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ガラタ塔で出会ったオランダ人家族の話

ガラタ塔はトルコ共和国イスタンブールの旧市街、カラキョイに聳える塔で、夜になるとライトアップされ、イスタンブールの煌びやかな夜景を一望できるために、人気の観光地となっている。

トルコ滞在の7日目に、ガラタ塔に出かけた。
夕闇が迫る頃、カラキョイの街でチャイを飲んでから、坂を上ってガラタ塔へ達した。

ガラタ塔はコンスタンティノープルの陥落(東ローマ帝国の滅亡)の頃から存在する塔で、古く堅牢な石造りである。
それほど高い塔ではなく、大体8階〜10階建のビル相当といったところ。

人気の観光地らしく、ガラタ塔の入り口から長い行列ができていて、入り口まで大体2時間はたっぷり待たされてしまった。
暇になってくるもんだから、連れ合いが列を抜けてビールを買いに行き、僕はそのまま並んでいた。

僕らの順番の前は、外国人(トルコにいるんだから、僕からすれば皆外国人だが。)の家族だった。
白髪混じりの短髪に人懐っこそうな目がきょろきょろしている父親と少し太めの赤髪の母親、思春期でちょっと背伸びをし始めたような雰囲気のお姉ちゃんと、まだ甘ったれた感じのある弟という取り合わせだった。

連れ合いがビールを買いに行き、なかなか戻ってこないので、その家族を見るでもなく見ていた。
お父さんが大きめのデジタル一眼を構えて、なんとか塔と愛する家族をファインダーにおさめようと四苦八苦しているのだが、行列は塔の根元をぐるりと回っているため、塔が近すぎて、家族の背景はただのレンガの壁にしか見えない。それがお父さんは不満のようで、あらん限り手を伸ばして下から撮ろうとしたり、行列から離れたりしている。

見るに見かねて(愉快だったので絡みたくなったのも本音)、「よかったら撮るよ」と声をかけてみた。
最初、お父さんはいいよ、と遠慮していたが、お母さんが「いいじゃない、撮ってもらおうよ。お願いします、ありがとう。」と言ったので、お父さんもにこにこして僕にCannonのカメラを渡してきた。

僕は、家族四人が入るように、地べたに寝そべるようにして、カメラを上に向けて撮った。
1、2、スリー!と声をかけると四人が家族である証明にもなるであろう、よく似た笑顔を見せてくれた。

そのあと、連れ合いも戻ってきて、その家族とお互いのことを話した。

家族はオランダから来て、夏休みの二週間を使って、大型客船で地中海をクルーズ旅行中だと言う。
なんとも贅沢な話だなと日本に帰って来て思うけれど、その時はヨーロッパの人はそういうのが当たり前なのかなと思っていた。

夫妻は、新婚以来でイスタンブールに来ているらしく、お互いのあれこれを語り合った。
ガラタ塔の行列は長く、上に上がるエレベーター前に来る頃にはすっかり親密になっていた。

エレベーターの前に、ガラタ塔入場のチケットがあった。

列の切れ目がちょうどオランダ人家族と僕らの間だったので、彼らを見送り、彼らはチケット売り場でチケットを購入していた。
そうすると、ええっ?という素振りを父がして、母がそんな!と声を上げている様子が見えた。
女の子と男の子はとてもがっかりぐったりした様子である。

どうも、トルコリラの持ち合わせが無く、入場できなかったようだ。
どうしよう、なんかできないか!なんて思う暇もなく彼らは悲しげに去っていった。

塔に登って綺麗な夜景が観れたけど、妻とあー、さっきの家族呼び止めてお金立て替えてあげればよかったね、とそんなことばかり話していた。
多分もう会うことはない、オランダの家族。
疲れながら長時間列に並んで、親しく言葉を交わしたのに…

夜景は綺麗だけど、なんとなくスッキリしなかった。

翌日。
いい加減トルコ料理に飽き飽きしていたので、ベタにマクドナルドへ。
トルコオリジナルメニューもたくさんあって中々。

注文して、セットのトレーを持って席を探していると、白人の女の子が目を丸くしてアー!って声をかけてきた。
誰だろうと思って見たら昨日の家族だった。

こんな偶然!

昨日はごめんね!僕らが声かけて立て替えてあげればよかったってずっと話してたんだ!と言うと、
そんなことないよ!ありがとう、また会えて嬉しいよ!ってお父さんが言う。

しばらく話し込んで、Have a good trip!と言い合って別れた。

昨日の後悔が消えて暖かい気持ちになった。

あの家族、幸せに暮らしてたらいいな。

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