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【声色ききみみずきん】#23 美輪明宏さんの声は、性別・年齢・生死をも超越している

美輪明宏さん、1935年生まれ。
私の父と同い年の83歳(2019年現在)。

80歳を超えて、この仕事ぶりは信じられない。いつもシャキッと姿勢よく立っていらして、声量も見事。
先日拝見したコンサートでは、客席にいた高校生の男の子が、美輪さんの歌を聴いて号泣していた。年齢だけなら、おじいちゃんと孫なのに…
性別だけでなく、年齢をも超越して、圧倒的なエネルギーを発しておられる。凄い。凄すぎる。

さて美輪さんは、俳優であり演出家でもあり、シャンソン歌手でもあるのだが、クラシックの発声を勉強された方だ。深みのある独特の音声は、クラシックの発声法が土台になっている。

でもお若い頃の声は、鼻にかかった細くて甲高い声。現在の、男声でも女声でもない「美輪明宏の声」は、相当な鍛練で育て上げられた声だと思う。そうでなければ、83歳まであの声は維持できなかったと思う。

ところで・・・

私は以前、美輪さんが出演していらしたシャンソン喫茶・銀巴里で歌っていた。そのご縁で、何度か直接お会いしたことがある。最初にお見かけしたのは、20数年前。でもそれは、シャンソンとはまったく関係のない、とある小さなお寺の境内でのこと。美輪さんがマスコミに登場される機会も、今ほどは多くなかった頃のことだ。

そのお寺のお坊さんは、病気を治す神通力のあるお坊さん(!?)ということで、知る人ぞ知る存在だった。私は、知人の紹介でお寺を訪ねたのだが、美輪さんは、マネージャーらしき男性とご一緒に来られ、酷く咳き込み苦しそうにしておられた。
先日聴いたラジオ番組によると、当時美輪さんは、ストレスが多い日々で、タバコを吸い続け肺を病み、気管支炎で咳が止まらない状態だったそうだ。ご本人が語っておられた。

ここからは、あくまでも私の仮説なのだが、美輪さんの発声で特徴的な細かい震え。あれはビブラートというのだけれど、私は、肺や気管支が弱い人は、発声時にビブラートがかかりやすいのではないかと思っている。私自身も、肺や気管支が弱く、胸やノドに力を入れて発声する癖があったので、ビブラートが強く出る時期があった。

ただ美輪さんの場合は、呼吸が苦しい時だけでなく、意図的にビブラートを使っている場面もあるような気がする。おどろおどろしい雰囲気を出すために。わざと。たくみだ。

◆◆◆

美輪さんは歌や芝居だけでなく、ナレーションや声優の仕事も多い。私は、美輪さんの声の仕事のファンだ。美輪さんの表現者としての実力が遺憾なく発揮されていると思う。

「花子とアン」のナレーションや、「もののけ姫」のモロ、「ハウルの動く城」の荒地の魔女など。

主人公の健気さを、大きく包み込むような深みのある声。
登場人物の心情に寄り添い、思いやる声。
少しお茶目で、愛嬌のある声。

83歳の高齢の方が出せる声ではない。実に自在。実に柔軟で豊か。それこそ、ちょっと上の方から皆を応援し、行く末を見守る不思議な存在が発する声のようだ。

「花子とアン」の番組最後の決まり文句「ごきげんよう、さようなら」も、毎回ニュアンスを変えておられた。アクの強さは天下一品なので、好き嫌いが別れる「声」と「表現」だと思うけれど、遊び心も満載で、大好きだった。

年齢を重ねれば重ねる程、私たちの声は色濃く豊かになる。ただし、ちゃんと自分と向き合い、声を育て続けることが条件だけれど。その結果、得られた声は、魅力に富み生きてきた人生を輝かせ、聴く人を歓ばせる滋味豊かな声になるのだと思う。

目指すべきはそこかな。
70代、80代の時に、良い仕事が出来たらなぁ。
よし、今から準備をしておこう!
間に合うかな?

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