その鮮やかをどうやって忘れよう

深夜を回った頃、扉の前のライトが消え、提灯が店内に取り込まれる。商店街の一角にある、シャッターが閉まる。最後から2番目に、いつも閉まる。慣れない電車を乗り継いで、終電の阪急電車に乗り込む。酒臭いおじさん、ゲロ袋を抱えて蹲る若者、大学生の集団、そんな見慣れないものを横目にしている、アンバーバニラの香りを纏った、好きな人に会いにきた女の子。

また、都合のいい女をする、と思った。都合がいいのは、お互い様だけれど、少しだけ、寂しくなる。

シャッターの前に彼がいた。2人だけの店内で、ひたすら喋って、ひたすらお酒を飲む。意識が朦朧としてきた頃、セックスをする。通勤ラッシュになる前に、サヨナラをする。それが、私達だった。

2年ぶりに会った彼の髪は、綺麗な金色だった。少し傷んでいたかもしれないが、綺麗で、ふわふわした感触を、覚えている。すごく、似合っていると思った。

知らないお酒を飲ませてくれた。お酒の飲み方を教えてくれた。そして少しずつ、彼のことを教えてくれた。弟がいること、大阪選抜だったこと、昔よく行ったバーのこと。 

今回は覚えている。覚えているように、飲んでいた。お酒は人を大胆にしてくれるが、身体がいうことをきかなくなってしまっては元も子もない。意識が朦朧とした中でするセックスは最高だが、忘れてしまっては元も子もない。私は、覚えていたかった。片方だけ綺麗な二重まぶたと、片方だけ二重まぶたになりそうな目。とろんとした目付き。華奢な腰つきと筋肉のついた腕。声、香り、言葉、その綺麗な金色。

私は、この好きが上手くいかないことを知ってる。

私の知らないことは、彼のこと。彼の本当の気持ち。彼が私に求めることが分からない。何百人も女の子を抱いたとして、不純な恋愛をしてきたとして、近くに女の子がたくさんいるとして、私、を求める理由は何か。ただ1つは、分かる、彼は選ばれたいのだ。親友よりも、自分がいいと、嫉妬心が起こした行動であり、優越感が欲しいのだ。

私は本物の愛を知っている分、偽物の愛も知っている。だからこの好きが本物か偽物かも、知っている。

彼の髪を耳に掛ける。長く伸びた金色に触れる。どこか、嬉しそうに見える。それとも、嘲笑か、照れ笑いか。

一緒にデートプランを考える。私達は、デートがしたいのだ。恋人のようなことをして、その時を楽しみたいのだ。恋人になりたいわけでは、なかったのだ。彼のことを、知りたいわけでは、なかったのだ。

分からない。どんなデートがしたいか、練り合わせるなんて、これからの休日をお互いに使うよう調整するなんて。それを誰にでもいえてしまう彼の性格のせいといってしまえばそうなのだが、ふと、自分が彼にとってどの位置にいたら都合がいいのか、分からなくなるのだ。都合のいい、存在でいたいのだ。

お互い、好きな人も気軽に声をかけたい人もいない、少し手の空いている、フリーなタイミングが重なってしまった。それだけだ。お互い寄り道、しかし、どの瞬間でも精一杯の愛をあげたい、と思ったのだ。

marlboroの中に混ざった2本のSEVENSTAR。吸えるわけないじゃない。

彼は思っていたよりも、今の私の理想で、必要としているもの。理想というよりも、お互いの性癖の合致。

酒臭い女が好き

私のことを好きじゃない男が好き

誰かを愛するフリしかできない私達。



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