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「歌が好きな彼女に聞こえてくるものは……」ラブライブ!スーパースター!! 第1話より

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彼女は学校の門の前で岐路に立っていた。

好きなことを「終える」のか、それともまた「始める」のか。


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似たように桜が舞い散るなか、門に立つ彼女たちが居た。

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その彼女たちは、「まだ終わることを選択しなかった」

 と言っても、そこに突然スマホが鳴ったからかもしれないし、リーダーの手を引く後輩が居たからかもしれない。そして「みんな」の声があったからかもしれない。


 彼女は彼女たちとは違う。なぜならまだ何もないから、何も始まっていないから。だから引き止めるような要因が何も起こらないし、誰もいない。なんなら引き止めてくれた唯一の声を、さっきヘッドフォンで遮断したばかりだ。



 ではなぜ彼女は門の前で立ち止まっているのか。一体何が彼女の足を止めているのか。それは他でもなく「彼女」である。「彼女自身」なのである。

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「本当にこのままでいいの?」(※1)


 





 春。今年からの新設校の制服を身に纏う生徒たちは、人通りの多いにぎやかな街で心を躍らせていた。

 そんななか、自ら裏道を選んで学校へ向かう彼女が居た。なるべく人目につかないように、なるべく誰にも気づかれないように。

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 しまった。見られてしまった。同じ学校の違う制服の子たちだ。その子たちがやたら眩しく見えるのは、おそらく白い制服が朝日に反射しているだけではないらしい。



 嫌なことをまた思い出してしまった。そんな「暗い悩みもすさんだ気持ちも全部力に変えて前向きになれる」(※2)にはこの方法がある。

ほんのちょっぴり 悲しいときなら
背筋伸ばして 声を飛ばせば
いつでもそばで 光をくれた歌
手をつなごう (※3)


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彼女は裏道から大通りへと歩き出した。

そしてそんな彼女の歌は、また別の誰かの手をつなぎ始めていた。



 こんなスバラシイ声ノヒト……!彼女は追いかけて問いかけた。

「歌が好きなんでしょ」
「嫌いじゃないけど」
(中略)
「歌いたくないのですか」
「歌いたくないというか、歌えない?」
(中略)
「歌が、好きなのに?」
「好きなのに、ね。」(※4)


 そんな歌えない澁谷かのんは、追いかけてきた唐可可の力になりたいと言った。それは互いの好きなものを尊重できるほど理解し合ったとき、その人の好きなものを応援したり、協力したりしたくなるからであろう。
澁谷かのんにとっての「歌」のように、唐可可にとっての「スクールアイドル」のように。
 おそらく学校からかのんの家に向かうまでの時間は、唐可可の好きな「スクールアイドル」の話と、好きなスクールアイドルの「歌」の話をしていたのかもしれない。さらに仮説を立てるのなら、歌が好きな澁谷かのんは同じく好きなものを持つ唐可可の力になることで、自分の好きなものを終わらせないようにしようとしたのかもしれない。

 それは、スクールアイドルが好きな唐可可も同じであった。

「かのんさんは歌が好きです。歌が好きな人を心から応援してくれます。
可可はそんな人とスクールアイドルをしたい。」
(中略)
「応援します。かのんさんが歌えるようになるまで諦めないって約束します。」(※5)

 唐可可が何故スクールアイドルを好きになったのかはまだ分からない。だが、スクールアイドルを好きになったきっかけはスクールアイドルの「歌」ではないかと思う。歌っている人を好きになるには、その人の歌に惹かれるはずである。

 そんな歌が好きな人を心から応援してくれる人だから、一緒に歌いたい。
そんな歌が好きな人を心から応援してくれる人だから、私も応援したい。歌えるまで諦めたくない。終わらせたくない。






 彼女は彼女の声を遮断した。もういい聞きたくない。ヘッドホンをあてる。

好きだけど、もう誰かをがっかりさせたくないから。


好きだけど、自分にがっかりしたくないから。


好きだけど、才能が無いから。


 いくら周りの音を遮ったって聞こえてくるのは「自分」の声。こればかりはどうしたって聞こえてしまう。応援してくれる子から背を向けたって、その子からどんどん離れていったって、聞こえてくる。聞こえてしまう。問いかけてしまう。






本当にこのままでいいの?







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 追いついた彼女は、かつて追いかけていた彼女に向かって叫んだ。


「やっぱり私、歌が好きだ!」(※6)







気になったところちらほら

 スパっと終わった方がいいのは分かってますが、気になったところが色々とあるので、ちょっと駄弁ります。

あの日かのんが歌えなかった歌

 緊張して歌えなくなってしまうかのんちゃん、たまたまなのか、自分がそう聞こえたからなのか、それともかのんちゃんのトラウマのようなもので、そう聞こえるのかは定かではありませんが、小学生のコンクール?に歌えなかった歌と、中学生の結ヶ丘への試験の時に歌えなかった歌が同じメロディのようでした。小学生のコンクールでは周りのみんなが歌っていたのでかのんちゃんが歌えなかった歌詞も少し分かりました。

高い高い あの空は どんな風が……(※6)

 おそらくこの後の歌詞は風なのでやはり「吹く」が続くのではないかと思います。この歌詞を緊張して歌えなかったかのんちゃんは、空の高さも、どんな風が吹くのかも、まだ分かっていないのかもしれません。ただ1話終盤のモノローグで「歌っていれば遠い空をどこまでも飛んでいける」と話していたので、やっぱり歌うことで、それを知ることが出来るのではないかと思われますね。
 その空と風は、お昼の屋上で歌った時のような青空と、そっと髪をなでるような優しい風なのか。
 高層ビルの屋上で歌った時の流れ星も見える夜空で、都会の喧騒と溶け込むようなひんやりとした風なのか。
 一日の始まりを告げる紫がかった曙の空で、存在証明である旗が大きくなびくような雄風なのか。
 かのんちゃんがそんな歌を歌う日が楽しみですね。


好きなものがある「私」にハレルヤを

 かのんちゃんが「歌が好きだ」と叫ぶと同時に流れる「未来予報ハレルヤ!」すごく良かったですね。劇中の演出も良くて、この曲を歌っているときの背景には、Liella!のグループ名の最終候補にまで選ばれていた候補名が、背景のお店の名前として映っていました。それが選ばれなかった人たちへのメッセージに感じてすごく感動しました。
 私もグループ名募集に参加した一人でした(えぇ、全く届かずでしたが)最終候補にまで選ばれたのに届かなかった人たちは相当悔しかったと思います。
 そんな人たちに「Liella!」の皆は「泣いたっていい」「躓きも羽にして跳べる」と歌います。

 グループ候補名だけではなく、今回のLiella!のキャストも一般オーディションで選ばれました。オーディションを受けて選ばれなかった人たちは悔しくて、放送を観たくないって人もいないとは言い切れません。大好きなものに選ばれなかったことが悔しくて悔しくて、大嫌いになった人も、もしかしたら居るのかもしれません。 

 それはLiella!の、少なくとも澁谷かのんはその人たちと同じ境遇ではあります。彼女も夢であった私立結ヶ丘女子高等学校の音楽科に入ることが「叶わなかった」人間です。そんな叶わなかった人間が、もう一度跳ぼうとする話が、ラブライブ!スーパースター!!の第一話でした。そして第一話であるこの軸を通して、自分の好きなものに、好きなものがある自分にハレルヤ!と褒め称えられるようなお話がこれからも続いていって欲しいなと思いました。

 「やっぱり好きだ」と、どんなに月日が経ってからでも思えて、また「始まる」方がたくさん現れますように。




※1~※6全て
ラブライブ!スーパースター!! 第一話「まだ名もないキモチ」より
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ラブライブ! 2期13話 「叶え!みんなの夢――」より
ラブライブ!スーパースター!! 第一話「まだ名もないキモチ」より

 

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