トルクメニスタンの闇
"これから話すことは録音しないでくれ"
そう言って、ヒッチハイクで乗せてくれた彼は話し始めた。
トルコの大学を卒業し、現在はトルクメニスタンで先生をしている彼は英語が堪能で、地獄の門のあるdarvazaから次の目的地のAshgabatに向かうまでの車の中で、観光客の自分達に色んな話をしてくれた。
その中でもトルクメニスタンの内情が中々悲惨だったので、忘れないよう記録しておきたい。
彼が話してくれたのは"お金"のことと"警察"、"監視"について。
旅人の中では有名だが、トルクメニスタン国内では二重為替問題が発生している。所謂闇レートってやつです。
公式のレートでは$1=3.51マナト程だが、実際に私が国境の闇両替で提示された額は$1=18マナトほどだった。その差およそ5倍程。
これはもちろん国民の生活にも影響している。
教師である彼の給料は公式レートであれば、月約$1000。だが闇レートではたった$100~150程にしかならない。
バザールの商品やレストランの価格を見た感じ、国内の物価は全てこの闇レートで計算されているので、この給料では生活はなかなか厳しいだろう。
次は警察について。
首都アシガバートに向かうまでの3時間ほどの間。道路には何箇所もの検問があり、彼はその度に車を降りて道路の脇にある部屋に連れていかれていた。
どうしたの?と聞くと、賄賂を払う必要があったと言う。
彼曰く、これはこの国では普通だそう。
この国では依然として賄賂が横行していて、何かを解決する手段としてお金は依然として利用されている。
拒否すると逮捕されるという状況で、彼は払う以外の選択肢が無かった。
こういったシステムは旧ソ連のシステムが所以となっているらしく、未だに根強く残っているらしい。
最後は監視について。
最初に言われたように、彼は彼の発言が国に知られることを不安がっていた。
詳しくは聞かなかったが、おそらく国を批判するようなことを言うと何かしらの罰があるのだろう。
実際、国民の中に隠れ警察のような人々が混ざっていて、そういうことを言っていないか監視しているそう。
また携帯にsimカードを入れていたら、通信等が全て筒抜けで、国に監視されている。彼はそう言っていた。
実際に国境なき記者団が毎年発表している世界報道自由度ランキングでは、北朝鮮を抑え世界ワースト1位である。
国民の発言や同行全てが監視されている国なのだ。
この3つの話を聞いた時、頭の中で誰かのブログで読んだ情報と繋がった。
そのブログではトルクメニスタン人に話を聞いた情報が乗っており、そこにはこんなことが書かれてあった。
*
前大統領の時代まで無料だった教育費、医療費、電気ガス水道費が、現大統領のグルバングル・ベルディムハメドフになってから有料化され、人々の生活を圧迫している。
生活が困難であるため、隣国であるアゼルバイジャン等に出稼ぎに行ったり、トルクメニスタンそのものから逃げ出す人が後を絶たない。
失業率も高く、国が人々を警察官として雇用している。それによって国民を監視している。
*
生活が困窮しているのは、各生活費の有料化だけでなく、マナトの闇レートの存在が追い打ちをかけているから。
警察官になる人が多いのは国の意図として人々の行動の監視という目的もあるが、当人からしても、給料以外に賄賂として国民からお金を得られるから。
支配する側とされる側、どちらに回りたいと問われた時、支配する側に回りたいのは人の性だろう。彼ら自身の生活も掛かっているのだ。
こんな国にしてしまった当の大統領はのんきなもので、youtubeに孫とラップを披露する動画を上げたり、重量挙げをやってみたり、やりたい放題だ。
ここまで酷いと思っておらず、唖然としてしまったわたしの顔を見つつ
"It's our country, but I love this country"
と言う彼の顔は笑っていたが、何処か諦めを感じさせる表情だった。
中央アジアの北朝鮮と呼ばれている独裁国家トルクメニスタン。日本人にはあまり馴染みがないが今回幸運にも訪れることが出来、こういう実情も知ることが出来た。
今年の六月ごろ、近々日本人向けのトルクメニスタンの観光ビザ発給手数料が無料化もしくは軽減されるというニュースを見た。
今回私が行った観光名所?である地獄の門にも転落防止用に柵が出来ていた。
国の方針として観光客を増やすことで、不安定な自国の通貨より安定した外貨の獲得を目指すつもりなのだろう。
だが、観光業に力を入れる前に自国民の生活を鑑みる必要があるんじゃないか?と感じた。
やりたい放題の大統領とそれに対して何も出来ない国民。国民が仕事を失い、生活に困窮し、隣国へ逃げ出している現実。
行き着く先は見えているだろう。
ただの観光客に何も言う資格も無いけど、観光客だからこそ客観的に見れる部分もあるはず。
少しでも大統領が国民の声を聞く耳を持てばと願うばかりだ。
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