刑事物10分男5人コント

『刑事物10分男5人コント』作 すがの公
■舞台:素舞台。出ハケが上手下手にあるとよい。

新米・小高:新米刑事。江別勤務だったが4月から札幌へ。
浮浪者・丸山:創成川在住。愛別町出身。シャンパン好き
組長・平沢:平沢組組長。分かりやすいヤクザ
先輩・吉本:小高の先輩刑事。平沢に柔術をならった。
女・畑中:柔道部で小高とは幼馴染み。おかまヤクザ。

SE都会の雑踏音
フォンフォンフォンフォン!

浮浪者「今日のすすきのもおだやかだなあ」

ブラックニッカをグビリとのむ

浮浪者「ああ、シャンパンがのみてえ」

チンピラの格好をした新米刑事が走ってくる

新米「くそお!」
浮浪者「おい、ぶつかるぞ」

ぶつかる

二人「わあ」
浮浪者「ぶつかるって言ったのに!」
新米「すいません!江別から出てきたばっかりで」
浮浪者「だからなんだよ!」
新米「その前、月形で!」
浮浪者「だからなによ!!!」

私服の新米刑事、下手に退場する。

浮浪者「俺なんか上川郡愛別、きのこの町生まれだぞ」

スーツの先輩刑事が走ってくる

先輩「くそう!」
浮浪者「あ、ぶつかるぞ」
先輩「私は右へ!」
浮浪者「右!」

ぶつかる

二人「わあ!」
浮浪者「右っつったろ!」
先輩「私の右です」
浮浪者「知るか!」
先輩「怪しい男をみかけませんでしたか? 私こういうものです 」

警察手帳を出す

浮浪者「デカか?」
先輩「お名前は?」
浮浪者「ドンペリって呼ばれてる」
先輩「協力者には金一封をさしあげます」
浮浪者「金一封?!」
先輩「犯人は札幌の郊外出身」
浮浪者「怪しい男ならさっき」
先輩「ちょっとこい」耳をひっぱる
浮浪者「いててててててて!俺はいたずっら子か!」
先輩「仕事ですので(敬礼)」
浮浪者「俺のどこが怪しいってんだ!よくみろ!」
先輩「じっ(見る)」
浮浪者「ガキのころから清廉潔白、ここ(ろは汚れちゃいないぜ)」
先輩「(耳をひっぱる)」
浮浪者「いててててててて!話聞け!」
先輩「怪しいので(敬礼)」
浮浪者「はっきり言うんじゃねえよ!俺のどこが怪しいんだ!」
先輩「(髪をひっぱる)」
浮浪者「自毛自毛自毛自毛自毛自毛!離さんかい!!」
先輩「ぴきーーーん!」

先輩、なぜか突然離す

浮浪者「ぴきん?」
先輩「そ、それは関西弁」
浮浪者「小中高まで通天閣のお膝元!大阪西成あいりん地区におったんじゃ!」
先輩「そ、それで関西弁」
浮浪者「行けや!」
先輩「ぴきーーん!(敬礼)」

なぜか先輩退場する

浮浪者「ぴきんてなんだ? けったいなやっちゃ!」

SEすすきのの雑踏の音

浮浪者「流れ流れて北に来て、結局すすきので落ちぶれて、この歳でホームレスやることになろうとはなぁ。これでも俺だって昔は、、」

走ってくる新米

新米「ああ!もう!」
浮浪者「また来たか!俺は俺の右に、どおおおん!」

浮浪者、ふっとばされる

新米「畜生!畜生!僕の畜生!」
浮浪者「いてててて今日はさんざんだな」
新米「畜生!僕畜生!」
浮浪者「おい!俺に気づけ!」
新米「札幌が碁盤の目だなんて嘘だ!」
浮浪者「ほんとだっ」
新米「じゃあ何故僕はすすきので迷うのか!」
浮浪者「知るか!!大袈裟なんだよ」
新米「南5とか!西5とか!南6とか!西6とか!」
浮浪者「地図買え!」
新米「買ったさ!地図買ったさ!でもお!」(すがりつく)
浮浪者「え?」
新米「南7とか、、南8とか、南9とか、、、中島公園(泣く)」
浮浪者「結構わかってるじゃないか」
新米「気休め言わないでください!」
浮浪者「いや、南10からは中島公園だから、すすきの攻略までもう一息だよ」
新米「ほんとに?」
浮浪者「地図みろ地図」
新米「はい!」

新米、地図をみる

浮浪者「あ」

日本地図の冊子・マップル日本全図

新米「マップル日本全図。えっと、北海道、札幌、札幌詳細図!」
浮浪者「(覗き込みながら)すすきのちっせ」
新米「、、、、ほんとだ! 中島公園!ほんとだ! 」
浮浪者「札幌だけのにしたら?」
新米「すすきの攻略ももうすぐだ!」
浮浪者「ま、いいや。頑張れよ」

浮浪者、行こうとする

新米「僕、4月にすすきの来たばかりで!」(またすがりつく)
浮浪者「うわあ」
新米「もう8月なのに毎日迷って!どうしてもテレビ塔ついちゃって!」
浮浪者「なんかある意味すごいよそれも」
新米「実は、僕もうやめようかって思ってたんです、この仕事。向いてないんじゃないかって。でも少しふっきれた気がします!」
浮浪者「いいから離れろ!」
新米「あ、すみません!」

浮浪者「仕事。なにやってんの」
新米「それはちょっと言えないです」
浮浪者「まー、カタギって感じじゃないよな」
新米「ええと、まぁあの、言えないんです」
浮浪者「言えない仕事か。もうすでにそのうさんくさい格好が怪しいもんなあ」
新米「えーと、はい、すいません」
浮浪者「怪しいなぁ。なにやってんの」
新米「いや、ちょっと」
浮浪者「さっきも走ってたし」
新米「いやいや、それじゃ、僕、急いでるんで」(立ち去ろうとする)
浮浪者「そっちテレビ塔だよ」
新米「畜生僕畜生!!!」(くずれおちる)
浮浪者「へっへっへっへ」
新米「江別の田舎もんに、この街は大きすぎるんだ!」
浮浪者「江別!札幌市郊外」

浮浪者、つかみかかる

新米「うわわ!なんすか!」
浮浪者「怪しい男!札幌市郊外!金一封!」
新米「はあ?!」
浮浪者「お前だったんだな凶悪犯人め!負け組の俺の人生も今日で終わりだ!明日から俺は浮上してやる!一攫千金!勝ち組に仲間入りだ!」
新米「何いってるんですか!」

柔道技、袈裟固めがきまる

浮浪者「おっしゃあ!袈裟固め!刑事さん!刑事さーーん!」
新米「は、離して!袈裟固め!」

先輩刑事、拡声器を持って走ってくる

先輩「どおしましたあああ!?」
浮浪者「刑事さん!こいつがすすきのに逃げこんだ犯(人です)」
先輩「とおう!」

浮浪者殴られ

浮浪者「痛って!」

はがされたあげくに腕ひしぎ十字固めをキメられる

浮浪者「キマってるキマってるキマってるキマってる!」
新米「ブラジリアン柔術!腕ひしぎ十字固め!」
浮浪者「いたたたたたたたたた?!」
先輩「ギブ?」
浮浪者「ギブギブギブギブ!!!」

先輩、スポーツマンらしくパッと離れる

新米「ブラジルデカ!」

音楽『太陽に吠えろのテーマ』

浮浪者「ブラジル?」
先輩「道警本部刑事部組織犯罪対策部一課吉本直喜」(キメポーズ)
新米「先輩はブラジリアン柔術の使い手です」
先輩「ご苦労だったな、黒帯デカ」
浮浪者「黒帯?」
新米「そのニックネームはよしてください」
浮浪者「え?デカ?!」
新米「道警本部刑事部組織犯罪対策部二課小高健であります」
浮浪者「刑事なら刑事って言え!また無駄に痛め付けられた」
先輩「三ヶ月に渡る潜入捜査、ごくろうだったな」
新米「恐縮です(敬礼)」
浮浪者「潜入捜査?」
新米「僕の刑事初任務は、すすきのの暴力団組織の組長、平沢をあげることでした」
先輩「こいつは仲間か(髪の毛)」
浮浪者「自毛自毛!ちがう!いたい!ばかやろう!」
新米「先輩!ちがいます!」
浮浪者「そうだ言ってやれ!」
新米「この人は欲深いのに働く気のないすすきののゴミクズです」
浮浪者「初対面でそんなふうにおもってたのか?!」
先輩「ゴミくず」
浮浪者「ちがうぞ!俺はドンペリ!すすきので自由業を営んでおるものだ」
新米「住所は」
浮浪者「すすきのだ」
二人「ごくろうさまです(敬礼)」

SEすすきの雑踏

先輩「で、黒帯。女には近づいたのか」
新米「、、、はい」
浮浪者「女?」

組長「ほあんほあんほあんほあん」
浮浪者「なんだこの音は」
新米「よくある再現VTRの音です」
浮浪者「あー」
先輩「三ヶ月前、刑事部作戦室」
四人「ほあんほあんほあんほあんほあーん」(くるくるまわる)

新米「本日より配属されました小高健、刑事であります!」
先輩「さっそくだが、スライドを」

組長、スライドに投影された写真としてサッと登場。

組長「カシャ!」
新米「これはスライドを写す音です」
浮浪者「わかるよ」
先輩「これがターゲットである暴力団組長平沢のキメ顔の写真だ」
新米「なんて醜いキメ顔だ」
浮浪者「よくあったなそんなもん」
先輩「そして次の写真が」

組長、服を着替え始める

浮浪者「?」

もたもたしている

浮浪者「誰か手伝ってやれよ」

子供服になる

幹部「かっしゃーーー!」
先輩「平沢が子供だったころのキメ顔だ」
新米「根っからの悪党め」
浮浪者「顔で判断しすぎじゃないか」
先輩「そして次の写真が」

組長、また服を着替え始める

もたもたしている

浮浪者「誰かいないのか誰か」

転んだりする

浮浪者「焦るからほら」
先輩「早くしろ!」
組長「すみません」
浮浪者「鬼か」
幹部「よし。かっしゃーーー!」
先輩「これは******の時の**顔だ」

(******は自前の衣装でできるシチュエーションをお願いします)

新米「まるで化け物だ。けがらわしい」
浮浪者「やっぱ顔だろ?」
先輩「平沢は以上だ」
新米「退場!」
先輩「早く消えろ!」
浮浪者「当たり強くないか君ら」
組長「すみません!」

組長、脱ぎ散らかした服を自分でかたづける

浮浪者「あいつ偉いんだよね?」
先輩&新米「組長」
浮浪者「かわいそうに」

組長せこせこ退場する

先輩「平沢の愛人とおぼしき女からタレコミがありデカイ取引があるらしい。小高刑事、君の役目は組に潜入してその女を保護することだ」
新米「しかし、そんな大役、新米の僕にどうして」
先輩「この写真をみてくれ」

ガウンでグラサンの男、畑中が出てくる

女「かっしゃーー!」
浮浪者「?」
先輩「こいつは幹部の一人だ」
新米「なんかかっこいいですね」
先輩「次の写真も見てくれ」
浮浪者「えーまたー?」

かっこよくグラサンとガウンをとると、
その下に柔道着を着ている。

女「かっしゃーー!」
新米「え」
浮浪者「柔道着着てるぞ」
先輩「小高くん、見覚えはないか」
新米「、、、あ!、、、しんちゃん!」
浮浪者「しりあい?」
先輩「暴力団幹部、畑中慎二郎」
新米「僕の、幼馴染みです」
浮浪者「なるほどお」
新米「小学校からずっと一緒に道場通ってたんです。でも高二のとき、あいつ突然グレて部活やめたんです。主将だったのに」
先輩「柔道部の親友だったお前なら疑われないはずだ。やってくれるか」
新米「、、、やります!」
先輩「そうか!」
新米&先輩「畑中退場」

畑中、退場する
*畑中さん、女装開始。なるべく美しくお願いします

新米「彼は黒帯、僕は白帯でした。でも今、あいつは暴力団員。僕は刑事です!今は僕が黒帯だ」
先輩「その意気だ!」
新米「先輩!」
先輩「黒帯デカの、誕生だ!」
新米「僕が、くろおび!」
先輩「俺はブラジル!ブラジルデカだ!」
新米「よろしくお願いします」
先輩「よしこい!柔道で乾杯だ!」
新米「しゃす!でええい」
先輩「大外刈!」

組長が審判の格好で出てくる

組長「技あり!」
新米&先輩&組長「あはははは」
新米「でええい」
先輩「体落とし!」
組長「技ありいっぽん!」
新米&先輩&組長「あはははは」
新米「でええい」
先輩「車腰!」
組長「にほん!」
新米&先輩&組長「あはははは」
浮浪者「おーい」
全員「ほわんほわんほわんほわんほわーん」(くるくるまわる)

組長退場。場面もどる。

浮浪者「最後なんだったんだ」

SEすすきのの雑踏

先輩「それで、組長の愛人は保護できたのか」
新米「、、、はい、それが、、」
浮浪者「どうした?」
新米「すみません!僕にこの任務はできません!」
先輩「黒帯、、」
浮浪者「柔道で乾杯したのに!」
先輩「三ヶ月も潜入捜査をしたんだぞ!」
新米「だからこそです!」
浮浪者「?」
先輩「それはいったい、どういう意味だ」
新米「僕は刑事失格です」
浮浪者「あ!まさかお前!」
新米「僕は、組長の愛人を愛してしまったんです」
浮浪者「やっぱなぁー!」
先輩「詳しく説明しろ」
新米「僕は畑中の紹介で愛人の身の回りを世話する役を仰せつかりました」

音楽『そして僕は途方にくれる』大沢誉志幸
音楽の中、ゆっくりと美しく通りすぎる愛人(畑中)

新米「彼女は本当に美しかった。僕は一瞬で恋に落ち、そして僕は、途方にくれたんです」
浮浪者&先輩「あー」

SEすすきのの雑踏

浮浪者「どこまでいったんだ」
先輩「AかBかCか」
新米「なにいってんですか」
浮浪者「Dか!」
二人「うええ!!赤ちゃーん?!」
新米「盛り上がり方が幼い!」
二人「すまん」
新米「なにもしてません!」
先輩「なんだ」
浮浪者「なにもやってないのか」
新米「してません。でも僕は恋をした」
先輩「そんなの恋とは言わないぜ」
浮浪者「さっすが先輩良いこと言う」
先輩「恋に恋しちゃだめだぜ」
浮浪者「さっすが先輩良いこと言う」
新米「陳腐な会話で僕の恋をケガさないでください」
先輩「だってなんもやってねんだろ?」
浮浪者「なんかしろよおまえ小学生か」
先輩「こくった?」
浮浪者「こくった?」
新米「いちいち中学生みたいのやめてください」
先輩「告ってもねえわ触ってもねえわったらおまえそれ片想いだろが!」
浮浪者「先輩は恋愛話に本気だ」
新米「僕は刑事であることを偽っているんです!言えるわけないじゃないですか!」
先輩「土下座だよ!最後は土下座だよ!お願いし続ければどうにかいけるもんだよ!プライドすてなよ!問題はその後だよ!まず自分をクソ虫だと思いなよ!そしたら女なんてイチコロだよ!」
新米「せんぱい」
浮浪者「なんの話しですか」
先輩「って、、俺の友達が言ってたよ」
浮浪者「ぜったい自分の話だぞ」
新米「はい」
先輩「いや、ともだちだよ」
浮浪者「なんの話だよクソ虫」
先輩「ともだちだよ」
新米「クソ虫」
先輩「クソ虫っていうなよ」

SE着信音楽『ももクロ』

浮浪者「なんだ?」
先輩「もも色クローバーぁ♪」
先輩&浮浪者「ぜぇえと」
新米「もしもし」
先輩&浮浪者「着信か」
新米「(すいません)はい?はいはい」
浮浪者「なんでももクロ着信にしたんだよ」
先輩「あれだよ」
浮浪者「なんだよ」
先輩「元気もらいたい」
浮浪者「はぁ?」
先輩「ももクロをなめんな」
浮浪者「わ。すいません」
新米「あ、いまどこでやんすか?じぶん、迷ってるでやんす」
浮浪者「やんすか?」
新米「あ、そうでやんすか」
浮浪者「やんすか?」
先輩「『組の下っぱキャラ』の演技『道警極秘マニュアル1ページ』」
浮浪者「ほんとに?1ページ目からそれ?」
先輩「はい」
浮浪者「大丈夫か道警」
新米「では、失礼しやんす」
先輩「ホシか?」
新米「女の方でやんす」
浮浪者「ひゅうひゅうでやんす」
先輩「何て言ってるでやんすか」
新米「彼女、テレビ塔で待ってるって」
浮浪者「え?!」
先輩「どういうことだ」

音楽・中島みゆき『ホームにて』とか

新米「、、、彼女が言うんです。組を抜けて、僕と一緒に逃げるって」
浮浪者「おいおいおいおい!」
新米「あなたはテレビ塔の場所しかわからないから、そこで落ち合って、さっぽろ駅まで手つないで走って、夜行列車に一緒に乗って、東北のどこか、誰も知らないような町で、小さなお店でもやろうって」
浮浪者「いい話じゃんか!逃げるしかねえ!こういうチャンスを逃しちゃだめだ!」

先輩、新米のもつバッグを取る。
音楽が消える

先輩「黒帯、そのバックのなかをみせてみろ」
新米「、、、、、これは」
先輩「みせろ!」

と、強引にバックを開けると大量の札束

浮浪者「すっげ!いくらあるんだよこれ!」
先輩「二千いや、三千か」
浮浪者「さ、さんぜん、、えん?」
二人「まん!」
浮浪者「やっべ鼻血でちゃうやっべ」
先輩「黒帯!」
新米「僕、買い物につきあってて。彼女がこのカバン持ってくれって言うんです。いつもそんなこといわないのに変だなって思って、トイレ行ったすきにカバンあけてみたらこれで、俺驚いて、どうしていいかわかんなくなって、それで、逃げたんです。そしたら、、、」
浮浪者「道に迷ったってわけだ」
新米「、、はい」
先輩「本当か?」
新米「え」
先輩「お前本当に道に迷ったのか?お前、この汚ねえ金でヤクザの女と逃げる気だったんじゃないのか?これは潜入捜査だ!情にほだされて目的を見失うな巴投げ!」

柔道技・巴投げが出る

浮浪者「巴投げ!うおい!今柔道よせブラジルデカ!」
先輩「お前の役目は女を保護することであってヤクザの汚れた女とデキて人生を棒にふることじゃねえ!」
新米「先輩!」
先輩「目をさませ!大車輪!」

とつかみかかる先輩

浮浪者「ふぬ!!」

浮浪者、突然の柔道技・蟹ばさみ

新米「え?!」
浮浪者「蟹ばさみ」
先輩「うあ!」

先輩倒される

新米「か、蟹ばさみ!」

音楽『太陽に吠えろのテーマ』

新米「大丈夫ですか先輩!」
先輩「蟹ばさみは禁止技だぞ!」
浮浪者「ルールもくそもあるか!金に汚ねえもヘチマもあるか!人が惚れた女のことをとやかくいうもんじゃねえ!こいつの目を見ろ!これは本気の目だ!ほれちまったんだ!それがわからねえならもうデカなんざやめちまいな!」
新米「ドンペリさん!」
浮浪者「この金持って行くしかねえよテレビ塔!一生かけて惚れられる女にはそう逢えねえ。それは間違いねえ!俺は、ここぞってときに躊躇して守りに入って人生棒に振ったバカな男を知ってるぜ」
先輩「すすきの勤務じゃ伝説のデカだ」
新米「え?」
先輩「潜入捜査でヤクザの幹部の女を愛してしまった刑事がいたんだ」
新米「ぼくと、おんなじだ」
先輩「ヤクザの愛人を守り切れずに任務を終えた。結局自分を責め、デカを辞め、すすきのに消えた」
新米「え」
浮浪者「ヤクザを裏切った女が、この界隈でただで生きていけると思うか?愛した女も守れずにデカとしてやってけると思うか。そいつは結局、自分を許せずに女も職も、何もかも失ったんだ」
先輩「シャンパンデカ」
新米「シャンパン?」
先輩「給料日にはホステスはべらせてドンペリ入れてドンちゃんやるような、ちょっと危ないデカだったそうだ」
新米「ドンペリって、まさか」
浮浪者「お前の話をしてるんだ腕ひしぎ三角固め!」

浮浪者の腕ひしぎ三角固めが決まる

新米「ああ!うう!」
先輩「ちなみにシャンパンデカは全国警察官柔道大会での有力候補だったが、毎年蟹ばさみで失格になるような、ちょっと危ないデカだったそうだ」
浮浪者「耳の穴かっぽじってよく聞けきやがれ!裏切った愛人をすすきののどん底まで落とした幹部がだれだったか教えてやる!」
新米「え?」

技を解き、えりくびをつかみ

浮浪者「平沢だ!」
新米「、、平沢組長」
浮浪者「昔からあいつは、最悪の男だ。 見た目も中身もな 」
新米「、、、」

音楽が消える
新米、しっかりと立つ

新米「僕、いや、俺!テレビ塔行きます!」

新米、二人に礼をする。

新米「お世話になりました!」

新米、退場しかける

組長「ちょいまちー」

組長・平沢登場

新米「おまえは」
浮浪者&先輩「平沢!」
組長「金も女もわしのもんや」
浮浪者「くそ!袖車絞め(そでぐるまじめ)」

組長、はがいじめにされる

浮浪者「行け黒帯!行け!」
新米「でも!」
組長「昔はようこうしてじゃれたもんやのう、シャンパン」
浮浪者「彼女、テレビ塔で待ってるんだろう!」
組長「おいよっしー」
先輩「なぜ私の名前を」
組長「撃ったれ、よっしー」
浮浪者「そ、それは、関西弁」

銃を抜く、先輩

新米「先輩?」
浮浪者「なにしてるブラジルデカ」
組長「撃ったらんかい!泣き虫よっしー!」
先輩「ぴきーーん!」

新米を撃つ

SEばきゅーーん!

倒れる新米

浮浪者「黒帯!」
先輩「ああ!しまった!」
組長「 Obrigado(オブリガード)おおきにサンキュウべりまっちや」

浮浪者、新米に駆け寄る

浮浪者「おい!」
新米「ううう」
浮浪者「何で言うこと聞いてんだよ!」
先輩「俺は、つい、関西弁で命令されるとピキンと来てしまって、人の言うことを素直に聞いてしまう!所詮そういう奴なんだ」
浮浪者「どういうやつだそれ!」
新米「うううう」

先輩、新米に駆け寄る

先輩「黒帯!どこをやられた!」
浮浪者&新米「お前がやったんだ!」
組長「はっはっは相変わらずやんか、泣き虫よっしー」
先輩「そ、その呼び方は」
組長「Como tem passado?(コモ・テン・パサード)最近どーやねん」
浮浪者「何語だ?」
先輩「ポルトガル語!」
組長「ひっさしぶりやのう、よっしー」
先輩「中学の時、いじめられてた俺にブラジリアン柔術を教えてくれた関西からの背の高いイケメン転校生」
組長「ヒクソン・ビッグ・平沢や」
浮浪者「ビッグじゃないぞ」
組長「成長とまったんや」
新米「ヒクソンって?」
組長「おかんが日系ブラジル人なんや」
浮浪者「どこがイケメンなんだ」
組長「中学まではもてたんや。高校からはパッタリや」
先輩「それでヤクザになったんか」
組長「そうなんや」
3人「(敬礼)ごくろうさまです」
組長「じゃかあしいぼけ!いてまうぞタコ!」
浮浪者「こっちの台詞じゃい!」

浮浪者、先輩の銃を奪い、構える

先輩「ドンペリ!」
浮浪者「ここでおうたが百年目ぇ!」
新米「ドンペリさん!」
浮浪者「わいがすすきののホームレスんなったのは!平沢!貴様をこうしてぶっころすためじゃ!」
新米「やめてください!それじゃドンペリさんが犯罪者になってしまいます!」
組長「そう、うまくいくかな、シャンパンデカ」
先輩「平沢、何をたくらんでる!」
組長「よっしー!わいを守らんんかい!」
先輩「ぴきーん!はい!」

先輩、平沢を抱き締めるようにまもる

新米「まもったー!」
先輩「しまったあー!」
組長「オブリガードおおきにありがとう。これで手も足も、、」
浮浪者「なにやっととんねんタコすけ!わりゃこっちの味方やろがい!」
先輩「ぴきーん!」
浮浪者「ちゃっちゃと離れんかい!」
先輩「はい!」

先輩、離れ、構える

新米「かまえたー!」
浮浪者「平沢死ね!」
先輩「しまった!」
組長「守らんかい!」
先輩「ぴきーん!」
浮浪者「くそ!離れんかい!」
先輩「ぴきーん!」
組長「守らんかい!」
先輩「ぴきーん!」
浮浪者「離れんかい!」
組長「守れや!」
浮浪者「離れれや!」
組長「守れ!」
浮浪者「離れ!」
新米「ああ、きりがない」
先輩「ぴき、ぴき、ぴき?」
組長&浮浪者「もうええわ!」
先輩「ぴきーん。ぴし」

先輩、壊れて固まる

新米「ああ。大阪のくいだおれ人形みたくなって止まってしまった!」
組長「どういうこっちゃねん」
浮浪者「平沢、積年の恨み、晴らしたらあ! 」
組長「シャンパン、きさま」
浮浪者「往生しいや!」
女「やめてください!」
新米「こ、この声は!」

女、駆け込んでくる

女「やめてあげてください!」
新米「あ、あねさん」
組長「おまえ、もどってきたんか」
女「シャンパンさん、話は聞いてます。お願いです。どうかこの人を許してやってください。」
浮浪者「あんた」
女「この人、見た目はぐっちゃぐちゃですけど、中身は、そこそこなんです」
組長「たいしたフォローになってへんがな」
女「あんた!ごめん!あたし戻るから!」
浮浪者「このまま平気で戻れると思ってんのか。前の女は人生をぼろくそにされて捨てられたんだぞ」
女「ヒクちゃん、教えてあげたら?」
組長「そ、それは、だなあ」
女「刑事さん、この人はそんなことできるタマじゃありません」
浮浪者「なに?」
女「ヤクザは面子が全てです。なめられないためにそんなデマ流させたんでしょうけど」
新米「デマ?」
女「その方、きれいさっぱり足洗って、今は田舎で別の男と結婚して子供も産んで幸せにくらしてます」
浮浪者「なんだと」
女「傷ひとつ噂ひとつ残らないようにこの人、最後まで全部面倒みたんですよ」

浮浪者、銃口をさげる

浮浪者「平沢」
組長「なんや!」
浮浪者「顔に似合わず」
組長「顔関係ないやろ!」

新米、よろよろと肩をおさえて立ち上がる

新米「あねさん」
女「刑事だったのね」
新米「すみませんでやんす!」
女「これでおあい子よ、タケっち」
新米「え?」
浮浪者「たけっち?」
先輩「黒帯の潜入時のあだ名です」
浮浪者「生きとったんか」
女「そして、(男声)高校時代のあだ名だべ、タケっち」
新米「この声は、、」

女、カツラをとると、畑中になる

女「ひさしぶりだべ」
新米「、、あねさん、、?」
先輩「畑中!」
浮浪者「なんと!」
新米「うそだ。うそだって言ってけれ!」
女「うそでねえ。江別高校柔道部主将、畑中慎二郎ずら!」
先輩「ずら?」
浮浪者「江別ってなまってるっけ」
先輩「うーん」
女「いくら札幌郊外っつったって、江別は江別だべ」
二人「ほんと?」
女「たけっち、だまくらかしてて、わるかったずら」
新米「あねさん、あねさんの言ってくれたこと、うそだったでやんすか!」
先輩「落ち着け!あいつは畑中だ!おまえは騙されてたんだ」
浮浪者「そうだ!おまえの目は完全に節穴だったんだ」
組長「外野はだまっとれい」
先輩「でもな」
組長「じゃかしい!」
先輩「ぴきーん!口チャック!」
浮浪者「ああ!」

組長「タケ、刑事やったんやなー。だまされたわ。ここはひとつ、男と男の勝負といこやないか」
女「ヒクちゃん!」
組長「女はだまっとき!」
新米「勝負」
組長「わてらも面子が全てや。あんたもこのままやとひっこみがつかんやろ。ここはひとつ、わしと柔道で勝負や」
新米「え」
組長「よっしー、ええやろ?」
先輩「ぴきん!いいですねそれグッドアイデア」
浮浪者「あ、ずるいぞ!」
組長「わしのヒクソンは、 ブラジリアン柔術・グレイシー柔術の創始者エリオ・グレイシーの三男ヒクソン・グレイシーからとったもんや。こいや」
浮浪者「やめとけ!強いぞ!」
新米「う、うわあああああ」
組長「そりゃあああ」

闘う。わりとあっさり負ける組長平沢

4人「あれ?」
組長「そりゃあああ」

闘う。あっさり負ける平沢

組長「そりゃあああ」

闘う。あっさり負ける平沢

組長「ふん。所詮、中学レベルやな!」
浮浪者「自分で言った!」
組長「もっかい!もっかいじゃあ!」
先輩「みっともない」
女「もういいよヒクちゃん!」
組長「うえーん」
浮浪者「泣いた」
組長「いかんでくれよーいかんでくれよー。わし、おまえおらんくなったら、いったいだれに甘えたらええねーん。幹部の中でもわしの話聞いてくれんの、おまえだけやんかー」

平沢、畑中にすがりつく

女「すいません。すいません、おやじさん」
組長「うえーん」
女「刑事さんすいません。今日のところはこれで勘弁してください。帰ろう。帰りましょう、おやじさん」
浮浪者「なんか、気ぬけたな」
先輩「うん」
新米「まて!

新米「一個だけ聞かせれ!なして、なしておめえ突然柔道やめたずらか!」
女「それ、俺に言わすな、たけっち」
新米「あの年おれたち全国狙えたでねか!」
女「わるかったって!」
新米「勝負だ!柔道で!一本!一本だけ!でえい」

新米、かかってくが、

女「くそ!でいやあ!」

柔道技・つばめ返しが決まる

先輩「、、つばめ返し!」

浮浪者「、、、一本」

音楽がかかる。
『そして僕は途方に暮れる』大沢誉志幸

畑中、カツラをかぶり直し、女になる

女「あたしには、この格好が本当の姿なの。それに気づいたのが高二の夏。そしてあたしはつらくなって柔道をやめ、タケっちから離れたの」
新米「え、、それって」
女「ごめんヒクちゃん(笑)!!あたし、ちょっとだけ夢見たかったの。どっか田舎で子供産んで幸せに暮らすなんて、ぜったい叶わないような夢」
組長「、、そうか」
女「怒ってる?」
組長「いや、ただ」
女「ただ?」
組長「おまえ、やっぱ男やったんやなぁ」
全員「え?」
組長「ちょっとびっくり」
先輩「おまえ、しらなかったのか」
浮浪者「おまえら何年つきあってる?」
組長「ま、忘れるくらいや」

平沢、歩き出す

女「ヒクちゃん」
組長「なにしとんねん、さっさと腕くまんかい!帰ったら、きっつーいお仕置きやで!」
女「ヒクちゃん!」

二人、幸せそうに帰る

浮浪者「どないなってんねん。あ」

浮浪者、二人の忘れ物を見つける

先輩「でもまぁ、幸せそうで」
浮浪者「ま、いいか」
先輩「おまえの恋もおわったな」
新米「はあ」
浮浪者「傷大丈夫か?」
新米「貫通したみたいです」
先輩「そうだった。すまん。ごめん」
浮浪者「始末書どう書くんだよ」
新米「一発撃っちゃって」
先輩「どうしようー」
新米「どうしよっかなぁ、刑事」
浮浪者「なに言ってんだ、続けろ。続くうちは続けるんだよ。いいな」
新米「続くうちは、続けるかー」
先輩「いいこといいますね。シャンパンデカ」
浮浪者「俺は別の道だ。もう会うことはないだろう」

浮浪者、金のつまったバックを手にする

浮浪者「じゃあな。黒帯デカ、俺はこれから南7を西に出て鴨かも川沿いの高級キャバクラに行く」
新米「え?」
浮浪者「ブラジルデカ」
先輩「はい?」
浮浪者「ついてきたらあかんで」
先輩「ぴきーん!ついていきません」

再び、くいだおれ人形になる、先輩

新米「ああ!」
浮浪者「ドンペリ飲み放題!ひゃあほう!」

浮浪者、走り去る

新米「金!」
先輩「しまったあああ!!」
新米「いきましょう!」
先輩「俺むり!おまえ行け!」
新米「ええ!ちょっと待ってください!(日本全図出す)」
先輩「でけえよ地図!」
新米「南7?7、7です」
先輩「おまえ向いてねえよデカ!」

音楽あがる

<おわり>
2015年8月13日
北笑さんに提供したコント台本。

たくさん台本を書いてきましたが、そろそろ色々と人生のあれこれに、それこれされていくのを感じています。サポートいただけると作家としての延命措置となる可能性もございます。 ご奇特な方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いいたします。