュースと喫茶店を始める決意をするまで
そのニュースは1月6日に突然やってきた。
30年以上続いてきて、これからもずっとあると思っていた喫茶店がある日突然こんなに簡単になくなってしまうのを目の当たりにし、その日は呆然として大学の講義も頭に入らなかった。
早稲田のシャノアールはご存知の通り、早稲田キャンパスと戸山キャンパスの間あたりにある喫茶店である。
チェーン店にも関わらず、長い間早稲田の学生が多く訪れる場所として根付いてきたことからある種の独特の存在感を持っていた。
特に文学部はキャンパスからも近く、一階に文禄堂(旧あゆみブックス)があることから読書、議論の場として親しまれてきた。
僕自身も「そこに行けば少なくとも誰か一人は知り合いがいる」という安心感から暇つぶし、待ち合わせ、読書会など暇があれば通っていた。
特に僕が代表をしていたサークル、早稲田リンクス(@wasedalinks)はそこそこの規模にもかかわらず部室がなかったため、みんな部室に行くような気分で入り浸っていた。(一番好きなメニューはジュレショコラ)
また、mokaさん(@moka_bunko243)と一緒に主催している積読消化会も主にシャノアールとcafeGOTOにて行っていた。
積読消化会についてはこちら↓
そんな大学生活の思い出の場であり、読書・議論の空間としての「シャノアール」を守りたいと思い、起業して同じ場所で喫茶店をやろうと決意した。
喫茶店を始めるにあたっての問題
喫茶店を始めることを決意した時点で障壁になりそうな点が4つほどあった。
1. 資金
開業資金として少なく見積もっても300万円は必要だった。
また、うまく開業できたとしても駅や大学から近い距離にある物件でテナント料が高いことも予想されるため、最低経営が軌道に乗るまでの最初の3カ月の運転資金が必要だった。
2. オペレーション、商品開発
僕は飲食店での勤務経験がなかった。
シャノアールの後続店として入る以上、比べられるのは避けられないし店員の質や商品の質を維持する必要があった。
3. 物件
そもそも次のテナントが決まっているかを持ち主や管理会社に確認する必要があった。
また、空いているのであれば物件詳細やテナント料などを確認し、次のテナントが決まる前に契約を完了させなければならなかった。
4. ビジネスモデル
わかっていたことだが、これまでのビジネスモデルは計算してみるとテナント料や人件費に対する売上や利益率があまりにも低すぎた。
(支出)
・テナント料100~110万円(平均坪単価 17,633円 *基準階坪数59.11坪)
・人件費100万円(3人常駐*時給1000円*11時間営業*30日)
(収入)
・客単価700円*原価率30%*席数54席*稼働率70%*1日4周*30日
→約220万円
赤字、良くてもプラスマイナスゼロ程度である。
資金について
資金を集める方法は2つあった。
1. クラウドファンディング
閉店のニュースが出た際、それまでシャノアールに通っていた人たちから多くの反響があった。
30年以上もの間早稲田の町とともにあって多くの人が訪れた場所とあって、多く人が閉店を惜しんでいる。
そんな人たちに協力をお願いすれば開業資金くらいは集まるのではないかと考えた。
ただクラウドファンディングで集めるといくつか問題も生じる。
例えば集めた資金に関して会計処理をどうするのかであるとか、リターンのインセンティブ設計をどうするかなど考えなくてはならない。
さらに最も問題だったのはお金を集めるまでの猶予がないことで、クラウドファンディングでは早く見積もっても1ヶ月以上かかってしまうという点だった。
そこでクラウドファンディングは開業した後に検討するとしてもう一つの案を実行することにした。
2. 投資家に投資してもらう
クラウドファンディングができず、自分で用立てる事もできない以上これしか方法はなかった。
普段私はフリーランスとしてベンチャー企業などでコンサルティングや業務委託の仕事(@prospero_mn)をしているため、少し投資家などにも知り合いがいた。
そこで特に大学などの教育にも興味を持っている投資家のかたに投資をお願いしたところ、二つ返事で300万円の投資が決定した。
さらに内装や外観のデザイナーも知り合いに安くでやってもらえるように紹介してもらえることになった。本当にありがたかった。
こうして閉店のニュースの次の日にはひとまずの開業資金を用意することができた。
オペレーションについて
前述の通り、私には飲食店での勤務の経験がない。
コーヒーは好きで(最近サボり気味だが)自分の家で挽いて飲んだりしているが、人に売れるほど美味しいコーヒーを入れられるわけでもない。
また、これまでのシャノアールの雰囲気や居心地を維持するためにはパスタなど商品のメニューも増やさなくてはならない。
できないことはどうしようもないのでこれもいろんな人に協力してもらった。
高田馬場にある学生が運営する10°カフェ(@10docafe)というカフェで店長をやっていた人や大手飲食チェーンのオペレーションをやっていた人に話を聞きに行った。
最初からあれだけ広い場所(54席もある)で経験のない状態からメニューを増やすと導線も混乱するので最初はコーヒーだけなど最低限のオペレーションで始めることにした。
物件について
閉店のお知らせが出てから動き出したため、もうすでに次のテナントが決まっている可能性があった。(そして事実そうだったことが後に判明する)
そのため資金やオペレーションと同時並行で管理会社探しを進めて行った。
1. webで検索
最初にしたのはもちろんweb上の情報を検索することだった。
しかしどこを探しても仲介業者のサイトしかなく、さらに「現在空きの物件はありません」と表示されていた。
管理会社を聞こうとして電話をかけても「だいぶ前に物件の取り扱いをやめていてわからない」との返事が帰ってくるばかりだった。
2. 土地の所有者を調べる
知り合いでよく積読消化会にも参加してくれている植田くん(@reRenaissancist)が協力してくれ、土地の所有者を調べてみることにした。
これによると法務局に行けば不動産の登記簿謄本を確認できるらしかった。
さらに調べてみると登記情報提供サービスというのを使えば、オンライン上で閲覧できる事もわかった。
これらを使えば即日不動産の所有者を調べることができることがわかり、早速取り寄せてみた。
これによるとちょうどシャノアールができた時期に土地の所有権が移動しており、そこに建っている芝田ビルができたのも同じタイミング(1990年2月)だった。
また、登記は土地のみで建物の登記簿は別にあるらしく、それについてもデータベースで調べてみた。
しかし建物の登記情報はデータベース常に存在せず、実はシャノアールの買い取った建物なのでは..?という説が浮上してきた。
シャノアールと芝田ビルの関係
シャノアールは芝田ビルができた当時からずっと存在していた。
さらに1階には同じグループの書店であるあゆみブックスが入っていた。
しかしそのあゆみブックスは2015年に日販の傘下に入ってしまい、あゆみブックスは文禄堂と名前を変えた。
現在1階の文禄堂(日販・リブロ)と2階のシャノアールは直接の関係はなくなっている。
さらに事態をややこしくさせたのは閉店のお知らせが出た直後のニュースである。
独立系投資会社ロングリーチグループ(ロングリーチ)が株式会社シャノアールの株式を買収したのである。
これによって単なる撤退、あるいはブランド変更の可能性が出てきた。
いずれにせよ管理会社が見つからない以上、もはやシャノアールに直接電話するしかなくなってしまった。
シャノアール本社に電話
対応してくれたのは優しい口調のおじさんだった。
先日閉店を発表したシャノアール早稲田店のテナントを借りたいということ、管理会社が見つからなかったため株式会社シャノアールの持ちビルなのではないかと考えているということを伝え、できる範囲で情報を教えて欲しいとお願いした。
すると事情確認のため5分ほど待たされたのち、話せることを話してもらえた。
・芝田ビルは株式会社シャノアールの持ちビルではない
・次のテナントはもう決まっている(と聞いている)
・ロングリーチグループ社による株式買収は今回の閉店とは関係がない
とのことだった。
こうしてシャノアールの場所に新しくカフェを開く夢は絶たれた。
噂では居抜きでルノアールが新しく入るらしいという噂を聞いた。
次もカフェということで少し安心した。
でもどこかモヤモヤとした気持ちも残った。
私はシャノアールの何を守りたかったのか
最初にも書いたが、私は大学生活の思い出の場であり読書・議論の空間としての「シャノアール」が好きだった。
1階で買った本をシャノアールで読み、誰か知り合いがやってくると相席して議論したり少し挨拶だけ行ってそれぞれ好きなことをしたり。
そうした自由で真面目で不真面目な文化交流の空間としての「シャノアール」が大好きだった。
それは次のルノアールになっても維持されるのだろうか。
文化交流の場所を自分たちで作るということ
今回、シャノアールと同じ場所にカフェを開業しようとしていろんな発見があった。
ちゃんとカフェにはお金を落とそうということ、いつ無くなるかわからないから行ける時に言っておこうということ、物件を押さえることの困難さなど反省点も多かった。
一方で閉店のお知らせが出てからすぐにこの無謀なチャレンジに付き合ってくれた人がたくさんいたことなど嬉しい発見もあった。
みんなそれぞれ自分なりの思い出を持っていてなんらかの形で力になりたいと言ってくれる人が多くとても嬉しかった。
協力してくれた人にはこの場を借りて感謝を申し上げたい。
そしてもし、仮にそうした人たちがまた力を貸してくれるなら、もう一度カフェの開業にチャレンジしてみたいと思った。
次こそクラウドファンディングでみんなで作るカフェをやりたい。
確かにシャノアールは私たちの読書・議論の空間としてこれまで存在してくれていたが、それもこんなふうに突然なくなってしまうものだった。
それなら自分たちでその場所を守りたい、と思った。
幸い早稲田・高田馬場には学生が運営する10°カフェという成功事例もある。
実現するにはまた多くの障壁があるが、もし協力してくれる人がいれば嬉しい。
まだ全く何も決まっていないし、もしかしたら途中で頓挫するかもしれない。
それでも理念に共感してくれる人がいればぜひ連絡してくれると嬉しい。