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15「思い出をつかまえて」

ティーンズハート「つかまえてシリーズ」の感想をだらだらと綴ります。

 あたし、工藤由香。都立高の2年生。
 横浜の港の見える丘の上に、ひっそりと建つ、空色のホテル。
 雲ひとつない空が、そのホテルの壁の色と同じ、ラベンダーをしていた日。
 あたしと圭二郎さんははじめて、空色のホテルの玄関ポーチをくぐったの。
 そのときはまだ、このホテルが、この色をしている理由がわからなかった。
 あたしたちを待っているはずの“奇妙な依頼”のことで、頭がいっぱいだったから……。
 
秋野ひとみ『思い出をつかまえて』1991年

すごく好きな作品です。これ。
好きというか、好みというか。
結果的に殺人とかも起きないし。
桜崎兄弟の過去が語られるのも面白いし、真理子さんもいい味だしてる。
なにより、由香の大人しそうな外見からは想像できない、えぐい性格がよく表れていてニヤニヤが止まらなかった。


依頼人の代理として突如現れた圭二郎さんの元カノ。
内容は「思い出を探してほしい」。
横浜の小さなホテルのオーナーである依頼人のもとを訪れた由香と圭二郎さん。
60年以上も前、家庭の事情で外国へ行ってしまった女学校時代の友達が隠した「思い出の品」を探してもらいたいという。
隠し場所は、手紙に書かれた「丘のリボンの結び目」だというが、どこなのか分からない。
少ないヒントに、街並みががらりと変わるほど経ちすぎている時間。
こんなんで本当に見つけられるの?というところで、経営の芳しくないホテルの所有をめぐった、きな臭い会合が開かれると知り――


思い出なんて都合のいいもので、思い返すたびにうまーく編集されたりして、良い意味でも悪い意味でも削ぎ落とされて美しくなっていくんじゃない?なんて思っていたけど、この作品の圭二郎さんみたいに、思い返しても思い返しても後悔しかなくて、キラキラしたものからは遠のいていく過去、っていうのもあるのかなー。

真理子さんの口から語られる圭二郎さん像が、なんか良い。
若干マウントを感じられるのも、また良い。
そして由香の攻撃にダメージを受けている圭二郎さんも面白い。
「思い出の品」も無事発見し、めでたしめでたしだね。

つかまえてシリーズ恒例の登場人物による「代理あとがき」が小林クンで、酔っ払った圭一郎さんも出てきたりと、ふざけた内容なんだけども、小林クンが「由香とサキ」について語るっていうのがね……。

あとがきも含めて、いいもん見たわー!となれる一冊でした。


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