論告・弁論別期日作戦について

とある地裁のとある支部で否認の刑事弁護を抱えており、論告弁論期日を定める際に、当職から論告と弁論を別期日にしてほしいと申し出たが、検察官が明示的に反対の意見を表明し、裁判官もかなり乗り気でなかったのだが、当職が頑なに論告・弁論別期日を主張して別期日を設定することに成功した。
今回は論告・弁論別期日作戦の実行に対して割と反対があったことから、現時点での考えを整理するものである。

まず論告・弁論とは何か。刑事裁判は、検察官が被告人が犯罪をしたという証拠を出す、弁護士が何かしら証拠を出す、検察官と弁護人が事件の総まとめを行う、判決を宣告する、という流れを経る。検察官の総まとめ(被告人は犯罪をしたのだ、これくらいの刑罰が妥当なのだという意見)を論告といい、弁護側の総まとめ(例えば無罪だとかあまり重たい刑罰は適切でないとかという意見)を弁論という。
この論告弁論は同じに日に行われるというのが大多数であるが、これを別期日でやろうというのが論告・弁論別期日作戦である。

論告・弁論別期日作戦のメリットは何か。
当職が理解している範囲のメリットは、検察官の論告に対して具体的な反論ができるということである。論告と弁論が同じ期日だと、弁護側は、「検察官はこういう論告をしてくるだろう」という予想を立てた上で、弁論に反論を盛り込むことになる。例えば「検察官は〜と主張すると考えられるが、**であるから理由はない。」とかである。それでも構わないが、実際の問題として、(1)検察官が主張していない事柄についてわざわざ反論を書くのは弁論の無駄であるところ、論告と弁論を別期日にすれば検察官がしていない主張に対する反論を盛り込む必要がない(2)検察官の主張が解った上で反論書面を書いた方がより具体的で的を射た弁論がかけるというこの二点がメリットなのではないだろうか。
もしかしたら他にもメリットがあるかもしれないが、とりあえず当職が理解しているメリットは上記(1)(2)である。そしてこのメリットに鑑みれば、別に論告・弁論別同一期日でも致命的なことはないが、別期日の方がより効果的な反論をすることができる、この点に尽きるといえばそうだし、その程度といえばその程度なのかもしれない。

今回の検察官はどういう理由で明示的に反対し、裁判所も乗り気でなかったか。
この点、検察官の主張は概ね(1)論告と弁論は同一期日にするのが原則である(2)検察官は弁論に対して個別的に再論告などの形で反論をしていない、この二点に整理できると考えられ、裁判所は(2)は全然重視していないが(1)にはガッツリ寄りかかっていたように思われる。

これに対する当職の反対意見は(1)の主張に対して(a)論告・弁論の時期について証拠調べ後できるだけ速やかという規定はある(刑事訴訟規則211条の2)が、論告と弁論を同一期日にすべきとの規定はない(b)運用上論告と弁論を同一期日にすることが多いだろうが、日本の刑事裁判の大部分は認め事件であり本件のような否認で、かつ、記録膨大な事件では例外的に別期日にするという運用がおかしいとはいえない、(2)の主張に対して、(a)検察官は立証責任を負っているのだから弁護人からどんな主張が出ても有罪にできると確信して訴訟追行しているはずだから再論告がなくてもおかしくない(b)弁論に反論したいならしたらいい、と述べた。
さらに当職側の積極的主張として(ア)当職は認め事件でも検察官の論告に対して即興で弁論をすることがそれなりにあり、その度に「量が多いから追加書面を出してほしい」と裁判官に言われることがあるところ、どうせ後から書面を出すなら最初から論告・弁論別期日にした方が効率的だ(イ)弁護人が「論告と同一期日に弁論をしない」と言い張った場合、弁論権の放棄と見做しうる場合を除いて裁判所は弁護人の希望に応じるしかないだろう、という二点である。

上記弁護人の主張について後学のため整理する。
まず論告と弁論を同一期日にするべきというルールはないという点。これは、当職が知らないだけで本当はあるのかもしれないが、裁判所や検察官からも反論がなかったので、本当にそうだと思う。それゆえ、乗り越えるべき規定は刑事訴訟規則211条の2だけであるが、証拠調べ期日と別期日で論告・弁論を行うことは特に否認事件ではよくあることだから、合理的理由を述べることができればそれで良いはずである。
そして一番大切なのは(イ)の弁論権放棄である。例えば論告から半年もらわないと弁論できないなどといえば裁判所からするともう待てないという判断になってもおかしくないが、論告から1日2日あれば弁論すると言っている弁護人に対して、「論告と同じ期日に弁論しないなら弁論権を放棄したとみなす」と判断して判決に至ることがあれば、さすがに訴訟手続の法令違反になるのでないだろうか。
こう考えると、(P)弁護人が論告と弁論を別期日にするよう主張しており、かつ、(Q)論告と弁論の間の期間が反論準備のため必要最低限である限りにおいて、裁判所は、弁論をすっ飛ばして判決をするわけにはいかないのであるから、弁護人の希望に応じるしかないのではないか?

ということで、このような検討から、弁護人が論告・弁論を別期日にしてくれと言った場合、裁判所としては、あまりに長期間の空白があくとか単純認め事案であるとかいった事情がない限り論告と弁論を別期日にするしかないのではないだろうか。

もちろん論告・弁論を別期日にしたことで被告人・弁護人側に有利な判決が得られるとは限らない。例えば、溝田泰之裁判官は、弁護人が論告と別期日の弁論で論告が破綻していることを指摘したにもかかわらず、例えば検察官が争ってもいない被告人のタイムカードの正確性を疑って被告人を無理矢理有罪にした。この判決は名古屋高裁で一瞬にして破棄された。
つまり、いかに論告・弁論を別期日にしたとしても、溝田泰之のように何がなんでも無罪を書かない、どれだけ滅茶苦茶な理由でも被告人を有罪にすればそれでいいとでも言わんばかりの破綻した理屈で有罪判決を書く裁判官を前にしては、弁護人や被告人の努力は抹消されてしまう。もちろん、溝田泰之の判決は名古屋高裁に破棄されたので全くの無駄ではないが。
弁護人としては、少しでも依頼者の有利になるよう今できることをするしかないのだが、論告・弁論別期日もその一つであろう。

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